公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

レポート【後編】「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」− テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座06

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。

1. 自然素材で縄を綯う

講座の後半パートは、自然素材を使った縄綯いからスタート。テンダーさんからは、繊維が強くて長いイネ科の植物か、強靭な繊維をもつ苧麻類を入手する課題が出ていました。見本用にテンダーさんが用意していたのは「カヤ」の名でくくられる背の高いイネ科の草の一種。

この草から2束を手に取ると、テンダーさんはすごい速さで手の中で揉み、1本の縄を生み出しました。

「こんな動きで植物の繊維を縄に変えていきますが、いきなり草からは難しいので、まずは練習。みなさん、色の違う2本の箸は用意できているでしょうか? 

まずは手をすり合わせて、この箸2本を時計回りに回します。左手を向こうに送り、右手を手前に引く。手を動かし続けると手前側に来た箸が掌からこぼれそうになるから、手前に来た箸を左手の親指で挟んで向こう側に持っていく。この時、手のなかのそれぞれの箸単体は反時計回りに回転する。

この動きを繊維で繰り返すと、縄ができます。それじゃあ、やってみましょう」

2本の箸を手にしたものの、1本ずつの回転の向きと2本の位置関係にとまどう参加者たち。とまどいを抱えたまま、素材を箸から草へと持ち替え、草に撚りをかけていきます。

テンダーさんいわく、撚りがかかった繊維は元の姿に戻ろうとして、かけられた撚りとは反対回りに回ろうとするそう。それぞれに撚りを元に戻したい2条の線維の束が近接していると、それぞれがお互いに巻きつき合ってほどけない1本の紐になる、というのが縄綯いの原理なのだとか。

縄を綯っているうちに、どちらかの束が細くなってきたら、2条の交わる点に新たな草を追加。合わせて撚り合わせることで、長さが決まっている草から長大な縄を生み出していきます。テンダーさんの手に収まった草はするすると1本の縄になっていきますが、参加者のみなさんは思うようにはいかない様子。草履(ぞうり)を編める長さに達するまで、テンダーさんはロープにまつわるお話を紡いでいきます。

2. 北米先住民の技術「コーデージ」

「縄をつくる方法としてもうひとつ『コーデージ』をご紹介します。これは北米先住民に伝わる技術。苧麻のほうがやりやすいけど、カヤの人はカヤでもいいです。カヤの人は葉を割いて細くして、その繊維を束ねて使ってください。コーデージは細い紐をつくるのに向いた方法です。罠とかアクセサリーとか、小さい物に使う紐をつくる技術です。

それでは手元の繊維に撚りをかけてみてください。繊維にねじれる力をかけていくとある点でクルンと輪っかができます。今回の話題とは関係ないけど、これをスーパーコイリング現象といいます」

「みんなスーパーコイリング現象を発生させられた?皆さん、手の中にスーパーコイリング現象はありますか?」

<参加者>「ありまーす」

「それではスーパーコイリング現象を噛みます」

<参加者>「噛む?」

「噛みます。クルンを噛んで下さい。そして、さらに撚りをかけていきますが、撚ってた方向は今までと一緒にしてください。つまり、左右の手に持つ繊維を両方指で同じ方向に撚りながら、指でかける撚りとは反対の向きに全体を回転させる。さっき手のなかでやった縄綯いと同じことを口と手を使ってやる感じ」

<参加者>「さっきより簡単! しゃべれないけど」

「これがコーデージ。これのいいところは、歩きながらもできること。いろんな植物が材料になりえます。コウゾとかミツマタとかカジとか、和紙を作るような木の樹皮の下の繊維はだいたい使える。南日本にあるダンチクの葉やトウモロコシの葉っぱでもできる。葉っぱが大きくて細長い植物は、だいたいいける印象ですね。たまにくわえると苦い植物もあったりします」

3. イロコイ族とロープとアメリカ

ユーラシア大陸とアメリカ大陸を隔てるベーリング海峡
Rainer Lesniewski / Shutterstock.com

「アメリカのイロコイ族の伝承をまとめた『1万年の旅路』という本があります。アフリカで発生した人類があちこちを巡ったのち、北米をうろうろして、最終的にイロコイ連邦を成立するまでの1万年間の口伝の歴史を書き留めた物です。だから、人類が保持している記録で最も古いものは石板じゃなくて口伝なんですよ。この伝承のなかでロシアとアラスカを繋ぐベーリング海峡を渡る話が出てくる。

