公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

レポート【後編】「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」− テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座12

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。

この記事は【後編】です

*このレポートは、講師のテンダーさんに執筆をお願いしました。

*テンダーさんが講座でお話しをされた内容を再構成しており、基本的に、参加者のみなさんに向けて語りかける口調で書かれています。

5.折り紙コヤッシーについて

てなわけで、以上のトイレと公衆衛生の現状を踏まえて私が開発したのが、この折り紙コヤッシーです。(意匠登録済)

これは

  • 原材料費が2ドル以下で、
  • ほぼ単一材料で、かつ廃棄時に燃焼させても有害物質を発生させず、
  • 折り紙方式なので、輸送時は平面のためコストが極めて安く、
  • 自分で作るので自分で直すことができ、
  • 複製も容易で、
  • 洗浄も容易、熱湯で煮沸消毒ができ、
  • 人体から排出される窒素・リン酸・カリの大部分を回収し、
  • 有害菌類の封じ込めができ、
  • 必要なものを遠くから持ってこない、いらないものを遠くに持って行かないための

道具です。

これは、自分の認識としてはトイレではなくて、「人体からの窒素・リン酸・カリ回収装置」であり、臭いものにフタをするための道具ではなく、ヒトが地球で生きていくための挙動を最適化するために考案しました。

どうだ壮大だろう!

栄養素の回収

ちなみにですよ、人体が排出する窒素・リン酸・カリの70〜90%は、なんと尿に含まれます。うんこの方じゃないの。

「江戸時代は人糞を買いにきた」みたいな話の印象が強いから、なんとなくうんこの方に栄養が多そうな気にもなりますが、実際には尿の方。
そして、尿は基本的には無菌、かつ水で3〜10倍に薄めれば、寝かせる必要なくそのまま液肥として使うことができる。

かたや、うんこの方は大腸菌類や寄生虫など、それこそ健康を害する要因がギュギュッと詰まっている。

よって、こちらは便槽内で「発酵させよう」といった工夫はせずに、封じ込め(隔離)をし、その後灰か熱によって殺菌し、菌類と寄生虫を死滅させる、という運用を考えました。

灰について

なんとですよ、木灰は強アルカリなので、触れた大腸菌類やウィルスが数分〜1時間以内に不活化する、という研究があります。

Fig.1 に結果を示す。
今回実施した抗菌試験の結果においてはウエルシュ菌を除くカンピロバクター・サルモネラ・黄色ブドウ球菌・大腸菌 O157 に効果を発揮することが確認できた。また大腸菌・リステリア・エルニシア・緑膿菌・クロコウジカビについてもに対しても同様の効果が得られた。このことから消石灰の代替品として十分期待できる。

*上記図表、引用文ともに「P-16 竹・バーク燃焼灰における殺菌・消臭効果」(岡田 久幸, 宮崎 龍一, 伊藤 啓史)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiebiomassronbun/12/0/12_81/_pdf/-char/ja

というわけで折り紙コヤッシーでは、一回したうんこに灰をかけ、攪拌することによって大腸菌類の不活化、かつ消臭を狙います。
(このためにクリーンベンチという無菌環境獲得装置を作って、実証実験をして確認しました)

灰は基本的には世界の広範な場所で入手しやすいものなので、「遠くから持ってこない」ためにも殺菌剤として灰を選びました。

もしくは最近のアイデアとして、ペール缶黒く塗るだけで冬以外は日照で60度いくんじゃないか? てなことです。

ある程度の時間、60度に到達していれば、大腸菌類や寄生虫類は死滅します。

さてはて、今回皆さんにクリスマスプレゼントとして「可逆性サーモシール」を送っています。

これは60度に到達すると「60」の数字が浮かび上がる、ホットでクールな逸品で、ペール缶を黒く塗って、缶にこれを晴れば温度計などの器具がなくても殺菌ができそうか判断ができる。

というところで、座学一旦ここまでです。およそわかった?

-参加者 すごい。

いかに自分達の尿が、価値があるかがわかったかい?

