公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

「しょうがない」を乗り越えろ!―【前編】システムを理解する

環境問題を「教え」ではなく仕組みや技術の創造によって解決しようと取り組む環境活動家のテンダーさんをお呼びし、中高生向けのワークショップを開催しました。問題を個人の責任にせず、その構造を変化させることで解決を導き出すシステム思考の考え方を、ボールを使ったワークやループ図の作成、プラスティックごみからものをつくる活動などを通して、たっぷりと体験する時間になりました。

稼がず、使わない生きかた

「電力の自給は小6までに習う理科の知識でだいたいできるのね。これがその心臓部分。チャージコントローラーっていうの。6カ所線が出てるでしょ。今から大事なこと言うからね。電力自給は6カ所ネジをとめるだけでできる。難しくないからね*」

中高生たちに自宅の電力をまかなっている自家発電の写真を見せながら説明するテンダーさん。鹿児島の山中にある年間家賃1万円の家で、電気と水道とガスを契約せずに自給する仕組みを自分でつくり、家族5人、生きていくのにあまりお金がかからない暮らしを6年間続けています。そういう暮らしをしているのは「口で言うだけがいちばんよくないと思っている」からだと言います。

きっかけのひとつは、22歳の頃、核関連施設が集まる青森県の六ヶ所村に1年間住み、農家の手伝いをしながら反原発運動に関わるなかで、日本の「運動」は教えで人を変えようとすると気づいたことだそうです。

「電気のために人が死ぬのはよくない」「電気のスイッチはなるべく切ってください」「ゴミは拾ってください」「人にやさしくしましょう」

そういう教えで人は本当に変わるんだろうかと考えるようになったテンダーさんは、電気やガス、水道など、生まれた時から家に備わっていたものをやめてみて自分でなんとかまかなえるかやってみることにしました。

  

テンダーさん 「で、やってみたらすごい簡単だった」

日本で暮らしていると、お金はたくさん稼げるほうがいいという考え方が主流かもしれません。けれど、「全然稼がないけれどお金もほとんど使わない」生きかたもあるし、むしろ、そのほうが「たくさん稼いでたくさん使う」生活よりも生きていく上で有利なのではないか。テンダーさんはそう考えるようになったそうです。

* 詳しく知りたい方は、テンダーさんが執筆・出版した『わがや電力〜12歳からとりかかる太陽光発電の入門書』(ヨホホ研究所) をご覧ください。

自分たちで自分たちを満たすものをつくる

廃校になった小学校を借りて始めた「ダイナミックラボ」というファブラボの活動も、そのチャレンジのひとつです。ファブラボは市民に開かれた工房で、日本を含め世界中に広がっています。

「ファブラボは利用者が自分のためにものをつくることを目的とした施設の名前なの」とテンダーさんは説明します。ダイナミックラボにも、ものづくりに必要な基本的な工具から3Dプリンターやレーザーカッターまで一通りの道具がそろっていて、誰でも利用できます。

  

写真:ダイナミックラボ提供

テンダーさん 「なんでもつくれる道具があります。どうぞ好きに使ってくださいと言われると、ほとんどの日本に住んでいる人はおもちゃをつくっちゃう。なんででしょう?」

参加中学生 「ひまつぶし」

テンダーさん 「お! おれ、けっこうそれだと思う。もうひとつ、人はなんのためにものをつくるんだろうか?」

参加高校生 「欲求を満たすため」

テンダーさん 「おれもけっこうそうだと思うんだけど、なんの欲求を満たすの?」

参加高校生 「自分の欲求」

テンダーさん 「そうそう。小さい子が絵を描くじゃん? ウチの3歳の子、こうやって線をわーっと描いてて、なに描いたのって聞くと、宇宙って言うんだよね。そのとき描いてて楽しいわけじゃん、その子は。自分のつくったものが自分を楽しませる、満足させられるって知ってるんだよね。自分がつくることで何かを満たせるって知ってるからものをつくるんだけど」

ダイナミックラボにある道具で家も乗り物もつくれますが、来訪者に「なにがつくりたいですか」と質問すると、ほとんどの人が思い浮かばないそうです。そこで、「なにに困っていますか」と聞き直すと、たいてい「困ってません」と答えるそうです。テンダーさんは、困っていることはいろいろあっても、それを自分で解決できると思っていないのではないかと推測します。

その原因のひとつに工業化が考えられます。たとえば、こわれたサンダルを自分で針金をつかってなおすことはわりと簡単です。けれど、スマートフォンを自分で修理するのはとても難しい。構造が複雑でプログラミングをよくわかっていないと無理だと感じてしまう。