当時のベーリング海峡は、まだ何とか歩いて渡れるかどうかっていう深さだったそうです。でも、猛者は行けるが体力のない人は行けない、って感じで。ここに来るまでにイロコイ族はずいぶん減っていたけれど、生きのびるにはここを渡るしかない、ってなったときに太い縄を綯って、ベーリング海峡を渡ったんだそうです。屈強な男2人がその縄を担いでいって、飛び石に括りつけて、女子供がそれを手繰る、というのを繰り返してアメリカ大陸まで渡ったんだそうな」

「そして北米に渡ったのち、イロコイ連邦っていうのができる。イロコイ連邦には民主主義制度ができ、裁判をする時はAとBとCのグループに分かれ、AさんとBさんの喧嘩だったとしてもCさんが入る。A、Bの主張を3人持ち回りでそれぞれ違う立場でやってみて、異なる立場を理解しながら、最終的に族母と呼ばれる女性の長老が結論を出す。それがアメリカ連邦の設立の憲法の礎になってるの。だからそんなに古い国じゃないのにこんなに成長したのは、この民主主義を継承したからだ、という話を聞いたことがあります。面白いね。

だから、ベーリング海峡を渡ったときのロープがなかったら、アメリカっていう国の憲法がそもそもどうなっていたことか。壮大でしょ?」

4. 幸福と利益を与える縄綯い機

「ここでひとつ、動画を見ていただきましょう。その前に、佐賀県佐賀郡の農村で生まれ育った宮崎林三郎さんをご紹介したいと思います。宮崎林三郎はこんな言葉を残しています。

縄綯い機こそが、農家に幸福と利益を与える

宮崎さんは生涯を縄綯いの機械を作ることに捧げ、1905年縄綯い機の製造に成功しました。では見てください。これが縄綯い機です!」

縄を2本の管に通すと縄になってドラムに巻き取る縄綯い機。

「2本のラッパ管っていうパーツが回りながら、管に入れられたワラを2本とも同じ方向にねじる。さらにそれを逆転するように巻き、最後にドラムに巻く。これこそが農家の幸福と利益なんですって。すごい。

何とこれがヤフオク3000円で売られていて購入したんだけど、今日までに直せないか挑戦したけど間に合わなかった。でもこのドラム巻き取り機構を省いて、鞄におさまるサイズの軽量な3Dプリント縄綯い機を俺は作ろうと思っています。散歩しながらどんどん縄を作ることができるやつ。歩きながらこうやって」

5. 線から面、面から立体になる

「さて、いろんな面からロープについて学んできましたが、そろそろ皆さん、植物も動物の毛も髪の毛も全部ロープにできることに気づいたでしょうか? 筋肉の繊維だってロープになる。昔は鹿の背中の一番強い筋肉を弓の弦にしたそうです。近代で言うとビニール袋もロープになる。だから、やろうと思えば、かなり色んなものからロープを作ることができる。

俺の髪が長いのも、いざとなればロープにするため……じゃなくて単に床屋に行かないだけなんだけど」

「今日のワークの締めくくりとし、今から編み物を編むという作業があります。結局、繊維を取って縄をつくることは、無限の長さの獲得と、無限の強度の獲得なんですよね世界にある蔓や動物の毛や強い素材はみんな有限な長さだけど、編むという行為によってそれを無限に長く、強くしていけるロープの獲得は、強度と長さの獲得でもある。そして、もうひとつが線と面の変換です」

そういって、テンダーさんが参加者に見せたのは簡素な道具で編まれている植物質のシート。

「筵(むしろ)の薄いのが薦(こも)。冬に樹木に巻いたりする。薦巻きのこも。見ての通りカヤをちょっとずつ紐で縛っているだけ。俺が使った薦編み機は段ボール箱に切れ目を3つ入れただけ。ここに紐渡して、コマっていう重石を紐につけて編んでいく」

