公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

実施レポート「棒と板だけで火を起こそう」 − テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座02

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。

▶︎ 毎回、講座の開始前にテンダーさんとTJFが参加者のみなさんと共有している「失敗は失敗じゃない」「受信という考えかた」「ミュートしないという実験」「YSS(りたくないことはなくていいステム)などについては、こちらにまとめました。あわせてお読みください。

第2回の講座では、日本各地のほかオーストラリアやスイスから参加した23人のみなさんが、何万年も前から伝えられてきた火起こしを体験しました。

棒と板だけで火を起こす − 技術は見て盗む

今回、体験する「もみぎり式火起こし」とは、板と棒を使い、手のひらで棒を回転させて火を起こす古典的な方法のこと。必要なのは、立ち枯れしたセイタカアワダチソウでつくった火切り棒と、杉の板(火切り板)と麻ひもをほどいた火口(ほくち)です。

左:セイタカアワダチソウの茎でつくった火きり棒  中:杉の板でつくった火きり板  右:麻ひもをほどいた火口(ほくち)

テンダーさんは、「技は盗むものだよ。しっかり見てて」と声をかけ、火起こしを始めました。

火切り板に小さなくぼみを彫り、その先に切り込みを入れます。彫ったくぼみに火切り棒を立て、両手ではさんで素早く回転させながら手を上から下へと動かします。

それを数回繰り返していると、煙が立ち、火切り板の下には黒い粉がたまってきました。

それを火口で包みこんで「フー」と息を吹きかけると、ボワッと大きく燃えて火が立ちました。

オンラインで見ていた参加者のみなさんは歓声をあげ拍手。1分も経たずに、火が生まれた瞬間でした。

なんで自分がすると火が起きないんだろう? − 問答を繰り返して答えに迫る

参加者もさっそく火起こしにチャレンジします。みなさん、テンダーさんのやり方を見よう見まねで試してみるものの、一向に煙が立つ気配がありません。なかなかうまくいかず、何度も繰り返しているうちに手が痛くなり、疲れてしまった様子。

「体力は有限。体力を使いはたさずに火を起こすには、たくさん考える必要がある。どうしたら火はつくのか? なぜつかないのか? を考えてほしい」とテンダーさんは声をかけました。ここから、テンダーさんと参加者の問答がはじまりました。

いま足りないものは何?

テンダー 「ものが燃えるには何が必要ですか?」
参加者 「空気」
参加者  「燃えるもの」
参加者  「温度」

テンダー 「いま足りないのはなんですか?」
参加者 「熱?」
テンダー 「どうして熱が足りないってわかるの?」
参加者 「燃焼が起こってないから」

テンダー 「空気、燃えるもの、温度の3つが必要。どうしてどれが足りないかわかるの?」
参加者 「空気はあるし……」
参加者 「燃えるものもあるし……」
参加者 「摩擦が弱くて温度が低いから」

テンダー 「なるほど。みなさん、棒を回転させてから杉板を触ってみてください。どう? 触ってみると熱いかどうかがわかる。ちなみに杉の発火点は230度。触って熱いなと感じるくらいだと50〜60度。ぜんぜん熱くなかったら温度は上がってないってこと。つまり100回繰り返したって火はつかない。必要なのはフィードバックです」

参加者たちはさっそく火起こしを行ない、すぐに板を触って熱があるかどうかを確認しますが、ぜんぜん熱くないようです。

そこでテンダーさんは温度が上がらない参加者に向かって、さらに問いかけます。

テンダー 「なぜ温度が上がらないんでしょうか?」
参加者 「摩擦が十分じゃないから」
テンダー 「どうして十分じゃないんですか?」
参加者 「木がこすれてないから」


テンダー 「いま発生させたいエネルギーはなんですか?」
参加者 「熱エネルギー」

テンダー 「熱エネルギーをつくるために、何をしてるんですか?」
参加者 「摩擦熱を起こそうとしている」


テンダー 「摩擦を起こすために何をしてるんですか?」
参加者 「棒と木をこすり合わせてる」

テンダー 「棒と木をどうやってこすり合わせてるんですか?」
参加者 「回転させて、下に向かって押しつけながら」

テンダー 「お!? 今やっている運動は2種類ある。下に押し下げることと回すこと。どっちが足りないの?」

問答はさらに続きます。

なんで音が違うの?

