公益財団法人国際文化フォーラム

りんごをかじろう報告

心を健康にする瞑想法とだれも知らないインドの話

さまざまな文化や隣語(りんご=隣の人とつながるためのことば)に触れるイベント「りんごをかじろう」。11月24日(土)に、「心を健康にする瞑想法とだれも知らないインドの話」と題して開催し、28名の方にご参加いただきました。

今回の講師は、インドで仏教の僧侶として出家した日本人、草薙龍瞬さんです。草薙さんは特定の宗派や寺院に所属せず、全国で仏教講座や瞑想会を開催するなどして活動しており、『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(KADOKAWA 2015)をはじめ、たくさんの著書でも知られています。

大切なのは「理解する」こと

現在、ビジネス、スポーツ、教育などの分野で、集中力を高め、ストレスを軽減する瞑想スキルとして、「マインドフルネス」が注目されています。このルーツは、2500年以上前のインドでブッダが説いていた、心を健康にする考え方にあるそうです。

ブディズム(仏教)というのは、もともとは宗教ではなく、人間であるゴータマ・シッダールタ(悟りをひらく前のブッダ)が、たどり着いた生き方のことです。それは、自分の心の状態を「理解する」ことで、心の苦しみから抜け出す方法なのです。

宗教では「信じること」で救われようとします。しかし、仏教では確かめようのないことは、すべて「妄想」であるとみなします。いくら自分の頭の中で信じていても、他人から見たらそれは妄想なのです。妄想というのは、心の一つの反応です。人間は常に妄想しています。過去のことを振り返ったり、未来のことを心配したり、周囲の人々をあれこれと判断したり。

さらに現代では、インターネットという妄想拡大装置の影響で、われわれの心が妄想でいっぱいになっています。本当はすべて他人事だし、客観的には存在しないはずなのに、妄想によって、腹を立てたり、落ち込んだり、人前で緊張したりと、苦しみが心の中に生まれます。

仏教では、心に苦しみがない状態が「幸せ」です。心の外の世界で何かを手に入れることが、幸せなのではありません。幸せか不幸せかを決めるのは、すべて私たちの心の状態なのです。

心の状態を変えようと思ったら、信じる必要も、考える必要もありません。心の状態を理解すればいいのです。たとえば、「今、自分は怒りを感じているな」と自覚したら、怒りから抜けた状態になれます。

たとえば、親子関係において、親が「自分は親としてこのように思う」という妄想があると、子どもの気持ちを理解できません。大事なのは、まず聴くこと。理解すること。そこで、留まること。そして、子どもの方向性を見て、励ましてあげること。一緒にがんばろうね、と声をかけてあげることなのです。

人間は判断されると傷つきます。あるいは、怒りを感じる。上から見られるとか、ここが間違っているとか、ここが足りないとか判断されると、心がストレスを感じます。でも、理解されると、心は癒されます。喜びを感じるのです。

男女関係、親子関係、職場での人間関係も同じ。判断されると心が緊張する。理解されると心が和らぐ。「何を感じているのかな。ちょっとしんどいのかな。なんか悩みがあるのかな。とか、まずは理解してあげる。しかし、理解するには、時間がかかります。毎日毎日、半年間くらい、ひたすら聴く必要があります。時間の短縮はできないのです。

周囲の人との関係で、ついつい感情で反応してしまう人には、良いアドバイスがあります。つねに「足の裏が床に触れている感覚を意識する」ことです。このテクニックで、意識の一部を自分の感覚を見ることに使うと、反応しすぎることを抑えることができます。

参加者の感想

「あまり仏教というものをきちんと考えたこともなく、漠然と宗教思想、スピリチュアル的なものと思っていた。しかし、考え方を具体化して、理解し、落とし込めるものだとわかった」

「『何かに不満を感じた時は、相手に求めすぎている』とのフレーズに感銘を受けた。自分をあらゆる面で見直していきたい」

「仏教は、宗教(存在を信じさせるもの)ではなく、道を教えるもの。というのが、分かりやすい説明だった」

イスに座って行う瞑想と、ゆっくりと歩く瞑想の二種類を体験

瞑想は、「理解する」という心の使い方のトレーニングです。人間は生まれてからずっと、「反応する」ことで生きています。意識を無自覚に反応に使うのではなく、理解するという意識の使い方を訓練すると、苦しみの元になる反応を減らすことができます。

瞑想のスタイルは、イスに座ってもいいし、座禅を組んでもいいし、自由です。身体の力を緩めつつ、意識を身体の感覚に向けていきます。軽く目を閉じ、ゆっくり深く呼吸します。お腹の膨らみと縮みを感じます。

心を<理解モード>に切替えます。意識を確認します。目を閉じたまま、両の手のひらを顔の前に持ちあげます。目は暗闇を見つめているが、確かに今目の前に手がある。あると理解する。ただ、理解するだけ。自分が感じる身体の感覚以外は、すべて妄想。あるのは、この感覚のみ。

