公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

【前編】レポート「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」− テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座05

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。

※今回のレポートは講師本人が書いています
みなさまこんにちは。「テンダーさんのその辺のもので生きる」連続講座・講師のテンダーです。
諸般の事情で私テンダーが今回のレポートを書くことになりました。
講師が自分の講座の意味や良さを解説するのもおかしなものですが、せっかく私が書くのであれば、当日に盛り込みきれなかった話なども含めてお伝えできればと思います。


1. 延長含め6時間。これまでで最大のボリュームとなったシステム思考回

A. システム思考とは何か?

「システム思考」とは地球上で起きる出来事の連鎖を捉えたり、理解して予測するための技法です。有限の地球上で無限の成長をすることはできない、という言わば当たり前の「成長の限界」という概念を提唱した科学者ドネラ・メドウズらによって考案されました。

人間の寿命を超える1000年単位の気象変動についてを考えたり、昨今ではビジネスシーンでも多用されています。
私にとっては「持たざる者が少ない力でどうやって物事を動かすか?」を考えるために必須の技術だと思っています。

逆に言えば、システムを理解できなければ目の前のことに右往左往して過ごすか、もしくは時間をかけてひとつひとつを試すしかあり得ません。そして時間=命こそ有限であり、複雑で多岐に渡る世界の有りように対してひとつひとつ試していては、時間も資源も足りません。

だからこそ、自分たちが何に取り組むかの方向性を理解するために、システム思考が必要なのです。

B. ここだけの話「作り込み過ぎちゃった・・・」

実は、「テンダーさんのその辺のもので生きる連続講座」中、このシステム思考回がこれまでで一番大掛かりな講座となりました。
何しろ日本語でのシステム思考の情報はまだまだ少ないため、邦訳本のない英語本の翻訳からこの講座の準備は始まったのです。

また、とっつきにくい難しそうな内容なので、人目を引くイメージ画像が必要だ! ということで風桶図バナーを浮世絵のコラージュで製作。

さらには、システム思考は多くの人にとっての通俗から離れた考え方をするため、仮にオンラインではなく対面で提供しても「わかったようなわからないような」感想を持つ人が多いものです。

それをオンラインで行なうため、たくさんのワークをオンライン用に改良し、開催前に主催である国際文化フォーラムのメンバー向けの半日リハーサルを実施し、さらにはZoomの新機能を試してみては一喜一憂しつつも、最終的には用意したワークの半分は泣く泣くお蔵入りにする、という準備の有りようでした。

当日の朝になっても内容を精査し入れ替えて、本編だけでも4時間半、さらに学びたい参加者さんとの延長時間をさらに1時間半持つという、異例の「大盛り」講座となりました。(さらには熱が入り過ぎて私は途中で熱中症になり、後半からは冷却剤を身体に巻きつけてなんとか最後まで走り切りました。危ないところだった・・・!)

C. この講座の方向性と意図

今回の講座では、

・暗黙の「社会の前提」に気づく
・少ない力でそれを変える視点を身につける(レバレッジポイントを見つける)

の2点を目的とし、
そのために私がシステムを考えるうえで極めて重要だと考える「非暴力」のものの見方、概念を学ぶためのワークも交えました。

なぜなら、私たちの文化は日常的な無意識の暴力にあまりにもさらされているので、ことさらそれを問わない価値観が定着していると私は思っているからです。

これこそ社会の前提であり、これに気づかない限り、根幹から変えようと思うこと自体ができません。


そして往々にして、多くの人が提案する解決策は「権威を利用する」「然るべき人が然るべき措置を取れば良い」といった現実とはかけ離れた、私からすれば「投げやりな解決策」であることが多々あります。

勝つ者は勝ち続け、負けるものは負け続ける社会構造を説明した際、「ではどう介入すればいいと思う?」と参加者さんに聞くと「スポーツのルールを変える」「負けた者にお金を与える」などの反応がたくさん。「誰がどのように?」と聞くと皆さん答えに困ってしまった。

仮にあなたがアメリカ大統領であれば、戦争を終わらせたり、世界平和をもたらすための大きな意思決定に深く関わることもできるかもしれません。しかしアメリカ大統領になれる人は一時代に一人だけであり、かつそのためには凄まじい競争と、(あらゆる意味での)実力と、一生涯に渡る投資と、運とが必要になります。

