公益財団法人国際文化フォーラム

多言語・多文化交流:パフォーマンス合宿報告

違うのはあたりまえ 違っているから豊かになる

“文化が違うことへの違和感があった。でも「変だな」から、(合宿後は)「かっこいい、おもしろい」になった。”
“自分のことが変だと思われないように周りに合わせていたけど、「自分は自分だから」と思えるようになった。”

上に紹介したのは、2019年3月に実施したパフォーマンス合宿後、参加者に書いてもらった合宿前後の変化です。

最終日の作品発表に向けて、演劇的手法を用いたさまざまな活動に取り組んだ3泊4日は、「濃い」「疲れる」ものでしたが、「これまででいちばん短い4日間」になったのです。

1日目

緊張した面持ちで会場に到着した31名を迎えたのは演出家、俳優、ダンサーからなるファシリテーターチームの5名と学生サポーターチームの4名。いろいろな言語でのあいさつ、じゃんけんなどアイスブレーキングのあとは、ダンスワークショップ。「知らない人と話すのは恥ずかしい」などと言っている暇もなく、ペアやグループになって、身体をフルに使った活動が続きました。

相手の手のひらに合わせて動く。
グループでメンバーのサインネーム(ジェスチャーで名前を表現)を組み合わせて発表。

2日目

発表会の舞台となる床に白いテープで世界地図を描きます。参加者とつながりのある国・地域の境界線は青テープを貼ります。

次に、一人ひとりが「いちばん古い記憶」を絵にしました。園児のときに遊具から落ちたこと、バットを振っていてテレビモニターを壊したこと、初めて飛行機に乗ってジュースを飲んだこと……。グループで共有したあとは、一人ひとりのストーリーをその主人公以外で演じ、全員の前で発表。

さらに、「言われてうれしかったことば」「悔しかった話」「人生でいちばん緊張した話」「幸せだった話」「今いちばん会いたい人」「キュンキュンした話」の6つのテーマからグループで一つずつ、一人の話を選んで演じます。

ペアになり、目隠しをした相手をことばを使わずに誘導しながら散歩。
テープで地図を描く。

3日目

前日につくった一人ひとりの「古い記憶」と6つのテーマの作品を中心に、オープニング、エンディングなどを加え、発表作品の構成を考えます。身体感覚と信頼関係を高めるダンスワークショップで知った技法も使いながら各グループで工夫します。

4日目

「いくぞー」
「おー!」
全員で円陣を組み声を出しました。保護者や教師など、関係者を迎えて、いよいよ本番。床の世界地図の上で、一人ひとりが住んだことのある地域を歩く。グループごとに「古い記憶」と6つのテーマの作品発表。自分にとって表現しやすい言語を使い、グループメンバーが日本語でフォロー。最後は、一人ひとりが将来行きたい場所に移動し何をしたいか言います。

こうして約1時間の発表を終えたのでした。発表を見ていた保護者、教師のなかには涙を拭う姿もありました。

4日間を振り返って

合宿に参加して、みんなが使っている言語の多様さや通ってきたさまざまなルートに驚き、それまでに知らなかった世界に出会います。しかし、違いを知ると同時に共通点も見えてきます。

参加前はどうやって関わったらいいのか不安だった参加者は、「ことば、食事などは違うけど、みんな笑うところは一緒に笑うし、(自分が)疲れると(みんなも)疲れてるし、そういうところがおもしろいなって印象に残りました」と言います。

「友だちがジョークで言ったことばがその人を傷つけてしまい」コミュニケーションの難しさを感じることもあります。でも、「個性豊かな仲間に会えること、楽しんで多言語多文化を学べ」「自分の世界観が変わる」「ひとまわりもふたまわりも人として自分が成長できる」ことも合宿を後輩に勧めたい点として挙がりました。

発表会後、輪になって4日間を振り返った。
合宿終了後に満開の桜の下で。

お菓子は共通言語?

参加した31名とつながりのある国・地域はインド、オーストラリア、韓国、中国、ネパール、フィリピン、ブラジル、日本。使っている言語は11に上ります。

さまざまなことばと文化を肌で感じてもらうために、韓国語、タガログ語、中国語、ネパール語、ヒンディー語、ポルトガル語などで描かれた絵本、それらの国・地域でよく知られているお菓子をテーブルに並べました。

休憩時間にはいろいろな言語の絵本を手に取って見比べたり、ことばを教えあったりしていました。お菓子のテーブルでは、食べたことのないお菓子に興味津々。「どんな味?」「これ、おいしいよ」「どこのお菓子?」と声が上がっていました。

 

学生サポーターの活躍

2018年度は、参加者に年齢が近い学生にサポーターとして協力してもらいました。4名のうち3名は前回の参加者で、2名が海外につながりがあります。ワークショップでの活動で最初にモデルを示したり、参加者の声をファシリテーターに伝えたりする役割を担ってもらいました。戸惑ったり動きが止まったりしている参加者に気づくと、そっと近くに行き話を聞くなど大いにサポートしていました。
3日目の夕食後に設けた「先輩の話を聞く会」では、参加者がグループに分かれ4人を囲みました。

学生サポーターには感謝状が贈られた。左から、若尾さん、山岸さん、高瀬さん、長野さん。

高瀬 杏理
高3、第1回参加者

「先輩に話を聞く会」では、ハーフであることの良いことと悪いことについて自分が口火を切って話しました。悪いことは、自分が何人なのか本当にわからなくて、小さい頃から周りとの違いを意識しすぎたり疎外感を感じたりすることが多かったこと。良いことは、それのおかげで自分とは違っていても受け入れようと思えるようになったこと。それと嫌なことを経験したことで強靭なメンタルを手に入れることができたことです。
このとき初めてプライベートな話をしたことで、参加者に一人の人間として興味をもってもらえたみたいです。

山岸 笑璃
高2、第1回参加者

両親、祖父母みんな日本人で海外に住んだこともないのに、私は外見も中身も「日本人らしくない」と言われ、そのことが原因で高1のときにいじめのようなこともありました。「私って何だろう?」と考えていたときに、前回の合宿に参加しました。合宿で「ありのままの自分でいいんだ」って気づいて、人間関係をリセットして自分がやりたいことをやるようになりました。

そのことを「先輩に話を聞く会」で話したら、「どうやってリセットできたのか」と聞かれました。合宿の参加者がたまたま同じクラスにいたこともありますが、もしいじめられてもきっと合宿の仲間たちが受け入れてくれると確信的なものがあったからだと答えました。

写真はすべて但馬一憲

※事業報告『CoReCa2018-2019』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。

「パフォーマンス合宿」ウェブサイトはこちらから