段ボール箱こも編み機(左)。切れ目に渡した紐にコマという重石をつけて編んでいく

「これはちゃんとした薦編み機使ってるけど、別に何でもいい。棒1本でもできます。苧麻だったら紐に編まずに割いただけの繊維でも同じことができる。重石を行ったり来たりさせながら次の一段を足すだけで線から面に変わる。そうすると筵ができる。薦と筵っていうのは日本の断熱材であり緩衝材。冷たい地面の冷気をあげたくない時に筵を敷く。これのいいところは、わざわざその織機を作って横糸、縦糸こうやって、やっていかなくてもラフにできちゃう。細い竹やアシ、セイタカアワダチソウで作ったら簾(すだれ)とか葦簀(よしず)になる。この要領でワラを編んで、両端をつなげて筒にして、口を閉じたらつぼませて俵になる。それってどういうことかって言うと、線から面、面から立体になったことで輸送道具になったってこと」

「以前、ナイフ1本で山籠もりをしたことがあるのですが、山籠りでは、日没までにすべての作業を終えなきゃいけない。寝床となるシェルターを作り、火を起こすための道具を作り、薪を用意し、水筒を作って水源を見つけ、食べられるものを探す……とやることが多い。初めて行った場所でそれをやるには、輸送の手段が必要になる。そこで最初に作るのは籠(かご)。籠がないと手で持てる以上の輸送ができません。だから蔓で籠を編むのが最初にやる作業になります。線から面になり、面から立体をつくり、輸送の手段になる。それが「編む」とか「綯う」の本質です。発展させれば機械構造に繋げることもできるし、前編で見せたように、動滑車を使って力の保存もできます」

6. 「足半」を作る

それでは、生み出した線を面にしてみましょう、とテンダーさんが説明を始めたのは「足半(あしなか)」の作り方。足半とは足裏全体ではなく、足裏の前半分だけを保護する短めの草履のこと。大きさが小さいので、少ない縄でもつくれます。

「さっきは草履(ぞうり)をつくるのにおよそ1.8mの縄が必要って言ったけど、足半でいいなら自分の体の中心から手の先位までの長さの縄があれば1個編める。今日編んだ縄が1mちょっとある人はそれを使いましょう。ない人は買ってきた自然繊維ロープを使って。これは天然藁だけど棕櫚(シュロ)でもいい。麻紐は腐るから麻紐はやめたほうがいいかな。それでは皆さん、1mあるかしら?」

<参加者>「うーん、一応」 「たぶん、あると思いますね」 「太さに若干不安があるけど……」

「よし、やってみよう。不安だったら買ったものを使ってください。俺も説明が見やすくなるから市販のものを使います。これは一分五厘っていう太さです。およそ4.5ミリ。二分まで行くと足が辛い。紐を指先でつまんで、ピンと張り、正中線に達する長さが足半には必要です。

それでは皆さん、あぐらが組める環境ですか?」

そういうとテンダーさんは紐を真ん中でふたつ折りにして足の指にかけ、紐に草の繊維をからませ始めました。

「ここからは俺の解説を聞いてもいいし、先にお送りしている秋田博物館の『ゾウリ作り』の資料を参考にしてもらってもかまいません。こちらの資料はゾウリだけど、長さが違うだけで足半も作り方は一緒です。」

<参加者>「足がつりそーう!」

「あぐらがきつい人は、テーブルにクランプを2個かければ足の代わりになります。あぐらが辛いとか、膝が悪いとか状況的にあぐらが難しければ、クランプなどで工夫してください」

こうして始まった足半作り(手順は複雑なので、上記で紹介した秋田博物館の『ゾウリ作り』をご参照ください)。紐が細かったり短かかったりなどの問題をクリア(つじつま合わせ?)しながら参加者は少しずつ、足半を編み込んでいきます。足が載る底面部分を作り、鼻緒をすげて1時間ほどで完成に漕ぎ着けました。

「デビュー作はいつだって未完成。短すぎたり、細すぎたら誰か足の小さい人へのプレゼントだと思ってください。やり直すよりも完成させることから学ぶことの方が多いから。今日、これで皆さんは植物から繊維を取り、それで紐を作り、その紐から道具を作り出しました。このあとは紐と道具の話をしたいと思います」

7. ロープは猟具と武器になる

「今、見せているのが富山のホタルイカ漁で使われる網。稲藁で作った網で毎年漁の終わりに海に沈めて漁礁にするそうです。昔から、自然素材の網の漁礁にはすごく魚がつくって言われています。見てのとおり、植物の繊維が編めれば、収穫を得るための漁具を作ることができる」