逆の言い方をすれば、地球上のほぼ全ての人がアメリカ大統領にはなれません。だからこそ、市井の人が取り組めて、かつ大きく物事を変える視点(少ない力で物事を変える視点)が必要なのです。

この2つをどうにかこうにか伝えようとした結果、なんと17のTips13のワーク、その他少々から構成された6時間に及ぶ講座となりました。以下に講座で説明した計32個の見出しをご紹介。

  1. Tips あなたの個性はいりません
  2. 腕を組むワーク
  3. Tips ルーティンワークを避けろ
  4. 言葉の解像度のワーク
  5. 1、2、3、GOのワーク
  6. シュブルールの振り子のワーク
  7. 大体成功のワーク
  8. 評価と観察のワーク
  9. 「ま」のワーク
  10. Tips ループ図「因果と相関の違い」
  11. 風が吹けば桶屋が儲かるのループ図を書くワーク
  12. Tips Loopyについて
  13. Tips システム原型について
  14. Tips 介入のやり方を考える
  15. バランスチューブのワーク
  16. Power of Ten

17. 折り紙のワーク
18. Tips システムとは何か?
19. Tips 指数関数的増加
20. Tips 有限性とベルカーブ
21. Tips 競争とレバレッジポイント
22. 観察する時間と範囲のワーク
23. Tips 限定合理性
24. リビングループのワーク
25. Tips テンダー言葉の厳密さループの解説
26. Tips 権威についてと生得的特権
27. Tips 時間とは命そのもの
28. Tips 思想よりもハードウェアに行動を規定される
29. ループ図を書いてみようのワーク2
30. Tips 善意の塊のループは役に立たない
31. Tips ループ図を書けないのはループ図が難しいのではなく、そもそもあなたの現実の理解がごちゃっとしているからだ!
32. ループ図実例紹介

ワークの内容はこのレポート内でいくつか解説しますのでお楽しみに!

D. 中高生がゲームのように、物事の連鎖を考察していった

中高生がリードした「これがこうなるとどうなるの?」のループ。リードをしなくても連鎖のループが完成しました。

これは面白い結果だったと思うのだけど、人生経験豊かな大人よりも、中高生の方がポンポン連鎖を考察できていました。

そしてまたそれが楽しそうで、考えることを遊びとして捉えられている様子で私は嬉しかった。いやあ、やってよかった!

おまけ. そもそも日本語の「しょうがない」って何なの?

ちなみに、この講座のタイトルの「しょうがないを乗り越えろ」の「しょうがない」って、実は英語への翻訳の難しい言葉らしく、英語での紹介を調べてみると、、、

(日本語の)「しょうがない」とは、環境をコントロールすることはできないが、不利な状況に対する(心の)反応をコントロールすることはできる、ということです。

Japanese Words We Can’t Translate: Shouganai (本文はDeepL翻訳)

・・・なんと!

「環境をコントロールすることはできないが、心の反応をコントロールすることはできる」=「しょうがない」

うーん、とても日本っぽい。 逃げも隠れもしない堂々たるなりゆき任せの日本っぽさ!

ちなみに打ち合わせで国際文化フォーラムの室中さんとお話ししていると、

「アメリカでは、日系移民1世、2世の人たちが「しょうがない」をよく口にしていたそうで、そのメンタリティに反発した3世の人たちが第2次世界大戦の捕虜収容の補償を勝ちとっていったという歴史もあるそう。

かつて、戦前や戦後直後の日系社会においてはsyouganaiはよく使われていた、とのこと」

引用元 – TJF室中さんが「英語に詳しい日本語ネイティブの友人」に聞いてみた話

うーむ、言葉に歴史ありですな。

今回の講座はまさに、心の反応をコントロールして納めるのではなく、構造全体を見抜いて理解し、乗り越えるための一助として機能した=しょうがないを乗り越えた! と思います!


2. システム思考 いくつかのワークの説明

全部説明したいのは山々ですが、読むのに6時間かかる記事になっちゃう恐れがありますので、適宜かいつまみます。悪しからず!

