公益財団法人国際文化フォーラム

学びの探究とデザイン報告

教育しか残せない時代に―【前編】教えで人は変わるのか

地球環境が限界に達し、厳しい未来が予測されるなかで、次世代になにを渡していけるのか。教育にできることはあるのか。大人はどういう学びの場をととのえていくことができるのか。仕組みや技術の創造によって環境問題の解決に取り組むテンダーさんを講師にお迎えし、教育関係者向けに開催したレクチャー&ワークショップについてレポートします。

「教えはある。でも、実際にはできていない」

環境活動家を13年間続けるなかで、テンダーさんは、「教条では人を変えられない」と考えるようになったと言います。そのきっかけのひとつは、22歳の頃、青森県六ヶ所村に1年間住み、反原発運動に関わった経験にあります。

テンダーさんのお父さんは原子炉の設計者で、使用済み核燃料を再利用できるようにするプルサーマルは素晴らしい計画だと聞かされて育ちました。しかし、大きくなって違う意見も聞くようになり、自分でも勉強していくうちに、お父さんの言っていることはものごとの一側面に過ぎないと思うようになったそうです。自分の目でなにが起きているか確かめようと、日本中の使用済み核燃料が集まる六ヶ所村に移り住みました。

そして、反原発運動にもまれるなかで、日本の運動は教えで人を変えようとしていることに気づきます。はたして、「○○しないでください」「みんなで○○を守りましょう」と言って人は変わるのだろうか、と考えるようになったそうです。

「別に原子力発電が悪いとは思っていなくて、それを運用する人間の知性のほうに問題があると思っている」と断った上で、こう続けます。

「原子力発電につながってしまうから電気を使うのはよくないよね」「よくないよね、うんうん」とことばで同意したとしても、結局みんな電気を使う。こうしたらいいという教えはある。でも実際できていない。それは無視できないことなのではないか。
  

テンダーさんが今考えているのは、人の信念を変えることはすごく難しいけれど、人の信念を変えうるものをつくることはできるのでは、ということです。

「今日、ここの空間で、座ってくださいって誰もお願いしてないと思うの。でも、椅子があったら座るじゃん。ドアがあったら開けるじゃん。ライトがあったらつけるのよ。それはすごい簡単な話で、ものがあれば行動は変わる」
  

テンダーさんは、鹿児島の廃校になった小学校を借りて、3年前にダイナミックラボ というファブラボ(市民工房)を開きました。それ以来、ファブラボを拠点に、環境や生態系をよくするためのものや技術、仕組みを開発、提案しています。

写真:ダイナミックラボ提供

スカスカの地球を渡すということ

「何も強制する気はないので。自由意志で、よいようにお過ごしください」というテンダーさんのことばとともに、まず、地球上のさまざまな物ごとをシステムとして捉えるワークをいくつか体験しました。前日のワークショップで中高生たちも体験したものです。ワークの詳細は「『しょうがない』を乗り越えろ!【前編】」をご参照ください。


ひとしきり身体を動かした後、テンダーさんが、アメリカのビンガムキャニオンという鉱山の写真をスクリーンに映し出しました。だんだんアップにしていくと、巨大なトラックで銅鉱石を掘っているのがわかります。この鉱山は宇宙からも見える大きさだそうです。なぜ、そんなに掘ってしまったのでしょうか。

Photo:2016_02_16_lga-ord-slc_151z By Doc Searls

すべての地下資源はベル曲線の形をとる、とテンダーさんは説明します。地下資源が役に立つとわかると、掘削技術が上達して採掘量が急激に増えます。そのまま大量に掘り続けると、効率化のピークを迎え、一気に下がり始めます。

江戸時代は、銅鉱石の銅の含有率(平均品位)が2%だったと言われています。つまり、銅鉱石を1000kg掘れば20kgの銅が採れていたことになります。残りの980kgは屑(残滓)です。現代では、平均品位は0.2%程で、1000kg掘って採れる銅の量は2kg、998kgが屑となります。

このように、掘れば掘るほど、銅の含有率は下がり、屑の量は増えます。そうすると、屑を捨てる場所がいっぱいになり、遠くまで捨てにいく必要が出てきます。深く掘るのにも、遠くまで捨てに行くのにも燃料と時間がかかり、コストが上がっていきます。

