公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

レポート【後編】 「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」− テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座09

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。

この記事は【後編】です

*このレポートは、講師のテンダーさんに執筆をお願いしました。

目次

  1. 鉄工回設計の意図について【前編記事へ】
    A. 良いとされたものを再度解体して、オルタナティブを考案する
    B. 薪エネルギーは「暮らしのレバレッジポイント」
    C. 鉄工を覚えることで、高温に耐えるモノを作れるようになる
  2. 製作パート
    本日は溶接とドリルを使いません【前編記事へ】
    ゴトクを作る【前編記事へ】
    火熾ストーブを作る【前編記事へ】
    できた火熾ストーブに着火する
  3. 座学パート
    A. 薪は太陽エネルギーの蓄積体
    B. 燃焼効率がいいって何?
    C. 熱の伝わり方は3つあり、しかも……
    火熾ストーブの仕組み
    理屈に効果はあったのか?
  4. 鉄工回まとめ

できた火熾ストーブに着火する

さてさて!

みなさんが鉄工を覚えながら頑張って作った初作品・火熾ストーブにいよいよ火入れです!

「その辺のもので生きる」講座はオンライン講座でありながら、このときは参加者さんが全世界で一斉に火入れをおこないました。

お湯を沸かす人もいれば、目玉焼きを焼いた人も!

普段見ない勢いの火柱が上がるので、モニター越しに悲鳴やら雄叫びやらが聞こえて、

まあ…控えめに言って

大騒ぎでした!

3. 座学パート

休憩をはさんで、火熾ストーブはなぜこんなに盛大に燃えるのか? の座学に入ります。

A. 薪は太陽エネルギーの蓄積体

まず薪というのは、太陽熱エネルギーを植物がその体に蓄積したものです。

そのエネルギーの塊に「着火という介入」をすると、爆発的なエネルギーの解放が起きる。

要は30年生の木の薪を燃やしたら、ざっくり30年分の蓄積された太陽熱エネルギーが解放され、私たちはそれを調理に使う訳ですよ。すごい話だよね。

B. 燃焼効率がいいって何?

いわゆるロケットストーブの図

次に、ロケットストーブなどの話題で語られる「燃焼効率」。
燃焼効率がいいって、具体的にどういうことなんでしょうか。

俺が思うに、ロケットストーブの文脈では、

燃焼効率がいい=薪が早く灰になる

以上おしまい。

…。

でも、調理用ストーブで薪を燃やすのは灰を作るためではなく、食材に火を入れるためですよね。
だから、本来必要なのは

「調理効率」であって、燃焼効率ではないんです。

ゆえに仮に薪のエネルギーが100だとして、俺の思う良い調理ストーブは、

「100のエネルギーを食材に伝えられる」

ということになります。

実際に調理ストーブを使う場合は、薪→鍋→食材というように、熱エネルギーのリレーがあり、都度損失が発生するので100のまま伝わることはない。

また、ロケットストーブではよほど上手に運用しない限り、燃えカスが残ります。
酸欠によって燃焼できなかった薪や炭が残るんです。

その時点で、薪のエネルギー100を取り出せてませんよね。
1kgの薪を入れて、200gの燃えカスが残ったら、鍋に伝わる前に既に燃焼効率は最大でも80%ということになります。

熱を経験で捉える

んで、すごい簡単な話ですけど、例えばあなたの前に焚き火があります。

  • その焚き火のそばにいるのと、
  • 遠くにいるのと、

どっちが暑いでしょうか?

当然、近くにいた方が暑いですよね。

もし焚き火が熱かったら、多くの人は無意識に距離を取ります。

これは、焚き火の発してるエネルギーが100だとして、そのエネルギーは「焚き火(熱源)のそばにいた方が圧倒的に多く受け取れるから」です。

もう少し詳しくいうと、この熱さの元は「輻射(ふくしゃ)」という熱エネルギーです。

輻射は、温度のあるもの全てから360度1080度、放射状に全方位に飛んでいきます。

この輻射のビームはまっすぐ進むのですが、上の図の通り、
熱源から離れれば離れるほど同じ面積あたり(この図では座ってる人の高さ)を通過するビームの数は減ってしまうので、離れるほどに輻射のエネルギーは小さくなる、というわけです。

太陽からのエネルギーも、このビームがほぼ真空の宇宙空間を通過して地球までやってきて、大気の塵や、地表にあたることで地球は温まっています。

かたや、ロケットストーブって薪から鍋が遠いうえに、90度、L字に曲がりますよね。

炎からの輻射は鍋底に届きますが、熾(薪が真っ赤に燃えているところ)からの輻射はほぼ届きません。

また、「燃焼効率を上げる」ために、燃焼筒を伸ばした「高いバージョン」を作ったりするので、鍋に届く輻射熱はさらに弱まります。

それって、本当に熱は鍋に「効率よく」伝わってますかね??