A. 言葉の解像度のワーク

まず、私たちが使う言葉には解像度があって、それを理解したうえで言葉を使っているかどうかが、ものを深く考えるうえでとても重要になります。

講座内では黒マジックペンのマッキーを例に説明しました。私が持っているマッキーをより明確にいうのであれば、

「鹿児島県南さつま市金峰町大坂3430ダイナミックラボ手芸室内にて、2021年8月1日◯時◯分にテンダーさんが左手の親指人差し指中指で持っている黒マジックペンのマッキー」

と言うと、およそ世界にはこれ一本しか存在しないでしょう。
これを私は「定義、もしくは哲学の方向性の言葉」と呼びます。

逆に、もっと曖昧に言おうとすれば、

「書くもの」
「棒」
「立体」
「何か」

などと、どんどん曖昧にしていくこともできます。私はこれを「メタ、もしくは包括の方向性の言葉」と呼びます。

哲学者は定義の言葉を使おうとします。催眠術士はメタの言葉を使おうとします。どちらが良いかではなく、役割が違うのです。

言葉を定義の方向性で限定すればするほど、相手の考える余白は失われます(意味の強制がある)。
メタの方向性で使えば使うほど、相手がその言葉の指す「それ」を勝手に受け手が脳内で合成します(意味の採択に自由がある)。

「大好きな小説が映画化されて、ウキウキして映画館に観に行ったが、イメージと違ってつまらなかった」という経験がある人も多いと思います。それは、役者さんや画面の色味、音楽などによって、意味の強制が行われるからです。映画は、視聴時に受け手ができる「作業」が小説よりも少ないのです。


何を言いたいかというと、例えば「世界を良くする」といった言葉を目的とし、それを大勢が合意できたとしても、それぞれの脳内で採択された「世界」「良くする」の意味する像は、他者とは全く共有されていない、ということです。

仮に軍隊という組織であったら「メタな合意」よりも「定義の合意」を持った方が組織の目的にかなうでしょう。
・「悪い奴をやっつける」⇔「沿岸部に陣営を張る◯◯国第六師団の速やかな殲滅」

デモ隊が行進をするときは「定義の合意」よりも「メタな合意」の方が、さまざまな背景を持った知り合いでもない大勢で集うというデモの目的にかなうでしょう。
・「◯◯法を成立させるために草案をまとめた代議士の3ヶ月以内の謝罪と辞任及び今後政治活動の一切を自粛するよう求め、それ以外の交渉には応じないという断固たる要求」⇔「〇〇法の見直し」

言葉には解像度があって、目的によって必要な解像度は違う、という話で、言われてみれば当たり前のことです。たとえば、

・「けん玉を頑張る」→「うまくなる」と現実を捉えるのと

・「けん玉の練習をするときは一回ずつ動画に撮りながら、スローモーションで再生して問題点を探すことを自分に課す」→「問題を見つけやすくなる」→「改善のための方法を考えられるようになる」と捉えるのと、

まるで違う過程と結果になると私は思います。

B. 無意識と身体の繋がり「シュブルールの振り子のワーク」

五円玉に紐を結び、紙に書いた丸十字の中をぶらぶらさせる、という怪しげなワークです。


十字の真ん中上空に五円玉を静止させ、心の中で「左右に動く、左右に動く」と考えているだけで、五円玉は左右に動き始めてしまいます

今度は「前後に動く、前後に動く」と考えると前後に動き始めてしまいます。

ざわざわする参加者の皆さん。「全く動かない!」という人から、「そんなに反映されちゃって大丈夫ですか?」と聞きたくなるほど動いちゃう人も。

これは何もスピリチュアルなことを言って高額な壺や布団を売りつけたいわけではなくて、ヒトには「望む力」があるという体験のためのワークで、意識が望むことを無意識がサポートしてくれている、という話です。

たとえば「昨夜のことは飲み過ぎで全く記憶がないけれど、朝起きたら自室のベッドの上でちゃんと寝ていた」という話を、「そんなのは非科学的だ! エセ科学だ! トリックがあるはずだ!」と怒ったりはしないでしょう。

ただ単に私たちの身体は「あなたが望む未来を(ありがたいことに)ある程度自動的にサポートしてくれている」わけで、これを知りながら(「無意識にもお任せできる」と知りながら)人生を数十年過ごすのと、「身体は意識的に動かそうと思わなければ一切動かない」と思って数十年過ごすのと、その差は凄まじい蓄積の差になると私は思います。


話は変わるけど、以前薬草の話をすると鼻で笑った医学生がいたんだけど、朝はコーヒーを飲むと目が覚めるからと彼はコーヒーを愛飲していた。それってコーヒー豆という薬草の、カフェインという薬効ですよ!