それを繰り返していくうちに、どこかで「掘らないほうが得」という日がやってきます。すでに、ヨーロッパでは、鉱山を掘るより家電から銅を抽出したほうが割安だという状況になってきているそうです。そういう現象を、システム思考の提唱者の一人で科学者のドネラ・メドウズたちは「成長の限界」と呼んでいます。

現在、地下にある銅の量はベル曲線の終わり近くになっていると言われているそうです。

テンダーさん 「もうスカスカの地球になりつつある。等速直線ではないから指数関数的に一気にくる。それがシステムの世界」
  

  
  
地球環境の現状と未来にもう絶望している、とテンダーさんは言います。

資源を使い尽くしてスカスカにしてしまった地球を引き渡していくという状況にあって、次世代に対して上から目線で「教育」するのではなく、「資源が全然なくなってしまって本当に申し訳ない。だけど、もう考える方法しか残せないから、どうかこれだけは受け取ってほしい」というのが、教師の適切な態度なのではないか、と投げかけます。
  

そして、ここまでの話の締め括りに、環境活動家ジョアンナ・メイシーのことばを紹介してくれました。

「今日、世界は終わるかもしれない。だけど、今日、燃えるような恋に落ちるかもしれない。朝日は美しい。でも、沈む夕日もまた美しい」

絶望と希望には因果関係がなく、どんなに破滅的な状況でも人は希望をもつことができるし、やるべきことは見つけられる。テンダーさんはメイシーのことばをそのように受けとめて大事にしているそうです。
  

「闘争か逃走か」になったら論理は働かない

すべての情報は脳幹から入る

テンダーさんは環境活動家なので、話の基本スタンスは「あなたの欲望のどれかをもう少し減らしませんか」と提案するはめになると言います。一方で、「教え」の成功率はとても低いと知っている。けれど、環境活動家としてはそこであきらめるわけにいきません。それで、人の脳の仕組みに関心をもつようになったそうです。

「おれも詳しくないし、たぶんざっくり話すので十分実用だから、ざっくり話します」と言って、テンダーさんが絵を描きながら説明してくれました。

脳には三つの層があります。脳幹があって、その外側に大脳辺縁系があって、いちばん外側に大脳新皮質があります。脳幹は「ワニの脳」と呼ばれる古い脳で、目の前に敵が現れたときに噛みつくか、逃げるかを瞬時に決めます(「闘争か逃走か」反応)。大脳辺縁系は感情や感覚を、いちばん新しい大脳新皮質は論理的思考などを司ります。


テンダーさん 「今から教育に携わるみなさんにショッキングなお話をします。すべての情報は脳幹からしか入りません。論理で判断される前に、食うか逃げるかの反応がまず入る。だから、話の出だしでいきなり、『オスマントルコ帝国の税収における変化の割合がなんたらかんたら・・・』って言い出した瞬間に、ほとんどの人が『あ、おれ関係ない。重要じゃない』ってなっちゃう」

こちらの話を興味をもって受け取ってもらうには、人間の脳の構造を考えて工夫しないと難しいとテンダーさんは話を続けます。

オスマントルコの税収から始まる話でも興味をもって聞けるという人もいるでしょう。しかし、それは脳が鍛えられているからです。情報伝達の回路に電気信号を何回も流していると伝達の速度が速くなるのです。

テンダーさん 「大事なことは、できる人にフォーカスするんじゃなくて、できない人がどうやってできるようになるかを考えること。そのほうが、格差を埋める考え方だなと思っている」

引き金的特徴

人間を含めた動物は、ひとつの特徴で全体を判断する仕組みをもっています。総合的な判断は基本的にはしません。

ある生物学者が七面鳥のひなの鳴き声を録音したテープを天敵の毛長いたちのぬいぐるみに入れてそばに置いたところ、親鳥が餌をあげたという実験結果があるそうです。この現象を引き金的特徴と呼びます(言い方はいろいろあるそうです)。

テンダーさん 「はい、これ、おれのiPhone7。420円でいいですよ。買いますか?」

参加者は首を横に振っています。

テンダーさん 「買いません? どうしてですか?」

(会場沈黙)

テンダーさん 「たぶん、安すぎてあやしいんだよね。品質の話はしてないし、壊れてるなんて一言も言ってない。420円って聞いただけで、『安すぎるだろう。あやしい』って反応しているのが、引き金引かれてますよっていう話です」