-参加者 わかった。

うんうん。じゃあ、トイレ休憩しましょうか。ハハ。


6.コヤッシー製作パート

というわけで座学もひと段落、いよいよ折り紙コヤッシーの製作です。

(このレポートの目的は「これを読んだら折り紙コヤッシーが作れる!」ではないので、参加者さんの様子を画像を主に共有します)

1. PPシートと仲良くなる時間 ー 基本の曲げ方3つ

まずはPP(ポリプロピレン)シートの端材を触りながら、PPシートの基本的な扱い方を学ぶ。

コヤッシー製作に必要な3つの曲げ方 ー ソフト折り、ハード折り、エクストリーム折りを練習。

続いて、スナップ機構についてお勉強。

こちらもコヤッシー製作過程でたびたび出てくるスナップ。穴に対して角を斜めに差し込んでから押し込むと変形しながら穴にパチンとはまる。

2. 便座部分(Bパート)をスナップをはめ込みながら作る

これは簡単。パチンパチン。

3. 便槽(Aパートその1)を作る

左側部分が便槽、右側部分が尿受け

同じように、折りとスナップで立体にしていく。

4. 尿を受ける部分(Aパート)を作る

ソフト折りで富士山の形のようなラインを出していく。

その後はタンクと尿受けを接続するロウト作り。

ロウトは、画像左上のパーツをまるめてスナップで固定してつくる。

5. AパートとBパートを接合してコヤッシーいったん完成!

「コヤッシー作るの、慣れれば一式作るの 20分位なんだよ。だから便意をもよおしてから間に合うかもね!」

6. オプション : ホースを直接尿受けにつなぐためのニップル

この講座では、栄養価値のある尿を溜めて活用するために、ロウトを直接タンクに差し込んで使う方式を推奨している(コヤッシーのロウトは、日本で買える水用タンク10ℓ・4ℓサイズの口にピッタリはまるように設計されている)。

もしくは尿受けにホースをつないで尿を外に流したい場合は、下図のようにニップルをホースとロウトの繋ぎ目に入れてぴったり固定させる。

7. コヤッシーをペール缶の上にはめる。

8. 木の便座を据える

便座は、あらかじめ送られた設計図にそって、参加者それぞれがカットしておいたもの。
コヤッシーの裏から画鋲をさして木の便座にさしこめばより固定される。

9. 便と灰を混ぜるための攪拌棒を作り、便座に穴をあけて差し込む。

番線(鉄線)#10 (=φ3.2mm)を曲げて攪拌棒を作る。座面に斜めに穴をあけて攪拌棒を差し込む。

10. これで最後! 便槽の底のフタを固定するためのひもをつける

ペール缶の側面にマグネット式のフックをつけ、フタを閉じておくときはひもの先をフックにかけておく。
腐らないよう化繊の糸を使用する。講座では水糸を使った。

製作2時間、多数の人がコヤッシーを完成させることができました。


完成した後に、再び座学に戻ります。

堆肥と殺菌されたウンコの違い

堆肥というものがあります。

堆肥。堆肥っていうものは、微生物活動の結果(=発酵)、分解されて出来上がったものだそうです。

だから、ペール缶を黒く塗って日照で殺菌したうんこは堆肥じゃないの。殺菌されたうんこでしかない

一般にコンポストトイレというものは、コンポストっていうのが発酵っていう意味の英語だから、トイレ内にて発酵するものを指します。でも発酵させるためには体積が必要で、100L以上、200L以上ないと発酵熱をうまく持続させられない。

そうなるとどうしても大型化=高コスト化する。

冒頭の本には「行政が立派なトイレを小屋も含めて建ててあげたら、その家族はトイレを埋めて、そのトイレ小屋に引っ越した」という話がでてきます。

おそらく、高級で高機能なトイレが必要なのではないし、公衆衛生の知識を望んで受け取ってもらうことのほうが重要なのだと思う。

発酵で解決できるのか?

