公益財団法人国際文化フォーラム

好朋友文化体験の場報告

好朋友体験の場、巡回訪問

2019年の11月から12月にかけて、中国4ヵ所(黒龍江省・ハルビン市、遼寧省・大連市、上海市、広東省・中山市)にある好朋友日本文化体験の場(以下、体験の場)を訪問しました。
体験の場を有する学校の日本語の先生は、2019年7月と、10月に実施した研修(国際文化フォーラム主催)に参加し、文化を取り入れた授業実践に向けて、文化を取り入れるとはどういうことなのか、そのための理論と方法について講義を聞き、体験の場をどう活用できるのかアイディアを出し合いました。しかし、学校によって生徒の日本語レベル、人数、日本語の位置づけなど状況が異なるので、2回の研修の講師を務めた武田育恵氏と共に各校を訪問し、各校にあわせて、体験の場と体験の場に寄贈されている玩具や本などの活用方法を具体的に検討する「悩み相談会」を実施しました。相談会では、授業を行うにあたっての悩みなどさまざまなことを講師と一緒に話し合いました。
また、体験の場をすでに活用している学校ではどのように活用しているのかを知るために公開授業を見学させてもらったり、学校の要望にこたえて模擬授業を実施したり、更に大連とハルビンでは周辺校の日本語教師への研修も行いました。その中で7月と10月の研修に参加した先生方には、研修で学んだことをどのように普段の授業や活動に生かしているかを報告してもらいました。

大連巡回訪問 2019.11.5-8

大連市第31中学

[学校紹介]

  • 最初に体験の場ができた学校。2016年から日本語の授業で頻繁に体験の場を使っている。
  • 大連は日本語学習者が多く、この学校も長年日本語を開講しており、学校の特色の一つになっている。

巡回時には同校の日本語教師4名、大連市教育学院日本語指導主事1名が参加。

【公開授業見学】 授業担当:王頴先生
これまで中国ではゴミの分別があまりされていませんでしたが、2019年秋に大都市で本格的に始まったことから、日本と比較してゴミ分別を考える授業が行われました。神奈川県横浜市、沖縄県石垣市の分別方法を例にとり、大連の分別方法と比較し、食べ物などの絵と、日本語の単語が書かれたカードを配り、それが何ゴミになるのかを日本語で発表。その後に、先生から“リサイクルの3R”(Reduce, Reuse, Recycle)が紹介され、3Rを踏まえて、環境保護のために何ができるかを、好きな言語で発表するというものでした。

【悩み相談会】
体験の場で日本語の授業をすることはよくあるものの、体験の場にある日本関連のモノはあまり活用されていないことがわかった。

課題1:寄贈された書籍は、紛失を恐れて生徒に貸出をしたり読ませたりできていない。
⇒解決法:多くの生徒にふれてもらえるように、本の貸し出し用カード使って生徒に安全に貸し出せる方法を説明した。

課題2:体験の場のもので、浴衣は体験の授業などで生徒が着ることもあるが、日本の伝統的な遊具(羽子板、だるま落とし、福笑いなど)は使い方がわからないものもあり、使えていない。
⇒解決法:その場で実際に遊んでみて、使い方を説明。先生方はその様子を動画で撮影し、今後使えるようにした。更に、その場で説明できなかったものと、もっと説明したいものに関しては、これから使い方説明の動画を作成し、共有することにした。

大連市第35中学

[学校紹介]

  • 大連市第31中学の体験の場を知って、自校にも作りたいと学校が自主的に「あすなろ軒」と名づけた体験の場を設置した。ヒノキの木に似ている翌檜(あすなろ)がもつ「明日はヒノキになろう」の意をとって、日本語科の先生が、生徒たちにも翌檜のようにすくすく成長してほしいという思いを込めてつけた名前。
  • 2019年9月に完成し、今後は授業で月に1回程度使っていきたいと担当の紀雪先生は話す。
学校の廊下の端のスペースを活用してつくられた

