公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

レポート【前編】 「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」− テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座09

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。

*このレポートは、講師のテンダーさんに執筆をお願いしました。

鉄工回では、私が開発した「火熾ストーブ」という調理効率の良いクッキングストーブの作り方を参加者さんと共有し、その過程で「重たくない鉄工」の技術をお伝えしました。

鉄工というと、溶接や回転工具でガリガリと鉄を加工するイメージを持ちがちですが、

  • ハンマーの振り方
  • やすりの掛け方
  • 弓のこ(講座中ではハイスパイマンというノコギリ)の使い方
  • 計測とケガキ(線を引くこと)

といった初歩の技術&道具の使い方を学ぶだけでも、劇的に作れるものの範囲が広がります。

またこういった基本の道具は数千円も出せば全て手に入るほど安く、かつ鉄材料はありとあらゆるところで捨てられているので無料で手に入れることもできます。

今回はペール缶という18Lのオイル缶と、ステンレス煙突を組み合わせて、暮らしに便利に使える実用調理器具を完成させることを目指しました。

目次

  1. 鉄工回設計の意図について
    A. 良いとされたものを再度解体して、オルタナティブを考案する
    B. 薪エネルギーは「暮らしのレバレッジポイント」
    C. 鉄工を覚えることで、高温に耐えるモノを作れるようになる
  2. 製作パート
    本日は溶接とドリルを使いません
    ゴトクを作る
    火熾ストーブを作る
    できた火熾ストーブに着火する(【後編記事】へ)】
  3. 座学パート(【後編記事】へ)
    A. 薪は太陽エネルギーの蓄積体
    B. 燃焼効率がいいって何?
    C. 熱の伝わり方は3つあり、しかも……
    火熾ストーブの仕組み
    理屈に効果はあったのか?
  4. 鉄工回まとめ(【後編記事】へ)

1. 鉄工回設計の意図について

A. 良いとされたものを再度解体して、オルタナティブを考案する

山暮らしやDIY界隈では、ここ20年来、ロケットストーブという「薪で調理するためのコンロ」を自作するブームがありました。「少ない薪で高い燃焼効率を得られる」というそれは大変な人気で、シンポジウムやミートアップも開かれ、ロケットストーブの作り方を解説する本もたくさん出版されました。

ご多分にもれず、私もずいぶんロケットストーブを作ったのですが、私にはどうにも使いづらかったんですね。簡単に言えば、前評判として説明されていることと、実際に使ったときの差が大きい。

そこで、熱力学の原則や、素材の特性、目的を含む全体性などを再度検討し直して、私(ダイナミックラボ)が開発したのが「火熾(ひおき)ストーブ」です。(※ダイナミックラボのある鹿児島県・日置市に掛けて命名)

結果としては、劇的な性能の改善(薪の節約、着火性能の向上、得られる熱量の増加)、メンテナンス性の向上、長寿命化が得られました。

またそれは、「ロケットストーブは良いものだ」という前評判を鵜呑みにすることなく「考えによって目的に到達する」ための、非常に重要なトレーニングでもありました。

B. 薪エネルギーは「暮らしのレバレッジポイント」

・薪を使うことで、日本の大部分である非都市では無料で熱エネルギーを得ることができます。また、ガスの使用量を減らせるので、次世代のために地下資源を残すことにつながります。

・また、日々消し炭を生産できるようになるので、CO2の固定や土壌改良に直結し、土中の生物多様性を増すことに介入できるようになります。

・薪を拾いに行くことで、自宅の周りの自然環境に目がいくようになります。暮らしの周りにはどんな樹種があり、どこの樹は枯れ、どこの樹は朽ちるのか。実のところ、自分と環境とのつながりはいたく具体的なものであり、「遠くから持ってこない、遠くへ捨てに行かない」だけで、そのつながりを実感することができます。

・常に一律のガスの炎ではなく、樹種や乾燥具合によって大きく異なる薪の炎を使うことで、熱の振る舞いに理解が及ぶようになります。それは家を快適な温度に保つことと、全く同じ原則によって成り立っています。

C. 鉄工を覚えることで、高温に耐えるモノを作れるようになる

良いこといっぱいの薪エネルギーですが、それを扱うためには900度に耐える材料を扱う必要があります。

粘土を使う手もありますが、粘土はその特性上、
・分厚くすると粘土が薪の熱を受け取ってしまい(鍋底に届けられる熱が減る)、
・薄くすれば急激な温度変化ですぐに割れてしまいます。

そこで、この講座では普段習う機会のほとんどない「鉄工」を学ぶことによって、薪エネルギーの恩恵を受け取れるよう設計しました。

何しろ人類はまだ鉄器時代なんですよ!