テンダー 「ヒントを言います。さっき、温度を確認するのに木を触って、触覚のフィードバックを使いました。フィードバックは他にも見る(視覚)、聞く(聴覚)、嗅ぐ(嗅覚)、味わう(味覚)がある。もう一度火起こしをやりますので、音を聞いててください」

参加者 「音が…ない?」 (実際には低い音が出ていた)

テンダー 「そう。ちなみにみんなのまねをしてみます。(参加者のやり方をまねて火起こしをしてみせる) 音が高いの。なんででしょう?」
参加者 「下に押しつける力が弱くて、回すのが早すぎるから」

テンダー 「なんで下に押しつける力が弱いと音が高いの?」
参加者 「えーと。なんだろう。うーん」
参加者 「棒と板がぶつかるから」
テンダー 「弱い力も強い力もぶつかるよ」


参加者 「摩擦エネルギーではなく、音エネルギーに変わってるから」
テンダー 「わかるように説明してみて」
参加者 「えーと。なんだろう」

テンダー 「どうして高い音が出るのかな?」

参加者 「接してる面積がせまい?」
テンダー 「お? 近い! どうやって低い音が出るか、やってみればわかる」

(実際にやってみる参加者のみなさん)

参加者 「回しすぎない?」
テンダー 「回してもかまわない。単語で答えて正解を“当て”ようとするんじゃなくて、考えてください。やっている運動はさっきみんなが気づいた2つだけ。押し下げと回転」

参加者 「(火切り棒の)先っぽを細くする?」
テンダー 「するとどうなるの?」
参加者 「そしたら接触面が小さくなるから、音が小さくなると思う」
テンダー 「やってみるといいよ」

「やってみます!」と答えた小学生は、自分で立てた仮説を実証しようとさっそく試していました。

木くずは何なんだろう?

参加者 「木くずが出るっていうのは、下に向かってる力が板にかかってるってことだから……押す力がもっと必要?」

テンダー 「そもそも木くずは何なんだろう?」

参加者 「杉板が削れたもの」
テンダー 「どうしてわかるんですか?」
参加者 「杉板の穴がどんどん大きくなっているので」

テンダー 「削れるってなんですか?」
参加者 「杉の一つひとつの細胞の塊。つまり杉を構成している物質が摩擦ではがれ落ちてくずれること?」

テンダー 「摩擦ではがれるってなんですか?」 
参加者 「爪でひっかいた時に皮膚がはがれるみたいな」

テンダー 「なんではがれるの?」
参加者 「うーん。くっつく力より強いからですか?」

テンダー 「おぉ! いやあ、素晴らしいね。強い力が加わるから、はがれるんだよね。ちなみにそれは『ファンデルワールス力(りょく)』と言います。すごく大事な話をするよ。料理の保存とかに使うラップってどうしてお皿にくっつくか知ってる?」

参加者「摩擦?」

テンダー「違う。ファンデルワールス力なの。みなさん、ご唱和ください。ファンデルワールス力!」
参加者「ファンデルワールス力!」

テンダー「地球の、宇宙のすてきな出来事なんだけど、近づきすぎた2つのものはぴったりくっついちゃう。ラップを一度はがしちゃうともうつかないでしょう? それは空気中の微生物とかほこりが入っちゃって距離が離れてファンデルワールス力が失われちゃうから。火起こしをやってると粉が出ます。どうして出るのかというと杉の細胞と細胞がファンデルワールス力でくっついているのがはがれているから*」

*セルロース(植物の細胞壁や植物繊維の主成分)間の結合にはファンデルワールス力のほか、水素結合もあるが、ファンデルワールス力のほうが弱いのでその結合から先にはがれていくと考えられる。

「熱崩壊」にたどりつく!