C. 社会の前提「大体成功のワーク」

これは完全なテンダーオリジナルワーク。ネタバレしちゃうと今後このワークがやりづらくなるけど、大事なことだと思うのでこのレポートに書いておきます。(私からしたら、今これを読んで理解してもらうのと、今後対面して理解してもらうのとだったら今理解してもらった方が、時間的に分があるので社会の変化の可能性が大きくメリットがある)

すごく簡単な質問を3つします。

ひとつめ、「あなたが朝起きて(意識が覚醒してから)、ここに来るまでにやったことを5つ書いてください。どんな簡単なことでも構いません。目を開けたとか、ご飯を食べたとか、息をしたとかでも構いません」

ふたつめ、「その中で目的を達成したものに丸をつけてください」

みっつめ、「丸が4つ以上の人は手を挙げてください」

こうやってzoomのギャラリービューを見回すと、ほとんどの人が手を挙げていました。

ということはやったことの5分の4、つまり80%以上の成功率で今日という日をを送っているというメドが立てられます。

私は「そもそも人生の98%くらい今までやってきたほとんど全てのことは圧倒的に成功していて、ごくたまにどうしようもない失敗をし、その印象はほぼ全ての成功を打ち消すくらい強いのかもしれないが、基本的にはほぼ全て成功しているから今生きている(=生が存続している)のだ」という話をしました。息も吸えていて、肺から酸素を血流に取り込めていて、脳から電気信号もあちこちに飛ばせていて、全くもって言うことなしだ。ブラボー!

そしてこのワークの名前が「大体成功のワーク」だと言うと、何人かの参加者さんは、

「え、だってこんな簡単なこと…」「成功? これを成功というの…?」といった反応で、成功を受け取れない人もちらほらいる模様。

このシステム講座の前半は、社会の前提に気づくための「ポケット・ワーク(数分で終わる小さな体験)」をたくさん組み込んでいて、なぜなら社会の前提に気づくことは問いを持つために必ず必要なことなので、受け止められないことこそきちんと正視してほしい。

「なぜ私たちはこんなに成功しているのに、学校の先生や親から『今日もほとんど成功できたね!』『なんだってできてるじゃん! これからもそうだよ! 安心して』と言われてこなかったのか? そうやって子供を育む文化があったっていいはずなのに、日本はそうではなかった。それこそが社会の前提じゃん」という話をしたところ、数人は

「むむむむ…!」と唸っている様子。

うーん、いい感じだ! 迷ってくれ、問うてくれ!

D. 因果と相関の違いについて 「風が吹けば桶屋が儲かる」

テンダーによるコラージュ「風桶図」

「風が吹けば桶屋が儲かる」は、物事の予想外の連鎖を説明するとんち話です。

「風が吹く」→「埃が舞う」→「埃が目に入って目を患う人が出る」→「失明した人が三味線弾きになる」→「三味線の材料である猫皮需要が増えるので、猫がたくさん獲られる」→「猫が獲られるとネズミが増える」→「ネズミが増えると桶をかじる」→「桶がだめになるので桶を買い換える人が増える」→「桶屋が儲かる」

さて。日常ではよく「因果関係がある、ない」と言いますけれど、因果関係とはなんでしょう?


因果関係というのは「隣り合った連鎖」のことです。この風桶話でいうと、「風が吹いて→埃が舞う」が因果関係です。「風が吹いて→桶屋が儲かる」には因果関係がなく、その代わりに相関関係があると言います。

この因果を捉えられているか、相関を捉えているのか? もシステムを考えるうえで大きな差になります。

例えば
「自己破産」→「死」と考えている人と、
「自己破産」→「いくつかの権利が制約される」&「社会的な信頼の減少」→「自由度の減少」→「楽しさの減少」→「生きる意味の減少」と考えている人とでは、
自己破産以後に取れる手立ての数に大きな差があるはずです。「自己破産」と「死」にはこじつければ相関がある、と言える程度のものだと私は思いますが、どう頭を捻ったところで因果関係はありません。

物事の理解の解像度が低いと、因果の連なりが不明瞭となり、介入する場所がわからないので、変化を起こすことが難しくなります。

E. システムの連鎖をシミュレーションできるウェブツール「Loopy」

物事の連鎖をアニメーションとして表示してくれるとっても便利なウェブツール「Loopy」。
V1.1現在、誰でもすぐに無料で使うことができます。

以下にLoopyのサムネイルを貼りました。
画像をクリックすると、loopyのウェブサイトに移動するので、システムの挙動を動的に見ることができます。
(ループ図の左側の「風」にマウスオーバーすると上向きの矢印が表示されるので、それをクリックするとシステムの挙動を垣間見ることができます)