2. 製作パート

本日は溶接とドリルを使いません

この講座シリーズに関しては、なるべく普遍的な技術の共有、もしくは世界のどこでも再現できることを目指すので、

  • バッテリーを必要とするもの
  • 強い電源を必要とするもの

は場所が限られる、かつ初期コストがかかるので割愛しました。

普遍的な溶接のやり方

とはいえ、みんな溶接やってみたいだろうから、ひとつお伝えしますね。

「これバッテリー溶接機っていう道具、というかただ単に銅のクリップと、こっち溶接棒というのを挟むホルダーなんだけど、この先にすっごい太い電線をくっつけて、車のバッテリーを 3 台直列に接続し、クリップで溶接したい鉄を挟んでこっちのホルダーで溶接棒ジーってやると溶接できちゃうの。

家庭用電源がいらない。車のバッテリー3 つあれば世界中のどこでも溶接ができるというものであります。
両方合わせて5000円くらいで買える」

だから太陽光発電と組み合わせれば、もう太陽光発電溶接所ができちゃうね、という話です。

500円で手に入るドリル

あと俺、リサイクルショップで誰も使わないような道具を買うのが好きなんですけど、
見てくれ、このポップな見た目を!

はい、手回しドリル。

ちなみにこれ、500円で買いました。これで厚さ3ミリの鉄板に直径3ミリの穴、開きました。大変だけど。

「今日やるような煙突とかペール缶に穴を開けるんだったら十分実用。てか、す ごい簡単に開く。
これ、ブラックジャックがよく頭蓋骨に穴開ける時に使うやつだからね。キコキコ」

というわけで、誰も使わないからすごく安く買える手回しドリル、という選択肢もあります。

ゴトクを作る

「本日の鉄工講座はまず初めに、鍋を載っけるためのゴトク(五徳)を、鉄の丸棒から作ります。そのためには、バイス、金鋸、ハンマーを使います」

バイス(万力) : 材料を抑える

バイスとは、テーブルに取り付けて使う「材料や道具を固定できる器具」のこと。

これがあれば素手とは比べものにならない力で、材料を抑えたり、潰したり、曲げたりできます。

また、「バイスは3本目の手として使え」ます。鉄という比較的硬い材料を切る時にも、バイスを使うことで手が一本空くので、両手に力を入れてノコギリで切ることができます。

初めに、バイスの取り付け方の確認や、その使い方を解説しました。

金鋸 : 丸棒を切る

次に、バイスに丸棒をくわえて、切りたいところに線を引いて(ケガキ)、金鋸で切ります。

この日は片手で使える「ハイス鋼(ハイスピード鋼)」のハイスパイマンという金鋸を使いました。
そこで、金属と硬さについての豆知識。

「今、ゴトクを作っている丸棒は、「軟鉄」という炭素量の少ない柔らかい鉄です。
とても簡単な理屈として、それよりも硬い素材を使えば鉄を切ることができます」

ハイスや「超硬合金」と呼ばれる素材は軟鉄よりもはるかに硬いので、鉄を手軽に切ることができます。

というわけで、皆さん揃ってハイスを使ってサクッと丸棒切断。

ハンマー : 丸棒を曲げる

さてさて、丸棒をちょうど良い長さに切れたら、バイスに丸棒を挟んで、叩いてガンガン曲げていきます。

ゴトクの一辺を140mmにしたい場合、
丸棒の直径は6mmなので、134mmくらいのところに目印をつけて曲げれば、一辺の長さが140mmになる…はず!

自分の身体に合ったハンマーの柄の長さや、ハンマーの振り方の解説を交え、すっかり皆さん鉄工に夢中。

火熾ストーブを作る

火熾ストーブ、全体像

わかりやすく断面図にした火熾ストーブ。
諸般の事情で「ラセナイザー」という上部の部品を抜いてあります。
(講座以後の改良版ではラセナイザーを省いたため)

火熾ストーブは、

・100mm直径の煙突
・120mm直径の煙突(※講座以後に改良して、現在は150mm煙突を使用)
・ペール缶
・パーライト(断熱材)
・ゴトク
・その他石ころ(ストーブ全体を載せる、底上げ用敷石として使う)

によって構成されています。

このレポートでは、作業の要点をピックアップしてお伝えします。(実際の講座では、鉄工に関する細かいTIPSがたくさん盛り込まれていました!)