歩く瞑想では、ラベリング(心の状態を言葉で確認すること)と、サティ(気づき。マインドフルネスとも呼ばれています。心の内側や身体の感覚に意識を向け、よく見て理解すること)を教えていただきました。

身体を動かす前に、客観的にまず言葉で確認します。私は今、立っています。足の裏の感覚を感じています。右足の感覚、左足の感覚。足の裏の感覚を感じながら、右、左、右、左……。頭の中に妄想は入れない。私は今歩いている、歩いている……。

 

右足、上げて、運んで、下げて、くっつける。左足、上げる、運ぶ、下げる、つける。右足、上げる、運ぶ、下げる、つける。左足、上げている、運んでいる、下げている、床に足がつく。ペタリ。

妄想なしの状態をキープする。感覚を観察するつもりで。頭の中でラベリングしながら。足を上げるときに息を吸って、降ろすときに息を吐く。

目を閉じたまま、足の感覚や動きに意識を集中しながら、ゆっくり一歩一歩歩くのは、なかなか難しい体験でした。

参加者の感想

「自分の気持ちがざわざわした時に、瞑想を実践しようと思いました」

「仏教で言うところの瞑想の意味が理解できました。今まで漠然とイメージしていた瞑想とは、全く異なっていたことに驚きました」

「坐禅とは違うかたちの身体感覚を使う方法で、日常的に行いやすく、かつ本質を捉えていると思いました」

「身体の感覚に意識を向けてみることで、日常と違う体験ができました」

「身体をリラックスさせながら、意識は研ぎ澄ませなければならないところが、なかなか難しかったです。貴重な経験になりました」

インドの現実

講師と参加者の茶話会の時間には、草薙先生を囲んで自然と輪ができました。疑問点を質問したり、インドにおけるNPO活動の様子について、写真をスライドで見ながらお話をうかがったりしました。

草薙さんは、インドのマハーラシュトラ州で幼稚園・小学校・中学校を運営し、教育の機会に恵まれない子どもたちを支援するNGO活動をしています。その活動を通じて、インドの厳しい現実をたくさん見てきました。

インドには、約3000年ずっと変らない、人々を苦しめているものが二つあります。一つは、輪廻(輪廻転生)です。これはもともとヒンズー教やバラモン教の考え方です。もう一つは、カースト制度です。12~13億の人口のうち、バラモン(僧)、クシャトリア(王族・武人)、バイシャ(商人・平民)は数パーセントで、スードラ(奴隷)が85%、さらに奴隷カーストにも入れないアウトカースト(不可触民、人間未満の存在として差別を受けている人々。掃除、洗濯、死体処理などの仕事を世襲させられてきた人々。寺院の参拝も許されず、彼らを見ることさえも不浄とされる)が1億5000万人から2億人もいて、圧倒的多数の人々が今も差別を受けている現実があります。

ブッダが現れるまで千年くらいは、現世の苦しみの原因は前世の業(ごう、カルマ)にあるという輪廻信仰で、バラモン教が人々の心を縛っていました。

ブッダの言う業は、輪廻の原因とは違います。心の中でつくられた癖とかパターンのことです。訳もないのに怒りが込み上げてくる、必要のないものを追いかける、無駄だとわかっているのに腹をたてる、どうしようもないのに過去を振り返る。自分で理由もないのについつい繰返してしまうこと。根の深いものが、業です。

苦しみの原因は、神様とか、あの世とか、前世とか、そんな確かめようのないことではないのです。仏教が考える苦しみの原因は心にあります。ですから、その原因は取り除くことができるのです。

不当な差別を受ける不可触民を仏教へと改宗させることで開放しようとしたインドの偉人、アンベードカルの指導のもと、数十万人もの人たちがインド仏教の聖地ナグプールで1956年に、仏教へ改宗しました。しかし、今でも不可触民への差別や暴力は続いています

凄惨な殺人事件なども起きているそうで、参加者は言葉を失うほどのショックを受けました。

参加者の感想

「インドではヒンズー教のカースト制度が廃止されたにもかかわらず、いまだに強い影響が残っていること、それがインド社会発展の弊害になっている現状について写真を見ながらご説明いただいたところが印象的でした」

「仏教とヒンズー教の関係。カーストなど。インドのリアルな話が面白かったです。仏教の史跡を取り仕切ってるのがバラモンの人たちであったりなど」

「草薙先生は気さくで心の底から優しい。人を救うために身を削って活動されている話を伺うと救われる気がします」

草薙龍瞬さんの活動やスケジュールは、こちらのサイトで見ることがきます。

(事業担当:藤掛敏也)

※講義の内容は藤掛がまとめたものです

写真:金子怜史

事業データ

りんごをかじろう:心を健康にする瞑想法とだれも知らないインドの話

日時

2018年11月24日(土) 14:00~17:00

場所

(株)講談社 会議室 201号室

講師

草薙龍瞬(僧侶・興道の里代表)

参加者

28名