公益財団法人国際文化フォーラム

学びの探究とデザイン報告

語って、ほぐして、仕込みます! 探究する学びを分析・デザインする

【事業報告『CoReCa2018-2019』より】

2015年から実施している稲垣忠・東北学院大学教授によるワークショップでは、学習者が自ら課題を設定し、必要な情報を集め、整理・分析し、制作物にまとめたり発表したりする探究的な学びをテーマに据えています。

探究は一人ひとりが自ら設定した課題に自律的に取り組むのが究極の姿ですが、日本の多くの学校で取り組むには時間の確保等、課題がいくつかあります。そこで、このワークショップでは、グループやクラス単位で探究的な課題解決に取り組むプロジェクト型学習をベースにした単元設計を提案しています。多くの学校のさまざまな教科で取り入れられるよう稲垣教授が考案した「情報活用型プロジェクト学習」( *1)の理論に基づくもので、単元の活動を情報の収集・編集・発信の3ステップで構成するため、探究を支える情報活用能力の育成にもつながります。

5回目となる今回は、春休み期間中に開催し、東京と近郊の各県のほか、北海道、宮城、石川、愛知、大阪、鹿児島、沖縄、そして南米コロンビアから、外国語、国語、社会科、家庭科、美術などさまざまな教科を担当する25人の先生方が参加しました。

(*1) http://ina-lab.net/special/joker/pbl/

「語る」「ほぐす」「仕込む」の3ステップ

先生方は、探究的な学びを実施した(あるいは、これから実践したい)単元の資料を持参し、下の図の三つのステップにそって、個人作業とグループや全体での共有・ディスカッションを繰り返し、4月から実施できる単元のデザインを完成させました。

Step 1【語る】子どもの目線で探究の物語を描く

情報活用の収集・編集・発信の3ステップを26種類の具体的な活動に落とし込んだ「学習活動カード」(*3)から、自分のクラスの子どもたちが探究する際に使いそうな活動を選ぶ。最初に「課題づくり」、最後に「振り返り」のカードを置き、その間の活動をほかのカードを使ってシミュレーションしながら並べる。教師目線を離れ、子ども(学習者)になりきって探究の道のりをたどるのがポイント。

Step 2【ほぐす】探究を支えるスキルと学びの深まりを分析する

Step1で描き出された子どもの探究プロセスを支えるスキル(情報活用能力)を検討する。子どもたちの制作物に教科の学びの深まりが表れているか見極め、評価するためのルーブリックを、思考と表現の2観点にしぼって作成(思考は制作物の内容、表現は制作物の見た目上の工夫)。

Step 3【仕込む】探究を支える教師の手だてを考える

子どもたちの課題への出合いをどのようにつくるか、活動を助けるためのツールや仕かけをどうするか、発表・振り返りで何をするのか、それぞれにどのくらいの時間をかけるのか等、具体的な計画を立てて単元デザインシートを完成。(*4)

(*3)https://ina-lab.net/special/joker/ pbl/#Narrate
(*4)https://mmt4.cs.tohoku-gakuin.ac.jp/

子どもの目線から探究の物語をたどる意味

終了後の参加者アンケート (*2) では 「来年度から実践したくなった」「学習活動カードを使うことで考えが可視化された」「単元デザインシートがあると、学習計画やほかの教員との共有がしやすい」など、おおむね高評価でした。

一方で、ルーブリックづくりは難しいというコメントも複数ありました。稲垣教授によると、ルーブリックづくりは、まず教材を分析的、構造的に捉えたうえで子どもたちがつくる成果物の質をイメージする必要があり、コツをつかむまでにある程度時間が必要だそうです。「子どもたちの実際の成果物に表れる質的な違いに着目しながら試行錯誤を繰り返してみてください」とのことでした。

また、Step1の「子ども(学習者)の目線」で探究の道のりをたどる際、途中から教師目線にスイッチし、「この学びを深めるにはどうしたらいいんだろう」と手だてを考え始めてしまうグループもありました。稲垣教授は、「子どもたちが自立して学ぶのが究極の探究。教師が手取り足取りお膳立てしすぎないよう、学習活動カードをうまく使って、探究する子どもの立場で探究を物語ってほしい」と話していました。

(*2) アンケートの集計結果 https://www.tjf.or.jp/information/3555/

オンラインでの実践フォローと先生自身が探究する場づくり

この2年ほど、リピーターや同僚の先生などからの口コミ参加が増えています。1年の実践を振り返り、次の1年の計画を立てる、春休みの恒例行事として利用していただいているようです。今後は、実践過程でのアイディアの共有や課題の相談が気軽にできるよう、オンラインを使ったセッションも行っていく予定です。CMワークショップなど、多忙な先生方自身が探究的な学びを体験する場づくりも引き続き試みていきます。

※事業報告『CoReCa2018-2019』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。