また、俺が習った一番簡単な発酵のやり方、堆肥の作り方は、まず堆肥小屋を作ります。

いいですか。一番簡単なやり方。
「まず堆肥小屋を作ります。」

できる?
堆肥小屋作れますか?

全世界でできる?
全世界のトイレ困ってる62億人に「まず堆肥小屋を作ります」と言う。

…。
ね、ダメなんだよ。
貧困とトイレの切り口に対して、発酵の文脈じゃ。

発酵は素晴らしい技術だ。
だけど全世界でトイレに困ってる人に対して「発酵のトイレで解決できますよ」は、そんなに都合良くいくのだろうか?と思う。

7.視座

コヤッシーは、下水より快適ではありません

コヤッシーは現状、下水よりは快適じゃないです。
水洗トイレより快適ではありません
。最初から言っておきます。

困ることもいっぱいあると思う。ただ下水のために何百億円使って、という経済的・環境的スケールと比べて、
今これ 2 ドルでトイレできちゃうけど、その差はどれくらいあるのだろうか、と。

1 億倍もコストは違うけど、快適さも 1 億倍違うか?って言われたら全然そんなことない。

言うても現状、水洗トイレの快適さの 0.5とかだと思う。
そのうえでどっち取るの?っていう話ですよ。

蝿問題

あとそう、蝿問題。蝿問題はでかいですよ。快適さと衛生に与える影響がでかい。

一番良い対策は、そのトイレがある空間に蝿を入れないこと。密閉性のあるドアがあって、窓にちゃんと網戸があって、トイレに蝿が入れないというのが一番。

もう 1 つ、蝿には走光性、光に向かって走るという性質があるので、外よりトイレが暗いと入りにくい。

あとは、排気を付けること。臭気筒っていうやつですね。

臭気筒も、電気を使ってファンを回さなくても微風で回るファンがあるのね。
自然排気ベンチレーター。
それを付けて、さらに煙突を屋根より高く伸ばして黒く塗っておくと、日照で暖まった空気の上昇気流で回ってくれる。この効果はすごい。劇的に蝿が減ります。

経験的に、トイレに空気の流れがあることが大事なんだと思う。

生命エンジン

話は少し変わって、エントロピー経済学という考えの中に、気候エンジンという概念があります。

今日晴れました、
晴れると日照が注ぐ、地表が温まる、
そこから上昇気流が発生する、風がこう上がる、
だからこっちからこう風が吹く、だから西高東低の気圧配置とか
そういう話になってきますよね。

こういった大きな地球の気候というものが、あたかもエンジンを持っているかのように駆動していくという概念が気候エンジン

同じように生命エンジンっていう概念があるんですよ。生命エンジン。

これは、山があって、海があって、ここに魚がいます。
この魚を何か四つ足の生き物がうまいこと捕まえて食べました。パク。
この四つ足が山に行ってここでうんちします。
これによって、海にあったミネラルや栄養素や色んなものが山へ移動したって考えるんですよ。

逆に言うと、これ以外に低い場所にあるものがどうやって上に来るんだっていう話なんです。

1 つは台風。台風は海水をめちゃめちゃ巻き上げて山にもう 1 回戻すんですよ。

でも、雨の場合、雨は蒸留水だから、蒸発した水が上からまた降ってくるだけだから、ミネラル戻ってこない。ミネラルって重金属だから、重い金属は蒸留水には含まれない。

だから台風とか生命エンジンによって、山のミネラルは補われる。あとは、鳥の糞。ちなみに鳥はね、生きた魚を丸飲みして、うんこの中に生きた魚とか卵が入ってて糞した先で増えたりするんだって。すごいねー、生命エンジン。

かたや、俺達ヒトはめちゃめちゃ移動できる。
海の沖の方に行って魚捕れるし、何だったら空まで行けちゃうし、地球で一番高い山にだって登れちゃう。一番高い山で野糞できちゃう。

めちゃめちゃ高い所にミネラルを返す能力を持ってるんだけど、その賢く機動性の高いはずの人間様の大集団が、なぜか下水で一番低い所にミネラルを戻してるんですよ、今

排泄という作用を通して、もう 一度生命エンジンの形を戻すことができると、俺は思ったの。

魔法とはそういうものだ

ヒトってさ、10万年間もヒトやってるらしいんだけど、俺達。

10万年間トイレの問題を未だに解決できなくて今日があることを、知ってた?