そういう世の中で、自分たちに必要なものを自分たちでつくったり修理したりしていこうという動きが世界で始まってきたのがファブラボです。それはつまり、誰かがつくってくれた商品を買うお客さんになるのではなくて、自分で自分を満たすために自分のものをつくっていくということだとテンダーさんは説明します。

ダイナミックラボでは、アルミ缶やアルミサッシから金型をつくり、溶かしたプラごみを流し込んで洗濯ばさみなどの製品をつくっています。

写真:ダイナミックラボ提供

テンダーさん 「みんなが持ってるプラスティック製品はほとんど金型でできてる。金型って1個100万円くらいするのよ。1個あれば10万個商品がつくれるから、1000円のものを10万個つくったら1億円ですよ」

みんな 「わあーー!」

テンダーさん 「そういうものが落ちてるものだけでつくれるってことをやれるのがファブラボなのね。すごくない?」


テンダーさんは、環境活動家として、人びとが環境を壊さないように教えるのではなく、ものをつくることで行動を変える仕組みづくりに取り組んできました。13年間のテンダーさんの取り組みとそれを支える考え方の一部を、この後のワークショップで体験しました。

システムを体感する

まず、テンダーさんがものごとを考える技術として使っているシステム思考の考え方を、ワークを通して体験しました。システム思考は、問題や状況の背景にどのような要素があり、それらの要素がどう作用しあっているのか、全体の構造を解き明かしたうえで、その構造を効果的に変えるポイントを見つけ、解決を導きだす方法です。環境や社会問題のほか、ビジネスの世界でも取り入れられています。

ワーク1:システムは動き続ける

グループに分かれ、同じグループのなかから2人を心のなかで選びます。その2人と常に1mの距離を取り続けます。「せーの、どん!」で、いっせいにグループ全員が動き出しました。1人が動くと全体が追従して動く状態がまさにシステムだとテンダーさんが説明します。ひとつのパラメータが動くと全体が連動してある一定の均衡を保とうとします。経済や人口もシステムと捉えることができます。

ワーク2:個人の能力を問わない

次に、目をつぶってA4の紙をもち、テンダーさんの指示に従います。

「半分に折ります」「左上をちぎります。ちぎったほうを床に落とします」「半分に折ります」「今度は右上をちぎります。ちぎったほうを床に落とします」「半分に折ります」……。「はーい、目を開けて。紙を広げます。頭の上」の声でみんながいっせいに開いた紙は形がバラバラでした。

同じ指示で、同じ材料で、同じことをしているのに、できあがった形は違う。「指示をする方もされる方も、誰がやっても、この指示の出し方ならこういう結果になる」とテンダーさんは言います。システム思考では、個人の能力や個性、ものごとの善悪には注目せず、「この条件でこういうことをやったら、誰がやっても同じような結果になる」と考えます。


ワーク3:簡単なことも数が増えるだけで難しくなる

グループに戻って、先ほどちぎった紙­­­をまるめてボールを1個つくり、相手の名前を呼びながら決まった順番で渡していきます。このときに、やってくるボールをインフロー(流入)、手に持っているボールの数をストック(蓄積)、次の人に渡して出ていったボールをアウトフロー(流出)とシステム思考では呼びます。

どのグループも難なくこなしていると、テンダーさんがやってきてボールをどんどん追加し始めました。みんな慌てだし、どよめきや笑い声も聞こえてきます。

テンダーさん 「これ今むずかしい?」

みんな 「めっちゃ、むずかしい!」

テンダーさん 「1個だったらすごい簡単なのに、数が増えるだけで難しいんだよ。見る数が増えちゃうし、気にする量も増える」


ワーク4:ストレスがかかると難易度があがる

ボールを3個にして、同じようにボールをまわします。そこにまたテンダーさんがやってきます。

「はやくしろ! 遅いっ! なにぼけっとしてんだよ! はやく、はやくっ!」

みんなは、あたふたしています。

テンダーさん 「はい、ここでわかること。急かされるとすごく難しい。知ってるよね? でも急かしちゃうんだよ。普段だったらできることも急かされるとできなくなる」

ワーク5:シグナルを無視しない

次は、グループのメンバーの表情をよく見ながら、ボールをまわすスピードを上げていきました。

テンダーさん 「最初はにこやかだったのに、忙しくなってくるとだんだんテンションあがって、表情も呼吸も変わってくるじゃん。こういった状況が発する信号をシグナルって言うのね」

みんな、投げる瞬間に相手の様子から無意識にシグナルを受け取っていて、大変そうだったらちょっと待ったりしていました。もしそこでシグナルを無視すると、受け取る準備ができていない人にボールがどんどんやってきてしまいます。