巡回時には同校の日本語教師3名と大連市教育学院日本語指導主事1名がお悩み相談会と公開授業見学に参加。

【悩み相談会】
課題1:7月の東京研修に参加した際、体験の場で使うものを購入する活動で、担当の紀先生が選んだものはすべて体験の場を飾るものだった。鬼のお面や、日本地図、天井から飾るモビールなどを購入したが、どう飾ったら日本の雰囲気を出せるかわからない。
⇒解決法:買ってきたものをすべて並べ、それぞれがもつ雰囲気や意味合いを考えて、どの優先順位で飾るかを検討した。

課題2:日本語の小説、日本の学校の教科書などを大連在住の日本の方が寄贈してくださったが、日本語レベルが難しいものもあり、生徒に貸し出せていない。
⇒解決法:日本語のレベルと、漫画や小説、絵本などの種類で分けて本棚に並べることで、生徒が見やすくなるようにした。今後は、貸し出し用図書カードを使ったり、授業以外の時間に開放して自由に閲覧できるようにすることも検討中。

【公開授業見学】 担当:紀雪先生
「いただきます、ごちそうさま」のことばをテーマに紀先生が授業。動画を見せたり、実際にお椀とお箸を使ってどのタイミングで言うのかを教えたりといろいろな工夫がありました。最後に、「いただきます」のことばの意味を生徒が考え、発表する活動がありました。講師からは、「日本人は食事の前にいただきますといいます」との紀先生の説明には、「~~もある、~~の人もいる」などもっと多様性を持たせて説明したほうがいい、「日本人はこうです」とステレオタイプをつくってしまうと、生徒の考えを狭めるので注意が必要との話がありました。

ハルビン巡回訪問 2019.11.26-29

ハルビン市第8中学

[学校紹介]

  • 4年前に民間の教師派遣会社である集英佳沢教育に教師を派遣してもらい、日本語の授業を開講。現在8名がこの学校に派遣されている。英語が苦手な生徒が日本語を学習したら成績がよかったことで、校長先生は、「日本語の学習で自信がつけば、他の教科でも自信がもてる」との思いで日本語の授業を拡大してきた。学習者も年々増えており、現在は日本語を学ぶ部活もある。
  • 自主的に、日本風に飾りつけた教室を用意し、日本風の小物を置き、学校にある日本語の本の貸し出しには、貸し出し用カードを使っている。

巡回時には同校の日本語教師8名と、周辺校の日本語教師15名、黒龍江省教育学院日本語指導主事1名が模擬授業見学に参加。

【講師による模擬授業】
体験型の授業をやってほしいとの学校の要望にこたえ、風呂敷をテーマにした授業を武田先生に依頼して高校2年生の生徒に実施。風呂敷で実際にものを包み、既に習っている文型を使って包み方を生徒に発表してもらう授業でした。読み書き中心の授業を受けてきた生徒は、日本語で進行される授業が聞き取れず困惑する様子も見られましたが、日本語で活動する初めての機会となりました。この授業を見学した教師たちは、文法を学んでから活動に繋げる方法を学びました。
また、曹琳琳先生には7月と10月の研修で学んだことやその後の活用について報告してもらいました。

ハルビン市朝鮮族第一中学

[学校紹介]

  • ハルビンで長年日本語を開講し、朝鮮族の生徒が日本語を学ぶハルビン市で唯一の学校。
  • 中高一貫校で、中学生から日本語を学習している生徒は日本語レベルがとても高い。

巡回時には、同校の日本語教師4名と黒龍江省教育学院日本語指導主事1名がモデル授業とお悩み相談会に参加。

【講師によるモデル授業】
学校からの要望で、多くの生徒が興味をもっている「漫画」をテーマにした授業を武田先生が実施。副校長先生や他の日本語の先生も見学しました。
日本語のレベルが高い生徒が多かったので、漫画の吹き出しを空欄にし、書かれた擬音語や絵を見て吹き出しを自ら日本語で埋めて発表しました。