A. ビクナイザー部

いよいよ火熾ストーブ本体の製作に入ります。まず初めにビクナイザー。

画面中央のねじれているところがビクナイザー。

これは、ステン煙突(100mm径)を16分割して、折(おり)でねじって作ります。

ではどうやって円筒を16分割するか??

– 16分割メジャーを作る

火熾ストーブを作るためには、
・100mm直径の煙突
・120mm直径の煙突
・ペール缶
この3つの径の違う円筒を16分割する必要があります。

3回測ると手間なので、なるべく少ない労力で目的を達成したいところ。

ここで参加者さんに、いかに簡単に16分割を作るかをお尋ねしつつ、テンダー流の最小の手間で作る16分割メジャー案をご紹介。

紙を均等に折れば、高度な計測器具がなくても3つの異なる径の円筒に合わせられるメジャーが完成します。
「どうだいいだろう!」

その後は、金切りバサミで煙突に切り込みを入れる。

倍力金切りばさみ。
安いものであれば1000円ほどで買えるのに、その働きはお値段以上! 
暮らしから出る厚さ1mm以下の鉄板や金属板のほぼ全てを、切断加工して違うものへ作り直すことができます。

こちらは金切り用の倍力ばさみ。握ると普通の倍の力で切れるという優れもの。
車の外装くらいの鉄板なら切れちゃいますよ。

この倍力ばさみでステン煙突の16分割線にそって切り込んで、ペンチでクイっと曲げるだけで、、、

幾何学的なビクナイザーの完成です。

ビクナイザーはいわゆる燃焼筒で、この内部で薪が燃えます。

ビク状に成形したことにより、外部からの空気を螺旋状に取り入れ、かつ着火時の火種を中心に落とす役割を持っています。

B. ペール缶の底を16分割し、120mm煙突と接続する

続いて、ペール缶の底に16分割線をケガいて、120煙突が入るように準備をします。

ペール缶の底に穴を開けるときは、ハサミを立てて手のひらで柄をトンと叩く!

ペール缶の厚みは0.3mmくらい(トタン屋根と同じ)なので、こんなので簡単に穴が開きます。なんだったら、マイナスドライバーを立てて叩いてもOK!

冒頭に言ったように、ペール缶に穴を開けるだけならドリルはいらないんですね。


続いて…

ペール缶と120煙突が重なりました。この2つを接合するために、板金の技術「ハゼ折(おり)」をします。

CGでは分かりづらいのですが、ひまわりの花びらみたいになっているところは、120煙突の16分割ビラビラと、ペール缶の16分割ビラビラとを重ねて折り畳んでいます。

今回は作業を簡単&楽しくするために、斜めからラジオペンチを入れて、昔のコンビーフの缶を開けるみたいにクルクル回していく×16回で接合完了!

ほら、やっぱり溶接もいらないですね!

ただいま接合した120煙突は「反射筒」と呼んでいて、燃焼筒から発せられる熱線をもう一度燃焼筒に跳ね返すことと、下部から流入した空気を暖めて上部まで流す役割があります。

製作作業はあとちょっと、簡単!

C. ビクナイザーにラセナイザーを切る

ここで、最初に作ったビクナイザーを取り出して、ビク状ではない側を16分割して、切り込みを入れ、炎がなるべく螺旋を描くように、ラジオペンチで適当に曲げます。

これはラセナイザー。燃えた炎が螺旋を描くことで、なるべく長く鍋底付近に滞留することを目的としたものです。
(※講座以後の改良版では省かれました)

これにて、めでたく火熾ストーブの構造自体が完成しました!

断面図だとこんな感じ。

最後に、ペール缶と120煙突の間にパーライト(断熱材)を流し込んで全て完成!

「お疲れ様でした!

いよいよ火熾ストーブに着火して

これまでの疲れを癒す、一杯のお茶を淹れようではないか!

レポートの続きは後編記事にて…



[執筆: テンダー]
[事業担当: 室中 直美]

このオンライン講座は、2021年2月から2023年3月まで実施しました。
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」
第2回「棒と板だけで火を起こそう」
第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (準備中)
第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(準備中)
【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(準備中)
【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(準備中)


事業データ

「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第9回)

期日

2022年6月5日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

中学生〜大人 33名(日本、スイス、ベルギーから参加)

サポーター

井上美優さん、大舩ちさとさん、岡崎大輔さん、岡田香織さん、堀江真梨香さん、松尾郷志さん