システム思考の提唱者の一人、環境活動家で科学者のドネラ・メドウズは、たとえば畑で野菜が育たなくなったときに、そのシグナルをゆがめて化学肥料を入れて生産し続けていると、最後は砂漠化するところまでいってしまうと指摘しているそうです。

いろんなシグナルをなるべく無視せず、ちゃんと捉えるのがシステム思考の大事なポイントのひとつです。

ワーク6:あなたもシステムの一部です

ボールを5つに増やして、同じようにまわします。ちょっと忙しくなってきたところに、テンダーさんが現れます。

「一人目は、仙人」と言うと、テンダーさんは仙人役を演じて椅子にリラックスして座り、みんなを眺めながら「ホホホホホホ。ホホホホホホ」と悠長な声を発しています。みんなのボールをまわす様子はなにも変わりません。


次は、熱血コーチ役です。「よしっ! いいよー! はいっ、呼吸を合わせてーっ。気持ちをとめるなよぉーっ!」と気合いを入れながら各グループをまわっていきます。みんなは困ったような恥ずかしいような表情をしています。

最後に現れたのは介入者役です。「タン、タン、タン、タン……」グループの中に入って、リズムが整うようにテンダーさんが手拍子をしています。ボールの飛び方に規則性が出てきました。

最初の仙人はなにも変えないとテンダーさんは言います。

「よくテンダーさんみたいに山暮らししたいですって言われる。でも、多くの人がいう山暮らしは、システムから外れて平和に生きていたいってこと。仙人は高いところから、ホホホホホって言うだけだよ。システム自体はなにも変わんないんだよ」

熱血コーチは、システムの外から「あーだ、こーだ」と自分の考えを言っている人で、やはりシステムは変わりにくい。

最後の介入者は、中に入ってみんながペースを合わせられるように手拍子を打っていました。中に入っていっしょに変化を与えるほうがシステムに影響を与えやすいそうです。

テンダーさんが、部活を例に説明します。たとえば、団体戦で誰かがミスをして負けたとき、あなたはミスをしていなくても、その人がミスをしたのはあなたとのコミュニケーションに問題があったのかもしれないし、ミスが起きないようにあなたがなにかを変えることができたかもしれない。

「あなたはそのシステムの一部であり、あなたは問題の一部です」と捉えるのがシステム思考の考え方です。

ワーク7:指数関数的に増減する

次は、ボールを1個にして、今までのように順番通りにまわすのですが、それをどれだけはやく一巡できるかチャレンジしました。1回目は5秒前後のタイム、2回めは各グループ0.6秒くらいずつ時間を縮めました。そこで、テンダーさんが一言。

「ちなみに、1週間前にワークショップをやった小学生のチームのタイムは0.6秒です」

中高生たちが「0.6秒ーー!?」と驚きの声をあげたところで、3分のミーティングに入りました。その直後、なんと3グループ中2グループがいっきに2秒台前半のタイムを叩きだします。その後も少しずつタイムを縮め、0.7秒台をマークしたグループもありました。

テンダーさんが記録していたタイムの変化をグラフに表すと2次関数のような曲線になりました。最初のほうで急速にタイムが縮み、その後変化が緩やかになっています。

  

顕著にタイムが縮んでいるのは、テンダーさんが「小学生が0.6秒のタイムを出した」と伝えた直後です。どうやったらはやくできるかという方法はなにも伝えていないのにです。

テンダーさん 「できそうって思えただけではやくなったんだよね」

適切な情報が得られて、目的値が設定されたことが、急激な上達につながったのです。テンダーさんは、また、「地球上でなにかを練習したらこうなる」と言います。地球上のあらゆる動きは非直線的で、ある点を越えると指数関数的にいっきに上がったり下がったりする特徴をもっているそうです。


*この他、地下資源とベル曲線のお話もしていただきました。興味のある方は、「教育しか残せない時代に―【前編】教えで人は変わるのか」 をご覧ください。

*システム思考について知りたい方は、テンダーさん推薦の『地球のなおし方 限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵』(デニス・L・メドウズ、ドネラ・H・メドウズ/ダイアモンド社)をご参照ください。

「『しょうがない』を乗り越えろ!―【中編】構造を理解し、介入ポイントを見つける」に続く

(事業担当:室中直美、宮川咲)

事業データ

「しょうがない」を乗り越えろ! 構造を理解し解決を配置するシステム思考実践―ゴミ拾いで稼ぐには

期日

2019年11月9日(土)

場所

TJF事務所

主催

TJF

講師

テンダー(小崎悠太)さん・環境活動家、ダイナミックラボ運営
https://sonohen.life/

参加者

中高校生15名