ひらがな、カタカナを習ったあとの生徒に、擬音語や擬態語のひらがな、カタカナが書かれた漫画を見せると、生徒は習ってすぐに理解できることが嬉しく、学習意欲向上に繋がることや、生徒の興味がある部分から授業に入ることも大切だとの話が武田先生からありました。
また、授業の1コマすべての時間を使うことが難しい場合には、最初の3分だけなど、やり方次第で短時間でも生徒の好きなことを授業に取り込むことができることも紹介しました。

【悩み相談会】
課題:先生たちのなかには文化体験などの活動の意義があまりわかっていない先生がいる。
⇒解決法:長年TJFの研修に参加している朴英姫先生に経験を話してもらった。「今まで他の学校がおにぎりを作る活動や浴衣を着てみる活動などをしているのを見ても、自分には時間もないし面倒だと思ってやらずにきた。しかし、他の学校ができるなら私もできるかもと思って始めてみた。生徒たちの喜ぶ顔を見たり、自ら準備をしてくれる生徒を見たりすると、無駄ではなかったのだと思った」と、文化体験活動をすることの意義について話した。こうした活動のあとで、生徒に感想文を書いてもらうと、楽しかった思いがあり作文を書きやすいと、なかなか作文が書けない生徒が多いという他の先生の悩みに答えた。

中学1年を担当している先生からは、体験の場にあるものを使って遊びながら授業をすることも多いという報告がありましたが、それに対して武田先生は、日本語の学びと結びついていないのではないか、と指摘しました。「この体験が生徒のどの学びにつながるのか」を考えながら授業を組み立てることが重要だと武田先生から伝えられました。

この学校でも本の貸し出しが始まっており、すでに何人もの生徒がカードに名前を書いて本を借りていました。本を種類ごとに分別し、背表紙にシールを貼っていました。日本語の先生が司書のように管理するのは大変ですが、生徒に読んでほしいとの担当の朴先生の強い思いで進められていました。

上海巡回訪問 2019.11.29-30

上海市工商外国語学校

[学校紹介]

  • 華道、茶道、能など日本の伝統芸能の外部講師に月に1回程度講演を依頼している。

巡回時には同校の日本語教師5名がお悩み相談会に参加。

【悩み相談会】
課題:体験の場にあるものがふだんあまり使えていない。
⇒解決法:新任の先生は、何があるのかもわかっていなかったため、すべてを手にとって見てみる時間をつくった。汚くなることや壊れてしまうことを恐れていたことが使わない理由の一つだったが、大事に保存していても使わないと古くなってしまうことを話し、風呂敷を出して物を包んでみたり、けん玉を一緒にやってみたりと、授業でどんな流れで取り入れるのがいいのかをあわせて一緒に検討した。

中山巡回訪問 2019.12.5-8

中山市外国語学校

[学校紹介]

  • 日本語科の規模がとても大きく、教師数も多い。
  • 多くの生徒が大学入試で日本語の試験を選択する。

巡回時には同校の日本語教師9名と外国語部顧問1名が体験の場で話を聞いた。

【体験の場ができるまで】
4名の新任の先生が体験の場について詳しく知らなかったことから、外国語部副主任の劉海峰先生に体験の場ができるまでの話をしてもらいました。劉先生は、体験の場の構想段階から、校長先生の承認、視察、内装工事、家具選び、家具設置、飾り付けまで、すべての工程で関わっています。各工程の記録写真を見せながら報告してくれました。
新任の先生方は、初めて知る体験の場の歴史に、「いろんな人の思いがあることを感じて、大切にしていきたい。生徒にも見せたいと思った」と語りました。
現在は授業で使ったり職員会議で使用するほか、時おり開放する際には生徒が自由に入って使っているそうです。劉先生は、「体験の場に入ってくると落ち着くと生徒が言っていたことが嬉しい」と話しました。