01. 風が吹けば桶屋が儲かる(オープンループなので挙動は一度きり)

02. 風が吹けば桶屋が儲かって左うちわで風が吹くループ(自己強化)

03. 風が吹けば桶屋が儲かって桶に湛えられた水が増えて気加熱で気温が下がって上昇気流が発生せず風が吹かないループ(バランス)

システム思考を始めるにあたって必須のツールではありませんが、使ってみると「ここをこう変えるとどうなるかしら?」を試しやすくなります。

あと何より、動いているものを見るのは楽しい。

F. 世界を違う尺度で眺める映像「Powers of Ten」

こちらは10分ほどの映像。視点を10倍、10倍、10倍、と拡大していくとどうなるか、の映像です。

システムを観察する範囲で見えるものは違う、というこれまた当たり前のことを理解するための好例。

G. システム的な変化の前提、指数関数を理解するための「折り紙のワーク」

「紙は7回までしか折ることができない」という都市伝説がありますが、実際はどうなんでしょう。

2001年当時高校生だった、ブリトニー・ギャリバンさんが、「紙を半分に折るために必要な紙の長さ」という数式を発見し、彼女は特注の1000mトイレットペーパーで見事12回折に成功します。この写真がまさに12回折のトイレットペーパーなのですが、厚みにしておそらく40cmくらい(ギャリバンさんの手の大きさから推測)。ちなみにトイレットペーパー1枚の厚みはおよそ0.1mmなんです。

そこで、システム回ではA4のコピー用紙(これも厚み0.1mm)を参加者さんにできる限り折ってもらい、最後にその厚みを測ってもらいました。

完全に綺麗に潰して折れるわけではないので、計算とはズレますが、

折回数12345678910
厚み(mm)0.20.40.81.63.26.412.825.651.2102.4

7回折りで12.8mm、最初の128倍なんです。さらに続けると(11回目からはメートル表記)

折回数11121314151617181920
厚み(m)0.20.40.81.63.26.513.126.252.4104.8

12回折りでやっぱり40cmですね。そして20回折りでいきなり100mを超えて、、、

折回数21222324252627282930
厚み(m)209.6419.2838.41676.83353.66707.213414.426828.853657.6107315.2

なんと25回折ると富士山と同じくらい、30回折りで地表から宇宙空間までの距離になります。(ちなみに25回折るために必要な紙の長さはなんと6400万Km、地球を1600周分!)

青い線が紙の厚みの増加をプロットしたもの。赤い線が多くの人が想像する増加の傾向(リニアな増加)

これを指数関数的増加といい、システム的なものの増減は「最初の増加はわからないほど少しなのに、ある点をすぎると一気に増加する」という性質を持っています。

そして、人間はどうやらこの指数関数を捉える力が弱い(=直感に反する)ので、システム的な増減を見誤るようです。

人類史の人口増加であったり、

人口増加のグラフ。10億人増えるために西暦0年からは1800年かかっているが、1999年からはたったの12年で10億人が増えている。

まさに昨今のコロナ感染者増加数のグラフが指数関数ですね。


まだ当日の紹介の半分あたりですが、やっぱり長大な内容になってしまうので、次に最後のワークだけ紹介して切り上げます!

H. ループ図の勘所を理解する「リビングループのワーク」

イベント直前に公開されたzoomの新機能「イマーシブ(没入)モード」。
この機能があればできるんじゃないか?! ということで試みたのが「リビングループのワーク」です。

このワークでは、ひとりひとりの人間がシステムの一因子として振る舞います。
Aさんの左手、右手、Bさんの左手、右手、と順番にひとりひとり、手を5cmずつ上げてリレーしていきます。

・「+」のカードを首からかけている人は強化の因子として(右手を上げたら左手も上げる)
・「−」のカードを首からかけている人は、バランスを取る因子として(右手を上げたら左手を下げる)

「−」因子が偶数個の自己強化のループでは最終的に手を上げきれなく/下げきれなくなり、破綻がやってくることがわかります。

自己強化ループをリビングループでシミュレーション。人の破綻は蜜の味の図

逆に「−」因子が奇数個のバランスループではいつまでもループが破綻することはありません。波をうつようにループは挙動します。

つまり直線的な成長とは破綻を目指す行為であり、振幅とは永続であるのです。

当日は機材環境で正しく表示されない方もいらっしゃったとのことで、不備もありましたが、こうやってオンラインである程度フィジカルな講座もできるのはすごい時代だな、と私は思いました。