忙しさは、引き金的特徴を加速させてしまうそうです。忙しければ忙しいほど、情報処理にエネルギーをまわせなくなり、自動処理をしてしまうからです。

そういう脳の特徴を利用しているのが広告の技術でもあります。テンダーさんは、「わたしたちはそういう脳の構造をもって生きている。いいとか悪いとかではなく、それを知っている人は知っていて、使っている」と話します。

なぜそういう脳の構造をもっているかというと、何万年も前から生きていくためにこの仕組みが必要だったからとテンダーさんは説明します。

「あの山の向こうにマンモス獲りにいこうぜ! ウォーッ!」という時代は、食べものを見つけて、獲りにいって、火を起こして、家をつくって、移動して、排泄してということを繰り返していくことで、脳のバランスがとれて自分が保たれていた。けれど、家も食べ物もインフラも供給されるようになった現代では、「この脳をなにに向けていくのっていう話になる」と言います。
  

4つの報酬系ホルモン

「あの山の向こうにマンモス獲りにいこうぜ! ウォーッ!」という状態にあるとき、脳内ではドーパミンが出ています。

ドーパミンは、まだ見ぬ目標に向かうための報酬として出る脳内物質で、射幸心をあおられたときに出ます。あるかどうかわからないというのがポイントです。古本屋が好きな人が、「今日あの本屋に行けば、すごい掘り出し物が入っているかもしれない」と思う時などがそうです。

ドーパミンは、依存症とも関係しています。たとえば、「友達からなにかおもしろい情報が来てるかもしれない」と、しょっちゅうスマホを見てしまう。「山の向こうにマンモス取りにいこうぜ!」なら、1回ずつの間隔が長いので問題ありません。けれど、現代のスマホやアルコールはすぐにアクセスできてしまうため、快楽物質を得るためにずっと見続ける、飲み続けるという状態に陥りやすくなってしまいます。

そして、「マンモスに向かって走っていて疲れてきた。けれどそのうち気持ちよくなってきた」というときには、目標に向かうために生まれる痛みを消すエンドルフィンが出ています。

「マンモスをうちの一族の者が取った! 誇らしい」というときに出てくるのがセロトニン。卒業式で子どもが卒業証書をもらうときに涙が出てきたりするのもセロトニンの作用です。

オキシトシンは愛情ホルモンと呼ばれていて、マンモスの話で例えると、獲物を獲って帰ってきて夫婦でハグするようなときに愛情を感じて出てきます。出産にも深く関係しているそうです。


この4つがいろんなことの報酬として出てくる脳内物質で、「人為的にドーパミンやセロトニンを出させる方法がわかると、人を操作できるようにもなってしまう」とテンダーさんは指摘します。

「ここに杉の板とセイタカアワダチソウがあるんですけど」と言うと、突然テンダーさんが縄文時代の火起こしを始めました。

ゴシゴシゴシ・・・・・・。

会場からは「おーっ」というどよめきが起こり、後列の人たちは思わず立ち上がって見ています。

テンダーさん 「ほらほら、ドーパミン出た! 立ち上がってる!」

会場 「あああー……」(どよめきと笑い)

テンダーさん 「理屈じゃないんです。100のことばより火ひとつ。2世代同じ環境にいると、遺伝形成にその情報が入るっていう研究があります。火が大事なんですよ。おれたち動物だから反応しちゃうの。よくわかってもらえたと思います。すみません、引っかけるようなことして」
  

脳幹が反応して「闘争か逃走か」の状態になったら、論理を司る大脳新皮質に栄養が送られなくなるので、考えたり理解したりすることが難しくなるとテンダーさんは説明します。それはつまり、能力の問題ではなく、人間は安全と安心が保証されていないと学習にエネルギーを向けることができない生き物だということです。

だから、教師が、「おい、お前らこれ知っとかないとだめだぞ」と権威を見せつけたり、相手を自分に従わせたりする構図をつくったとたんに、相手はもう平穏な状態ではなくなるとテンダーさんは言います。

そういう人間の脳の特徴をおさえた上で、いよいよ教育の話に入っていきます。

【後編】「学ぶ内容を遊びとして扱えるか」に続く

(事業担当:室中直美、宮川咲)

事業データ

教育しか残せない時代にー知識と実体験を融合する 鹿児島「サバイバル理科」の取り組み

期日

2019年11月10日(日)

場所

SHIBAURA HOUSE(東京都港区)

講師

テンダー(小崎悠太)さん・環境活動家、ダイナミックラボ運営
https://sonohen.life/

参加者

小中高校の教員、教員志望の学生、小中高校の教育に携わる方など 36名