【研修報告】
7月の研修に参加した席芬先生から研修の報告があり、7月と10月の研修に参加した伊藤瞳先生からは研修で学んだことをどういかしているかについて報告がありました。伊藤先生は、「読解は文章からだけではなく、絵や写真からもできる」と研修で聞き、日本のお菓子のパッケージから日本語を抜き出してみる活動や、絵を見せて絵の状況を想像しストーリーを作る活動など、生徒のレベルに合わせて実践しました。グループで取り組むことで、聞いている生徒は聞き取りの練習になり、グループで役割分担ができるので一人ひとりの個性と長所をいかすことができ、楽しく活動しながら自然と学習につながり、さらにその活動のあとでは、苦手な作文がいつもより書きやすくなる生徒が多かったそうです。

【教科書の本文を使って文化を取り入れた授業をつくってみた】
入試対策の授業をしながら、少し要素を足すだけで日本の文化にふれたり、文化を考えたりする活動を取り入れた授業ができると武田先生から講義があり、教科書を使った活動をグループで作ってみました。
劉先生と若手の先生が考えた活動案は、会話形式の教科書の本文から、この会話はどんな状況で起こっているのか、2人の距離感はどれくらいなのか、会話文の状況は日本と中国で違いがあるのかを生徒に考えもらいながら本文を学ぶというものでした。

【悩み相談】
課題:今年度の新1年生の生徒の人数が多すぎて、十分に対応ができていない。クラス数がだけでなく、一クラスの人数が増えたことで、クラス内のレベルの差がひらいてしまい、どう教えていいかわからない。
⇒解決法:練習問題で難易度を変えたり、宿題をレベル別で出したり、レベルが高い生徒には、体験の場の書籍を貸し出すことで補う、など多くのアイディアがでた。

授業中の悩み、採点や評価方法など先生の授業時間以外の悩み、また、時間をどうやりくりするかなど、先生方の悩みは多岐にわたりました。ベテランの先生から新任の先生まで一緒になって持っているアイディアを出し合い、解決をめざしました。

巡回訪問を終えて

各校にあわせた体験の場の活用と実践方法を具体的に検討することが、巡回訪問の主な目的でしたが、体験の場の活用以外にも、授業での悩みや困っていることを共有し、一緒に解決する機会となりました。毎日の授業で忙しく、先生同士で悩みを相談したり、話す時間が取れないことが多いようですが、研修の形で時間をとることで、さまざまな思いを声に出すことができた若手の先生も多くいました。研修ではなくても学校が定期的にこのような悩みを共有する時間を持ち続けることが必要だと感じました。
学校の枠を超えて相談したり情報共有ができるように、すでに作成している、体験の場の研修に参加した先生方のwechat(中国のSNS)のグループに、今回お会いした学校の全ての先生を招待しました。
体験の場の活用は、それぞれの学校にとって使いやすい方法でいいのだと気づいてもらうことで、現地化していく道筋ができたと思います。今後は、自主的により活用してもらえるように、これまでの研修で出てきたアイディアを冊子にまとめて全体で共有し、そのなかから各校にあったものを探して使っていけるようにしたいと思います。

(事業担当:宮川咲)

事業データ

好朋友日本文化体験の場巡回訪問

場所

①遼寧省・大連市、②黒龍江省・ハルビン市、③ 上海市、④広東省・中山市

期間

①2019年11月5日(火)~8日(金)、②2019年11月26日(火)~29日(金)、③2019年11月29日(金)~30日(土)、④2019年12月5日(木)~8日(日)

助成

三菱UFJ国際財団

講師

武田育恵(華南師範大学南沙中学日本語教師)

日本語教師研修

期日

①2019年11月7日(木)、②2019年11月27日(水)

会場

①大連・大連市第31中学、②ハルビン・集英佳沢教育

助成

三菱UFJ国際財団

講師

武田育恵(華南師範大学南沙中学日本語教師)

参加者

①大連市内日本語教師35名、大連市教育学院日本語指導主事1名、② 集英佳沢教育所属の日本語教師20名、黒龍江省教育学院日本語指導主事1名