俺、冒頭の本読むまで知らなかったんだよ。何となく解決できてるんだと思ってたの。
でも全然解決できてない。こんだけハイテクだ、AIだ言ってて。


「ハウルの動く城」っていう映画の中でさ、主人公の魔法使いハウルがさ、王宮でサリマンという自分の先生に対峙するシーン、知ってる?

サリマンの魔法でね、自分のいるこの王宮には爆弾は当たらないんだって。でもその代わり、周りの町に爆弾は落ちる。「魔法とはそういうものだ」ってハウルが言うの。

俺思うんだけど、科学もまるっきり同じだよね。

下水そうじゃん。自分の所にうんこが落ちてこないんだよ。その代わり遠くに落ちるんだよ。何も変わらない。

さっき話に出たけど、中世ヨーロッパでは自分のしたうんこを窓からこうやってベシャーって外に投げてて、今でもケニアとかタンザニアでは、フライングトイレとかヘリコプタートイレって言って、ビニール袋にしたうんこをそのまま振り回して、ビューンって投げるんだって。

「ここになければそれでいい」

それは問題を解決しないというよりも、むしろ悪化させる。魔法的なやり方、科学的なやり方なの。

そうじゃなくて、不十分だろうと、何だろうと、今自分がトイレらしきものを作りました。で、自分で使う。

「解決の形」を自分が決めること

俺は自作のトイレ、もう 10年使ってます。

この折り紙コヤッシー使い始めて今 3 か月位。子供達も使ってるんだけど。家族全員使っていて、下痢が頻発したりなどは特にない。

まぁ問題はあるよ。すぐペール缶がいっぱいになっちゃうとか、6 人家族だから色々あるんだけど、でも成立してるんだよ。

どこにも自分達のうんこを押し付けてないんだよ。10年間、うちの家族。

さて、どっちが目的に近いか。

「完全な解決法、完全に衛生的で、完全に快適で、完全に皆が認めてくれる解決法」を、いつか誰かが作ってくれるのを待つのか、
「それなりに不十分だけど、さしあたり 10年間うちの家族は誰かにうんこを押し付けてない。それで良くね?」っていうものの考え方と、
どっちを我々は今、手に取れるんだろうね、というのをこの講座の準備を通してすごく想った。

この講座を始めて2年間、準備から入れると2 年半なんだけど、かなり大半の講座に参加してくれたリピーターの皆さんもいらっしゃって、世界の見え方って相当変わったと思うの。

鉄を曲げられるようになったり、トイレ作れるようになったり、3D設計できるようになったり、火の起こし方がわかったり。

結局のところ、それしかないんだよ。

1 個ずつそうやってできるようになって、物の見え方が変わって
大勢が右往左往する出来事に対して、「あーそれ、別に俺にとって問題ではないよ」って言えることがどれだけ増えていくか、増やせるか、しかないはずなんだけど、

なぜか皆科学という魔法を信じて、自分の上に降ってくるうんこを遠くにやるばかりの日々になっちゃいましたね、日本は。

だからぜひ、…何て言うのかな。
「魔法などないのだ」という覚悟を胸に、一緒にトイレを作る人生を歩みませんか、というお誘いで、ものづくり回の終了の言葉とさせていただきます。

2年間、ありがとうございました!


[執筆: テンダー]
[事業担当: 室中 直美]

このオンライン講座は、2021年2月から2023年3月まで実施しました。
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」
第2回「棒と板だけで火を起こそう」
第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (準備中)
第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(準備中)
【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(準備中)
【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(準備中)


事業データ

「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第12回)

期日

2022年12月25日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

22名(日本、タイから参加)

サポーター

井上美優さん、堀江真梨香さん