「わかりやすいのが弓矢。これはヤブツバキで作った弓。この弓の強さでも、苧麻で編んだ紐なら十分弦を張れる強度がある。ナタを1本持って山に入ればこんな弓が数時間位で作れる。そしてこっちは俺が先住民技術の学校で習った『親子の弓』の日本版。2枚の竹を合わせた強化弓。これは竹を割って2本裏表で貼り合わせていてそれを紐でくくってあるだけ。これなら紐さえあれば1時間かからない」

テンダーさんが作ったヤブツバキの弓(中央)と2枚の竹を合わせて作った日本版「親子の弓」(右)

テンダーさんは紐を使ったさまざまな猟具を紹介していきます。石を高速で遠くへ放つスリング。紐の両端に石を繋ぎ、獲物に当たると絡めとるボーラ。木をたわめて、その反発力でトリガーを踏んだ動物の足をくくるローリングスネア。

左: スリング(photo, Public domain, from Publicdomainvectors.org),
中央: ボーラ(photo, Public domain, from FreeSVG.org),
右: スネア(photo by Travis, CC BY-NC 2.0, from Flickr)

紐があれば、人力だけでは生み出せない力を得られるし、自然素材の猟具・漁具は分解するからゴーストフィッシング(腐らない素材でできた漁具が際限なく生物を殺し続けること)が起こらない、とテンダーさん。

「紐があれば猟具が作れて、それはそのまま武器にもなる。俺は、有事の際にどこに行くと一番安全かを自分に問うことが必要だと思っていて、先住民の技術はそれに役立つ。隠れる技術であったり、食物を狩る技術だったり。いざという時に山に逃げて紐を作り弦にして弓矢を作れるっていうことが、俺は平和に生きていくためにも必要な技術だと思っています」

8. 結論。「ロープとは文明そのもの」

「今回の講座を用意しながら至った結論が『ロープとは文明そのもの』であるということ。自然繊維は有限の長さを持っているけれど、編むことで無限の長さ、無限の太さ、無限の強さに変えていける。そこから武器も作れるし、衣服も作れるし、住居にも発展するし、断熱材にもなるし、緩衝材にもなるし、すごい色んな所に広がっていく。だから紐を作るのは文明そのものだと思います」

そして、テンダーさんの思索は、手の中の紐から現代社会へと広がっていきます。

「とあるフットウェアメーカーが海洋ゴミから靴を作ったという話題を皆さんはご存知でしょうか。海に浮かぶプラスチックから格好よくて値段の高い靴を作って、我が社は海洋問題に取り組んでおります! みたいな。でも再利用された素材が使われていても、履いてたら底が削れてマイクロプラスチックがいっぱい出るわけです。そもそも海洋プラスチックを集める、それを洗浄する、洗浄すれば汚れが流出する、それを捉えるための回収する装置を作る、などなどこの手のリサイクルは労力も資源も使う。その代わり、大きなお金が手に入る」

「それに対しての草履。家の前のカヤをひと掴みちぎり取って、編みました、藁草履できました、履きました、歩いてもマイクロプラが出ないし、水虫菌が増える環境もない。使い終わったら土に返り、近所からは草刈りしてるから褒められる。こんな草履は、工業製品の靴と比べると短命だけど、トータルで環境に与える負荷が小さい。俺は、今後目指していくのはこんなあり方なんじゃないかと考えています」

「資本主義の経済には、お金の貸し借りによって実体のない価値を生み出す『信用創造』という仕組みがある。それに対して、現実に存在するものや価値でまわっていくのが実体経済。この実体で生きることを突き詰めると、自給的な暮らしに近づいていくんだけど、そういう暮らしを実践する人は、現代では賢者ではなく変わり者として扱われる。でも、地球環境を考えたときには、藁草履を履いてるほうが、どう考えても合理的じゃない? しかも、日本が何千年と繊維植物を使った結果、人の利用に耐えられる関係性が人と繊維植物の間に生まれている。せっかく人と植物とが相互に利用し合う生態系が形成されているのに、人間側はこの100年で草を使わなくなった。