I. 参加者さんの声(できるようになったこと!)

中学生の面々

・私は直感や感情で行動を起こしてしまっていたのですが、論理的に考えていくことがこれから必要だと気づきました。また、違和感から新しいことが始まるということを学びました。

・ループ図がかけるようになり、関係がないように見えるものもどこかで繋がりがあることがわかった
・印象と観察の違いや、同じことを言っている場合でも言い方やその人の感情がフィルターとして入ることで印象が大きく変わることがわかった

高校生の面々

・初対面の人に自分の意見を伝える力
・物事の因果関係を考える力

・ベルカーブを意識して物事を考えられるようになった。
・どの要素を解決すれば効率よく物事を解決できるのか少し考えられるようになった

大きいお友達の面々(大人、感想)

・長時間に渡るワークショップの時間をありがとうございました!テンダーさんの鋭い指摘に圧倒されながら、システム思考に留まらない広い視野と掘り下げた考えに感動しました。昨日の命=時間を私の浅い理解でどのぐらいできるかは分かりませんが、とっかかりを頂けたのでとにかく書いてみるからやってみます!

・濃密な時間でした。漠然としか理解できていなかったシステム思考について、多くのことを学ぶことができました。勿論たった半日の勉強会で学べることには限界はあるものの、ミニワークを何度か挟むことで、単なる座学とは違った腹落ち感がありました。引き続き、関連書籍を読んだり、実際に Loopy でループ図を書いてみたりしながら、より理解を深めていきたいと思います。ただ、あまりにも時間が長くて腰が痛くなったので、次回はなるべく時間通りに終わるような進行をお願いできると、より嬉しいです。ありがとうございました。次回も都合が合えば参加させていただきたいと思います。

・今回も、とても大事な内容の講座だったと思いました。どうもありがとうございました!
物事の仕組みを知るという事は、私の中で大きなテーマなので、考える所が多く、大変興味深かったです。
「平均的な」性質をベースにする、世の中の流れを見る大きな視点、それから普段の生活や授業の中で大切にしたい、個性やアイデンティティーの多様性を見る視点、自分の中で、これらをどう位置付け、関連付けていくのか、まだ分からなくてモヤモヤっとしています。
小さなワークをすることで理解への「素材」を揃えて、最後につながるようにするというワークショップの構成は、流石!と思いました。新聞紙のワークの役割が今のところまだわかっていないのですが、もう少し考えてみます。
グループや全体でループ図を描く活動は、難しかったです。多分それぞれの思考が別の方に転がっていったので、どこまでそれに合わせて転がればいいのか、はかりにくい所がありました。もしかしたら、個人でちょっと描いてみて、それを紹介しあうステップがあったら、ループ図の感覚が少し掴みやすかったかもしれないと思いました。
また、他のグループのループや話し合いも是非見てみたいです。
システム思考やループで考えるのは、訓練が必要なので、Discordで自分のループ図を紹介しあったり、ループ図を持ち寄って話し合える場があればさらに理解が深まるだろうと思いました。
内容的にも、テクニカルの面でも細かいところまで考えられた画期的な講座だとおもいました。
そして、参加者としては6時間があっという間だったのですが、運営側の皆様、暑い中、長時間おつかれさまでした。
本当にありがとうございました。そして次回もよろしくお願いします!!

・体を早く冷やすためには、脇の下と首筋を冷やすとよいらしい。


長くなったので、続きは後編へ…


「テンダーさんのその辺のもので生きる」オンライン講座は、希望する参加者は講座終了後もオンラインコミュニティ「Discord」で、復習の成果を共有したり、わからないところを質問し合うことができます。講座を体験した人たちが知恵を交換する自主的なコミュニティが形成されていくことを目指しています。

このオンライン講座は、2023年3月まで続きます。
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」
第2回「棒と板だけで火を起こそう」
第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (準備中)
第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(準備中)
【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(準備中)
【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(準備中)

[執筆 テンダー]

[事業担当: 室中 直美]

事業データ

「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第5回)

期日

2021年8月1日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

中高校生〜大人 35名(日本、オーストラリア、スイスから参加)

サポーター

井上美優さん、大舩ちさとさん、岡崎大輔さん、木村真理子さん、草谷緑さん、宗愛子さん、武尾祐見さん、中林勇人さん、堀江真梨香さん、松尾郷志さん