私のヘアメイクの仕事 〜在日コリアンの結婚式を支える〜

法政大学

私のヘアメイクの仕事 〜在日コリアンの結婚式を支える〜

PEOPLEこの人に取材しました!

任志向さん

ヘアメイクアーティスト

在日コリアン*3世で、在日コリアン向けのブライダルヘアメイク担当。小学生から高校生まで朝鮮舞踊を習い、舞台衣装やメイクに触れる機会が多く、もとから関心があった。そのため、在日コリアン専門のヘアメイクアーティストがいることを知り、技術を習得することにした。ブライダルのヘアメイクでは在日コリアンカップルだけでなく、日韓で国際結婚をされる方のヘアメイクを担当することもあり、素敵な結婚式になるようにサポートしている。任志向さんに在日コリアンだからこそできるヘアメイクのお仕事について聞いた。
*在日コリアンとは、日本に住む朝鮮民族のことであり、日本に永住している韓国籍、または、朝鮮籍を持つ人のことを指す。現在の在日コリアンは日本で生まれ育った3世、4世、5世で主に構成されている。

Q.お仕事を始めたきっかけはなんですか。

20代前半の頃に参加した結婚式で初めて在日同胞の方専門のヘアメイクさんがいる事を知って感銘を受けました。その頃は、ブライダル専門で活躍されるヘアメイクさんがいる事も知らなかったので、是非、 技術を習得し、この仕事につきたいという思いが強くなったのがきっかけです。

Q.どのような方がご利用されるのですか。

主にブライダルヘアメイクの仕事を担当しているので、新郎新婦様のヘアメイクやお式に参加されるご親族やご友人さまのヘアメイクを承る事が多いですね。 他には、成人式やイベントなどのヘアメイクも行っています。

仕事への姿勢

Q.お客様のニーズに応じるため、意識していることはありますか。

情報が溢れている現代において、SNSを活用されている方はかなり多いと感じます。そのため、どんなお客様のニーズにもお応えできるように、流行りのヘアメイクに関しては常にアンテナをはり、探究することを意識しています。さらに、ヘアメイクをする際にお客様の理想に近い仕上がりになるようヒアリングにも力を入れています。なお、ヒアリングをしてお客様の理想とお客様に似合うヘアメイクを提案し、お客様が素敵な1日を過ごせるようにお手伝いしたいと思っています。

国際結婚とヘアメイクの仕事

Q.韓国式の結婚式の割合について教えてください。

全般的な割合は把握していませんが、チマチョゴリ*やパジチョゴリ**をお召しなって、韓国式にお式を行う方の国際結婚の割合は2〜3割程度です。2〜3割程度というと少ない気がしますが、以前は在日コリアン同士の結婚が主流であり、3世、4世になるにつれて国際結婚についての意識が変わり、韓国ブームもあったため増えたのではないかと感じます。

*チマチョゴリ:朝鮮民族の民族衣装であり、チマ(スカート)とチョゴリ(上着)からなる女性の装い。
**パジチョゴリ:朝鮮民族の民族衣装であり、パジ(ズボン)とチョゴリ(上着)からなる男性の装い。

Q.国際結婚についてどうお考えですか。

新しいことを積極的に吸収したいという方や柔軟に環境の変化に対応できるという人にとっては、国際結婚は良い刺激になるでしょう。 実際に私が担当した国際結婚カップルの中にもポジティブに捉えている方が多かった印象があります。同じ国籍でも地域が違うと文化も違うはずだと思います。その為、国籍は関係ないと思います。グローバルな時代において、国際結婚に違和感を感じたことはあまりありません。お互いを大事にし、尊重し合う気持ちがあれば、国籍などあまり壁にならないのではないかと思います。風習などの違いはあると思いますが、それも踏まえた上での結婚を決められたと思うため、国籍などは関係なくまずはお二人の幸せを願い、ヘアメイクの立場でお式当日を素敵にしてあげられるように、変化を恐れず、日々、進歩していきたいと思ってます。

Q.ヘアメイクのお仕事をしていて身についたスキルや知識はありますか。

在日コリアンの方の結婚式の場合、韓国式服 、ウェディングドレス、お色直し用チマチョゴリという順番で3着お召しになる方が多いと思います。その為、韓国式ヘアスタイルとドレスなどの洋装に合うヘアスタイル両方の技術を習得し生かしています。韓国式服とウエディングドレスなどの両方に合うヘアスタイルができることがスピーディーで、且つ、お客様の満足するヘアスタイルにして差し上げることができます。

成人式の前撮りの様子:任さんがヘアメイクをしてくれた

在日コリアンの特色と変化

Q.在日コリアンの結婚式というととても賑やかな印象があるのですが、日本の結婚式と在日コリアンの結婚式の違いはありますか。

圧倒的に違うのは参列の方の人数ですね。日本の方の結婚式の場合、40名〜80名位です。一方、在日コリアンの方の場合は、150名〜300名位の方が参列されます。多くはご親族と新郎新帰さまのご友人や職場の方達ですが、他にご両親のご友人、地域でお付き合いのある同胞の方達を招待している印象があります。少なくはなってきていますが、披露宴後に新郎新婦へのお祝いの気持ちを込めて、韓国民謡を歌いながら、みんなで手を繋ぎ輪になって踊る光景を見ることができます。この行事を韓国語で「출판(チュルパン)」と言います。人数が多いとやはり会場は自然と賑やかな雰囲気になるでしょう。

Q.在日コリアンの結婚式のスタイルの変化についてどうお考えですか。

在日コリアンの方の場合は、人数が多いため、対応いただける式場も限られていて、ほとんどが在日コリアンの結婚式に慣れている式場を選ばれることが多いと感じます。そのため、プランナーやアテンド、キャプテンなど、皆さん顔見知りの方が多いです。最近では教会式も増えてきていますが、多くの場合、「宴内人前式」と言って、披露宴会場内にて、ご友人やご親族の前で結婚の誓いを立てて承認してもらい、そのまま披露宴がスタートするという流れになります。これから結婚式のスタイルも少しずつ変わってくるとは思いますが、古き良き時代の物は取り入れながらも現代のニーズにあった結婚式のスタイルに変化してきている時期なのだと思います。

今後の抱負

Q.現在、韓国ブームがあるなかで、日本でやりたいことはありますか。

韓国ブーム、凄いですね。日本の方の中にもチマチョゴリをお召しになりたい! または、韓国へアスタイルやメイクをしたい!という方がかなり増えてきているように感じます。そのため、ブライダルに限らず、そういう方達に向けて、チマチョゴリを着付けして、ヘアメイクをし、色んなスポットに行き、撮影などができたら良いですね。浅草などに行くと着物や浴衣を着て、撮影している観光客をよく見かけます。チマチョゴリに関しても、もう少しラフに取り入れてどなたでも着られるようなものにできたら理想です。

(インタビュー:2022年11月)

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