今、目の前で手に入る自然繊維から暮らしをどう構築するかは、多分すべての人が取り組めるテーマだと思います。カヤや苧麻があればロープも作れるし、家も作れる。服や断熱材にもなる。カヤの根っこは甘くてお茶にもなる。現在はそんなカヤをガソリンと労力を使ってエンジン草刈機で根絶やしにしようって頑張ってるけど、人と何千年も付き合っていたカヤはそんなことに負けない。やるべきことは何だろうか? っていう話でした。おしまい!」

9. 講師コメント

この講座は、私の中でも大きな転換となった思い出深い講座です。

私は28歳の時に、北米先住民技術の学校である「トラッカースクール(アメリカ・ニュージャージー州)」に行きました。そこで草を撚り縄を綯う方法を習い、それから10年もの間、折々に自然繊維からロープを作っていました。

ところが、縄を綯うという行為が「暮らしを構築すること」とリアリティを持ってつながったのは、なんとこの講座を準備している最中、つまり10年を経てからだったのです。

自分は、草から縄を綯うことができる。草履も編める。ロープワークも知っている。茅葺き屋根のことも知っている。スリングショットを作ったこともある。機械や力学のこともわかる。

ところが私の暮らし自体は、電気・水道・ガスのインフラこそ自作システムで賄っていたものの、その他の部分はマイクロプラスチックを撒き散らすプラスチック製のサンダルを履いていて、強度が必要でもないところを結ぶためにわざわざ化繊のロープを使い、ポリカーボネートという強力なプラスチック製の(そして環境ホルモン物質を垂れ流す)屋根を使いDIYで家を増築していました。

知っているのに、能力としてできるのに、「草」という視点から暮らしや文明を貫き構築するということが、態度としてまるで備わっていなかったのです。


この講座を準備しているときに、私はふと思ったのです。

マイクロプラも出さない、環境負荷もない、お金もかからない、余っていて誰でも手に入る材料で、使い終われば堆肥になり、30分で一足編めるアシナカ草履がヒトの考案した「はきものの答え」じゃなかったら、何がこの地球上での答えなのか?

たぶん、これ以上完成されたレベルの技術と智慧は、今の地球上にはありません。

それなのに、なぜか、本当になぜか「アシナカ草履は奇抜だし突飛なので、ちょっと履くならいいけど、毎日履くように暮らしをシフトするのは無理だよね」と、ごく当然のことのように考えている自分に驚きました。
裏返せばこれまでは、「いつか誰かがテクノロジーを使い何の問題もない靴を作ってくれるだろう」と無意識の信仰を持っていたのだと思います。

この気づきの瞬間に、私は考えました。

  • すでにある、数千年持続していて今なお合理性のあるはきもの「アシナカ草履」と
  • いつかもたらされるかもしれない「テクノロジーが生み出す理想的な靴」と
    どちらを信じる方が、まともなのか。

それともうひとつ。

いつか」っていつだよ!!!


私たちが健気に信仰している「解決策らしきもの」のほとんどは、もしかしたら商業主義に端を発する「刷り込まれた幻想」ではないのかと、立ち止まって精査する必要がありそうです。

なぜ私たちは、すでに問題を生まないはきものがあるのに、いずれ問題を生まない靴が開発されると、何の保証もない信仰を持っているのか?

私が言えるひとつ確かなことは「未来に答えがある」という考えは幻想だということ。
もしかしたら、未来は今よりよくはなるかもしれませんが、
だからといってこの瞬間の、今・現実に答えを出さなくていい理由にはなりません。

今、すでに継承されたものの中に十分答えはあるはずです。
あとはそれを信じるか信じないか、それだけの話だと私は思います。


「テンダーさんのその辺のもので生きる」オンライン講座では、希望する参加者は講座終了後もオンラインコミュニティ「Discord」で、復習の成果を共有したり、わからないところを質問し合うことができます。講座を体験した人たちが知恵を交換する自主的なコミュニティが形成されていくことを目指しています。

このオンライン講座は、2023年3月まで続きます。
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」
第2回「棒と板だけで火を起こそう」
第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (準備中)
第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(準備中)
【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(準備中)
【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(準備中)


[取材・執筆: 藤原 祥弘]
[編集: テンダー]
[事業担当: 室中 直美]

事業データ

「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第6回)

期日

2021年10月3日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

中高校生〜大人 30名(日本、オーストラリア、スイスから参加)

サポーター

井上美優さん、岡崎大輔さん、堀江真梨香さん、松尾郷志さん