以上、従来のロケットストーブは輻射熱というものをあまり考慮せずに設計されているように私は思います。

C. 熱の伝わり方は3つあり、しかも……

もう少し、燃焼効率のくだりについて説明します。

熱の伝わり方は3つあって、

  • 伝導 (=物質の内部を熱が移動すること)
  • 対流 (=暖まった空気や水がちょびっと軽くなって、上や横に移動すること)
  • 輻射 (=温度をもつものから発せられる波が、他のものに熱を伝えること)

があります。

さてここでちょっと古い引用となりますが、

Dr. J. L. Finck, director of the Finck Laboratories, Brooklyn, New York, formerly with the U.S. Bureau of Standards, stated in the Jan. 1935 issue of The Architectural Record:

“It is an experimental fact that, of the total heat transferred across an air space, from 50 to 80 percent is transferred by radiation.”

ニューヨーク州ブルックリンのフィンク研究所所長で、元米国標準局所属のJ.L.フィンク博士は、1935 年1 月発行の『The Architectural Record』1で次のように述べている。

空気空間を伝わる全熱量のうち、50%から80%は放射(輻射)によって伝わるという事実が、実験結果から導き出されている
(テンダー翻訳)

原典: Dr. J. L. Finck, the Jan. 1935 issue of The Architectural Record、引⽤元:“Heat flow by radiation in buildings: simplified physics” by Alexander Schwartz, Infra Insulation Inc. , 1956年(引⽤箇所は25 ページ“REFLECTIVE SPACES”), Public Domain Mark 1.

という話がありました。(2023年現在、なぜか日本の建築の話題は「輻射熱を止めない断熱施工」の話題ばっかりですが)

「屋内の熱移動の50-80%は輻射によって伝わる」

もしこれが正しいのであれば、それはおそらく調理ストーブ内でもある程度同じで「じゃあそれを試してみよう」というところから火熾ストーブの製作は始まりました。

火熾ストーブの仕組み

火熾ストーブの熱に関する主要構造は

  • ビクナイザー(燃焼筒)
  • 反射筒
  • 断熱層

の3つです。

ビクナイザー

ビクナイザーの燃焼上の役割は4つ。

  1. 着火性の向上
  2. 空気を螺旋状に取り込む
  3. 薪の燃焼位置の最適化
  4. 煙突効果による吸排気

– 1. 着火性の向上

図にもある通り、下部がすぼんでいるので紙などに着火した火種が、必ず中心に落ちます。

ロケットストーブなどでは、投入した薪に火種がうまく接しないために火がつかない、ということも多々ありますが、ビクナイザーがあれば火種投入後、20秒後には火柱が上がります。

– 2. 空気を螺旋状に取り込む

ビク部の切り込みが螺旋状のため、火種によって発生した上昇気流が、ビクナイザー下部から螺旋状に空気を吸い込みます。

これにより、薪の360度に酸素が行き渡りやすく、意図せぬ燃えカスや消し炭がほとんどできません。

また、ビクナイザーはロケットストーブの燃焼筒に比べれば格段に短いため、薪の輻射熱がより多く鍋底に届きます。

これは裏返せば、薪から噴出された可燃性のガスが燃える時間が短い、ということでもあるのですが、螺旋状の空気が通ることによって、燃焼筒内での空気の対流時間が伸びます。

よって短い燃焼筒(=煙突)ながら、輻射と酸素供給のいいとこ取りを可能にするのがビクナイザーです。

– 3. 薪の燃焼位置の最適化

ごく簡単なことですが、ロケットストーブのように薪を寝かせば、その地面側はなかなか燃えません。(これにより、薪を入れすぎる→酸欠&温度低下になり余計に燃えなくなる、の悪循環が起きる)