テンダー 「ここで質問です。水を温めると100度で湯気になるでしょ? なんでなるの?」
参加者 「固体が気体になって状態が変わるから」
参加者 「エネルギーを加えたら、どんどん動きが大きくなる」

テンダー 「なんの動きが大きくなるの?」
参加者 「分子の動きが大きくなって……。熱が加わるっていうのは振動でしたよね?」

テンダー「そう。人間の体に置きかえると、運動すると体温が上がるっていう現象は、体の細胞がくっついてる結合の動きが、いつもよりも大きく動くから起きる。ほかにも、油は低い温度だと固まっているけど、温めるとだんだんとろっとしてきて、もっと温めるとさらさらになって、最後に蒸発しちゃう。それは固く結合していた分子どうしの力が、熱が加わることによって弱まって切れちゃうからなの。いま木をこすってるのは、火切り棒の回転と押し下げで、杉板の分子結合を崩しているから。杉板が粉になるのは分子が崩壊してるから。『熱崩壊』ですよ。縄文時代からここまできたんだよ!」

テンダーさんが矢継ぎ早に繰り出す「どうして?」「なぜ?」という問いを手がかりに、参加者たちは観察と思考を深めながら火起こしを試みました。プロセスを通して本質にたどりつく学びは、この講座が目指すところです。理科や化学の授業で習ったことのある「燃焼の三要素」「分子」「摩擦」「熱力学」といった断片的な知識が、“火起こし”を通して結びつくことで網羅的な知識となり、知識が経験と融合していく時間となりました。

講座中に、火口に火種を移すところまでたどりついた人は何人かいたものの、火を起こせたのは1人だけでした。テンダーさんは、火起こしを習ってからちゃんとできるようになるまで3ヶ月かかったそうです。また、火起こしに精通するため、1年半の間、毎日のように火を起こして料理をしていたと言います。「練習あるのみ」とテンダーさんはみんなを励ましました。

文化としての火起こし−火種は赤ちゃん

最後に、テンダーさんが、北米先住民の知恵と技術を継承する「トラッカー・スクール」で教わった話をしました。

北米先住民の文化では、「火起こし棒はお父さん、火起こし板はお母さん、火種は赤ちゃん、火口(ほくち)はゆりかご」で、火起こしは「自分の子どもを産むこと」だと考えます。テンダーさんが必死で息を吹きかけて火を起こそうとしていると、「お前はそうやって子どもを育てるのか?」と問われたそうです。

また、起こした火は水をかけたり、踏んで消したりしません。「必要があって生んだものなのだから、消えるまで待つ」のだそうです。北米先住民は火を命として捉えているのです。

テンダー 「かれらが火起こしをほめる時、うまいとかできてるとか言わないの。『Beautiful(美しい)』ってほめるの」

フィードバックを得る方法とは? ー 自分の体で試す。道具を使ってみる

この講座では、本文で紹介した以外にもさまざまな方法でフィードバックを得ようと試しました。
   
●自分の腕をさすってみる
○ 弱い力で
A:ゆっくりさする
B:早くさする
→ Bのほうが熱い

○ 強い力で
A:ゆっくりさする
B:早くさする
→ Bのほうが熱い

▶︎「早く」かつ「強く」力を加えると、より熱を生み出すことがわかった。

   
     
●道具を使ってみる ー 体重計
アナログの体重計の上で火起こしの作業をしてみる

▶︎ どれくらいの押し下げの力が加わっているのか可視化することができる。
テンダーさんの場合は5〜6kg、参加者は2.5kgほどと、テンダーさんの半分の力しか加わっていないことがわかった。

▶︎ ここから再びみんなでテンダーさんの火起こしを観察した結果、テンダーさんは手の動きとあわせて上半身全体を下げていっていることに気づく。

ちなみに……
テンダーさんによると、「0.8kgでもうまくやれば火はつく」そうです。
鍵となるのは、力の強さ、回転のスピードを、常に均一にできるかどうか。
とくに、手を棒の下まで押し下げてから、再び棒の上へと移動するタイミングは、力の強さや回転スピードが落ちやすい。

講座が終了しても、希望する参加者は、オンラインコミュニティ「Discord」で、復習の成果を共有したり、わからないところを質問し合うことができます。講座を体験した人たちが知恵を交換する自主的なコミュニティが形成されていくことを目指しています。

このオンライン講座は、2023年3月まで続きます。
▶︎ 第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」

[取材・執筆協力 薮下 佳代]

[事業担当: 室中 直美]

事業データ

「棒と板だけで火を起こそう」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第2回)

期日

2021年3月14日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

中高校生〜大人 23名

サポーター

井上美優さん、岡崎大輔さん、武尾祐見さん、中林勇人さん、堀江真梨香さん