公益財団法人国際文化フォーラム

好朋友文化体験の場報告

つながるための『好朋友』

『好朋友 ともだち』(試作版)第1巻が2007年8月に発行された。大連教育学院と合同で編集制作したもので、中国で初めての第二外国語教育用の教材だった。語彙や文法の説明は一切ない。巻頭に書き下ろしのストーリー漫画「大連物語」が置かれ、漫画のコマを取り出し、そのコマに関連する日本語表現が学べるように作られている。登場人物が相手に誕生日を聞いているコマを使うときには、学習者は月や日にちの言い方を知り自分の誕生日を言う活動が紹介される。横浜から大連の中学校に転校してきた主人公がクラスメートと友情を育むストーリーでは、友人をつくったり、ケンカをして仲直りしたりする表現が多く取り上げられている。

第11課 身の回りのもの

① 漫画のコマを取り出す

第2巻p30 より
© 幸森軍也・白井貴子/ダイナミックプロ

② コマで使われている表現や応用した表現を学ぶ活動

第2巻p67 より
© 幸森軍也・白井貴子/ダイナミックプロ

③ いろいろなシチュエーションで言ってみる活動

第2巻p73 より
© 幸森軍也・白井貴子/ダイナミックプロ

好朋友プロジェクトの始まり

2005年に遼寧省・大連市教育局副局長を含む教育代表団を日本に招聘したことがきっかけとなり、翌年に日本語教育奨励策が大連市教育局から発表された。それは大連市内すべての中高校(約280校)に日本語科目を開設することを目標とするというものであった。第一外国語として英語が選ばれている場合、日本語は第二外国語あるいは課外で開設することが奨励された。第二外国語としての日本語教育が位置づけられたのだ。

しかし、第一外国語は受験を目的とするため、教える内容も文法や語彙・表現が中心であり、週あたりのコマ数も多い。一方、受験を意識しなくていい第二外国語では目標を何に置くのか、少ないコマ数で何を教えるのかなど決めなくてはならない課題が山積していた。これらの課題を解決し奨励策を進めるために、大連側の要請を受けTJF は全面的に協力することになった。 

そして日中それぞれに編集委員会をつくり、共同で制作したのが『好朋友』だった。しかし、従来の教科書とは全く異なるため、教師は使い方に戸惑った。日中の編集委員が講師を務める研修を大連教育学院と共催した結果、大連市で第二外国語として日本語を教える学校は徐々に増え、2008年4月には27校、学習者は約5,200人に上った。 

2009年に5巻目が刊行され、全巻がそろった。ストーリー漫画「大連物語」は102ページで完結した。このプロジェクトでは多額の資金が必要となったが、多くの日本企業や財団の協力があって実施できた。

大連から東北三省へ

教育代表団の招聘に始まり、『好朋友』の制作、そして研修の実施によって大連市の日本語学習者は増えた。この成功をほかの地域、特に吉林省、黒龍江省、遼寧省の東北三省に広げたい。そのために行ったのが、教育行政のリーダーと日本語教育に力を入れている学校管理職の招聘、『好朋友』の寄贈、研修だった。 

『好朋友』を寄贈した吉林省・長春第11高校では、日本語クラブの活動が始まると、50人の登録があった。さらに、副校長を招聘した後、学校が日本語教育をより熱心に推進するようになり、日本語クラブの登録が次の学期には150人、その次の学期には200人と学校でいちばん人気のあるクラブになった。『好朋友』にストーリー漫画が使われていたことも、日本のアニメや漫画が好きな生徒の関心に合致していた。

東北三省から全国へ

2013年1月には第1巻、第2巻の市販化を実現した。同時に、初めて手にする人でも使えるよう『好朋友』教師用指導書を制作した。使い方の解説とともに、すでに『好朋友』を使っている教師5名が作成したカリキュラムも掲載した。 

2014年に国際交流基金北京日本文化センター、中国教育学会外国語教学専業委員会と共催で上海で開いたシンポジウム「グローバル人材の育成と多様な外国語教育」や、全国規模の日本語教育実施校ネットワークである中等日本語課程設置校工作研究会(現会員50校)の大会で『好朋友』を紹介し、寄贈の希望を募ったところ、河南省、広東省、江蘇省、湖南省、陝西省、上海、北京など東北三省以外の14校から申請があった。現在、15の省・市で『好朋友』が使われている。

日本文化が体験できる場を

『好朋友』で紹介されている折り紙やキャラ弁、かるたなどを生徒が体験できるようにしたい。教師の声に応えて、2015年に「好朋友日本文化体验(体験)基地」を大連市第31中学につくり、浴衣やけん玉、ひな人形、絵本、四字熟語カードなど教師からリクエストのあった玩具や教材などを寄贈した。日本語を学習していなくても、周辺地域の中高校の教師や生徒ならここを利用できる。 

大連に暮らす日本人たちが中心となって、浴衣の着付けや絵本の読み聞かせをすることも計画されている。眺めるだけでなく、体験してもらう。上海、広州、ハルビンの学校にも体験の場ができる予定である。

関係者の声

  • 大連の学校への日本語教育の導入は困難なことではない。困難なのは、困難だと思う人の頭を変えることだけです。(元大連市長)
  • 第一外国語で日本語を学んだ生徒と第二外国語で学んだ生徒を日本に引率しました。学習時間数は短いのに、『好朋友』で学んだ第二外国語の生徒のほうが積極的に日本語で日本の生徒に話しかけていました。(日本語教師)
  • 2010年に『好朋友』のことをTJF から送られてくる情報誌『ひだまり』で知り、すぐに出版社に問い合わせました。すでに第二外国語として日本語の授業がスタートしていたからです。市販化されると、早速自分の授業で使い始めました。(福建省日本語教師)
  • 私たちの学校にもうすぐ完成する「好朋友日本文化体基地」は日本の伝統文化と現代文化が体験できる場所です。姉妹校との交流活動もここで行います。日本に関心のある他校の生徒や地域の人にも日本文化を知ってもらう場になると思います。(上海の日本語教師)

※30周年記念誌『Tracks』に掲載