また、投入した薪のどの部分が燃えるかがわからないので、投入した薪分の熱量を、必ずしも投入タイミングで得られるわけではないのです。

それに対し、薪を縦に投入し、かつ鍋直下に薪があり、その下端から燃えているのであれば、投入した薪の量と引き出せる熱量が感覚的に一致します。

これは地味なようでいて操作性に大きな違いを生みます。

火熾ストーブは、欲しい熱量に対して、直感的に薪の太さを決めることができます。

– 4. 煙突効果による吸排気

煙突効果とは、簡単に言えば煙突の中で何かを燃やせば、下から上にすごい勢いで煙突内の空気を引っ張るよ、という現象です。

仮にビクナイザーがなかった場合、吸気が弱くなるので、常時うちわで仰いだり、火吹竹で吹いたりする必要があります。(キャンプの時の焚き火の着火を思い出してください)

反射筒と断熱層

– 反射筒について

反射筒(講座では120mmステン煙突)があることによって、ビクナイザー外面から発せられた輻射熱が反射し、再度ビクナイザーへと戻ります。

講座内での反射筒は120mmでしたが、その後これでは「焼きが入る(熱により性質と色が変わってしまった)」ことがわかったので、150mm煙突に変更しました。

より効率を上げるのであればアルミの反射筒を使えば良いのですが、アルミは高価であり、オンライン講座では使用をやめました。(注 アルミの融点は660度なので、ビクナイザーにあまり近いと溶けてしまいます)

また、反射筒はビクナイザーに取り込まれなかった空気を暖め上昇させ、上部で火と混ぜるダブルスキンとしての役割も持っています。

– 断熱層について

ビクナイザー、反射筒が外気によって冷やされないように断熱しています。もし可能であれば、断熱層を減らしてでも反射層を150mm筒、170mm筒、190mm筒と同心円状に並べていった方が燃焼に寄与する可能性もあります。

ここらへんはもう、ご予算と欲しい効果に応じて、ですね。

理屈に効果はあったのか?

さてはて、これだけ理屈を並べて作ってみたものに、果たして狙った効果は現れたのか?

結論から言うと、、、

とってもありました!

まず、火熾ストーブではビクナイザーは全体が真っ赤に赤熱します。これはビクナイザーの温度が800度近辺まで上昇していることを意味し、炉内でアルミを溶かすこともできます。

その温度の恩恵は、

  • 500ccのお湯を沸かすのに2〜3分
  • 4号の米を炊くのに13〜15分

という驚異的な速さからも見てとれます。

また両者ともごくわずかな薪(ロケットストーブの1/2〜1/3程度)で目的を達することから、薪のエネルギーが大幅に鍋底に届いていると推察できます。

火熾ストーブでカロリーの高い薪を上手に燃やすと、炎の色はオレンジから黄色に近い状態(=温度が高い)に見えますが、黄色だとしたら太陽表面の温度みたいな話になってしまうので、これはきっと主観ですね。

4. 鉄工回まとめ

火熾ストーブを作るために必要な鉄工の技術と知識は、1970年台であれば中学生が技術の授業で習うレベルのものです。

かたや、ロケットストーブの作り方が公開されて、多くの人が「これならできそうだ」と思って作る。作って楽しい、使って楽しい。

でも、「なんか不便だぞ?」とか、「思った風には燃えないぞ?」とか思っても、「でもまあ世界的に評価のあるものだし!」ということで溜飲を下げてしまう

「これは根本的に理屈がおかしいんじゃないか?」と思って、微改良ではなくそもそもから作り直す人がほとんどいないわけです。

今回で言えば、「中学生が習うレベルの鉄工技術」+「熱というものへの理解」があれば、オルタナティブを創り出すことができた。その「熱への理解」も自分で到達したわけではなく、90年も前の研究に基づいているわけです。

ささやかな技術と、よく調べること。

この2つを扱えれば、まだ見ぬ未来を創り出すことなんてそんなに難しくないと俺は思うんだけど、

多くの人は一歩踏み出すための足場よりも、はるか遠くのハイテクやAIを凝視しているようです。

人類はまだ鉄器時代なのに、ね。

火熾ストーブの開発には、ダイナミックラボに修行滞在していた岡田香織さんに大きくご尽力いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。



[執筆: テンダー]
[事業担当: 室中 直美]

このオンライン講座は、2021年2月から2023年3月まで実施しました。
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」
第2回「棒と板だけで火を起こそう」
第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (準備中)
第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(準備中)
【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(準備中)
【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(準備中)


事業データ

「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第9回)

期日

2022年6月5日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

中学生〜大人 33名(日本、スイス、ベルギーから参加)

サポーター

井上美優さん、大舩ちさとさん、岡崎大輔さん、岡田香織さん、堀江真梨香さん、松尾郷志さん