「自分が欲しいもの」を信じること

武蔵野美術大学

「自分が欲しいもの」を信じること

PEOPLEこの人に取材しました!

小山 裕介さん

デザイナー、株式会社torinoko代表

私たちがお話を伺ったのはデザイナーの小山裕介さんです。小山さんは京都出身で、京都の短期大学を卒業したのち、武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科に編入しました。その後玩具メーカーや無印良品で商品企画・デザイン業務を経験しています。現在は株式会社torinokoを立ち上げ、京都の事務所を拠点に、古来から日本各地で作られてきた伝統工芸品である郷土玩具の技術や職人の方々をつなげる活動、木材を使った家具のデザインなどを行っています。
私たちインタビューメンバー3人は、今までいわゆる「都会」に近い場所で暮らしてきました。そこで郷土玩具を扱う小山さんは「都会」と「田舎」という言葉の間にどう境界を感じていらっしゃるのか、お話を伺いました。

郷土玩具との出会い

郷土玩具との出会いは2011年、震災もあり東北復興を間接的にも応援できないかという福缶企画を無印良品で立ち上げたことがきっかけです。この企画は、福袋のように缶の中に郷土玩具が入っているというものでした。この企画のために日本中を回って作家さんのところへ行って、コミュニケーションとりました。その後郷土玩具は徐々にブームになり郷土玩具自体の認知度も増えてきましたが十年以上経つと、廃業される作家さんも増えてました。それで作家さんたちとのネットワークを大切にしなきゃいけないなと思ったんです。だから今は展示もこまめにしながら、郷土玩具を伝える活動と販売する活動をやっています  

小山さんが企画した展示「虎寅展」

作家さんたちはみんな変な人でしたよ()。アーティストに近いというか。儲かる儲からないというより、欲しい人に届けたいという感じでした。 

福獅子というのがあって、僕たちの会社が運営するネットストアでも、特に可愛い郷土玩具です。でも、作家さんが、全然つくってくれないんですよね。つくってもすぐ売れちゃう。これが結構安くて、最近値上げしましたって、100円だけ上げました。みんながもっと上げてって言っても、郷土玩具はそういうもんじゃないって(笑)。

伝統的な福獅子は、四角い木から作られています。でもこの作家さんはアレンジして土人形にされました。形もだんだん丸くなっていった。この作家さんは、もともと大分にあった郷土玩具である福獅子を、昔はこんなものがあったんだよって伝えたくて、そのニュアンスを入れながらつくっていった感じです。

郷土玩具もやっぱり伝統とはいえ、何回も廃絶したりしているものもあって、もう誰も原型がわからなくなって、残ってる資料からつくっていくしかないということもあります。一子相伝みたいなことが出来るところもありますけど、そうじゃないところもたくさんあります。でも、この作家さんみたいに弟子入りしたわけでもなく、自分で郷土玩具を復元している作家さんもいます。

作家本人たちも大して儲からないし、これをやる意味ってなんだろうって思っています。でも、郷土玩具が好きだからとりあえず一生懸命頑張る、という感じで作家さんたちも作られています。

僕は、郷土玩具をもっと知らせなきゃとか思ったことは、あんまりないです。ないっていう訳ではないですけど、郷土玩具はやっぱり作家さんのものなんで、僕自身はギャラリーのキュレーターみたいな感覚で、なんかこんな面白い人いるよみたいな話で郷土玩具や作家さんを紹介させていただいています。

自分のものづくりと郷土玩具のものづくり

僕も無印で家具やおもちゃを中心にいろいろつくってきたんですけど、なんか本質的に作家さんたちとあまり変わってなくて、お客さんの欲しいものを優先してつくってない。お客さんがほしいって思うものって、実際それが出たら出る頃にはもう欲しくないものが多いんです。ものの価値とか、魅力の方を優先して、本当に使いやすいもの、本当に機能性のいいものを追い求めていました。

やっぱりちゃんといいものさえつくったら、市場が認知してくれると思っています。だから本当にいいものをちゃんとつくりたいっていう方を優先しているのでターゲット層を決めてっていうのはそんなにやってないです。基本的に自分ですね、自分がこれ面白いと思うかどうかを大切にしています。自分じゃないターゲットのものだったら周りの人や友達が好きかどうかっていう判断。それはすごく大切にしています。で、あんまりそうじゃないものはやりたくないかな。自分があんまり好きじゃないものとかはつくらない。自分が面白いものなら子どもも面白がってくれるだろうとか、身近な人がやっぱり喜ぶものをつくりたいなという感覚ですね。だって、顔も知らない人の欲しいものをつくることは難しいでしょ?なんか割とそういうモチベーションでずっとものづくりをしてて、もう 20 年やってるからこれは変わらないです。だからマーケティングしてターゲットユーザーを決めてっていうよりかは、自分や周りの人が使ってくれそうな良いものを想像してつくっています。郷土玩具の作家さんも利益取りたいってわけじゃなくて、ちゃんと買いやすい値段でいいものをつくりたいっていう思いがあるので、そういう意味では郷土玩具と自分のものづくりは結構一緒かなと思ったりはしますね。  

小山さんの作品

都市のわすれもの

僕は実際、京都に住んでいると田舎ってどこやねんみたいな感じがあって、別に京都も東京からしたら田舎だし。でも東京の人が考えている田舎って車に乗ってどこまで行くの?みたいなね。行くところはイオンしかないみたいな、そんなとこそうそうないでって。どこ想像してんねんみたいなのは結構思ったりします。だからこそ、東京の人がイメージする田舎っていうのは、いったいどこなのかっていうのは、その境界が気になります。みんなが想像する田舎って、意外とどこにもないんじゃないかって思ったりします。

僕が好きな言葉で「枯れた技術の水平思考」っていう言葉がありまして、特許を使うにはめちゃくちゃ高額になるし、そのデバイスを生んで普及するためには、めちゃくちゃ時間がかかるじゃないですか。でも、そうじゃなくて、もうすでにある普及されて枯れてた技術を、新しい視点で探して、組み合わせることで充分面白いものができるのでは? ということが、この横井軍平さんが言っている枯れた技術の水平思考なんてですよ。伝統工芸にも似たような事が沢山あると考えていて枯れた技術がいっぱいあるわけですよ。でも都市はそれをもう忘れてる。常に新しいものしか求めてないじゃないですか。けど僕はその枯れた技術を、もう一回見つけてきて、こんなのあるから、それ使ってこういうのをつくったこれは面白いでしょ、今でも使えるでしょ、って見せていきたいんです。昔あるものをもう一回、今でも使えるようにして行くっていうのは割と好きというか、それをうまく組み合わせながらできるんだったら今でも使えるし、それが役に立ったらいいかなと思ったりしてます。都市と田舎に境界はないかもしれない。でも、そういう意味ではつなぎたいなと思ってます。

小山さん

(インタビュー:2023年6月)

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