公益財団法人国際文化フォーラム

多言語・多文化交流:パフォーマンス合宿報告

「ひろしまPCAMP2023」を呉市で開催!

TJFは昨年につづき、多言語・多文化交流「パフォーマンス合宿」地域版を8月3~6日に広島県呉市で開催しました(ひろしまPCAMP2023)。広島県在住の高校生14名(新規参加)、高校生サポーター3名(「ひろしまPCAMP2022」の参加経験者)、大学生サポーター1名(2019年合宿の参加経験者)が参加し、演劇やダンスを専門とするファシリテーターの伴走のもと、パフォーマンス作品づくりと発表を通じて多文化交流を深めました。

▼下はひろしまPCAMP2023の記録動画のダイジェスト版です。どうぞご覧ください。


目的・ゴール・コンセプト

「パフォーマンス合宿」(PCAMP)の実施目的は「一人ひとりの個性を尊重し、多様性に富み、創造性を育む社会環境の醸成」ですが、地域版PCAMPでは、それに加えて「多文化共生の地域づくりを担う次世代リーダーの育成」も目的としています。

PCAMPは「多文化×芸術」をコンセプトとし、プログラムのゴールを次のように設定しています。

①ことばと身体で自分のアイデンティティを表現する
②多様な参加者と創造性を刺激しあい、自他理解を深める
③さまざまなバックグラウンドの違いを越えて対話し、協力・協働・共創を体験する

半年以上かけて準備

「ひろしまPCAMP2022」(地域版初回)の実施後、運営の中心を担ってくれた共催や協力団体の代表者の方々と振り返りを行うと同時に、「ひろしまPCAMP2023」の方向性について協議を重ねました。そして、呉市を次の開催地と定め、新たに共催、協力してくれる団体の代表者や担当者が加わって「ひろしまPCAMP実行委員会」が立ち上がったのは2022年の12月。さっそく後援依頼、会場予約などの準備を開始。そして、TJF主催、呉市国際交流協会共催、呉市及び広島県教育委員会後援、広島県内のNPOや市民団体などの協力という体制で、5月末のプレイベント(多言語・多文化交流「パフォーマンス合宿」公開報告会及び体験ワークショップ)と8月のPCAMP本番を運営しました。

PCAMPのコアとなる芸術プログラムは、今回の舞台監督1名とファシリテーター4名からなるアーティストチームとTJFで企画しました。アーティストチームのメンバーは全員「ひろしまPCAMP2022」のファシリテーター経験者で、月2~3回のペースで開いたオンライン企画会合において、昨年のプログラムをベースに改善と充実を図りました。時に新しいアクティビティをメンバーで試したり、時にワークシートを使ってPCAMPの趣旨やゴール、参加者に接するときの方針や姿勢などについて言語化して確認し合ったり、細部にわたってプログラムを作り上げていきました。そして、5月末のプレイベントで一般参加者向け体験ワークショップにおいて夏本番プログラムの一部を試し、本番直前の7月末にはファシリテーション経験が長いチームメンバーが講師となり、まだ経験の浅いメンバーのために対面研修(レクチャーと演習)も行いました。このような入念な準備をして、8月のPCAMP本番に臨みました。

4日間のプログラム

参加者一人ひとりが持つ言語、文化、経験、個性を尊重し合い、それらをありのままに自由に、積極的に表現することを推奨し、またよりよく表現できるように、アーティストからなるファシリテーターチームを中心に、運営チーム全体が伴走しながら、以下の活動を行いました。

①事前課題として、参加者自身がふだん使用したり、学んだり、見聞きしたり、憧れたりすることばを、自分の身体の絵に書き込んで表現する「言語ポートレート」を作成してもらい、集合時に提出し会場に掲示して共有しました。発表会の日には来場者向けにも展示しました。

②集合時のプレアクティビティとして、「ひろしま」「好きなことば」「私について(アイデンティティ)」という三つのテーマそれぞれから想起するワードやフレーズをポストイットに書き出しもらい、模造紙に貼って、活動会場に掲示して共有しました。最終日の発表会場にも展示し、来場者に同じ作業を楽しんでもらいました。

③初日には、参加者がお互いを知り、コミュニケーションを図り、仲良くなるためのさまざまなシアターゲーム(身体やことば、あるいはそれらの組み合わせで表現)を中心に行いました。2日めと3日めにもウォーミングアップのためのシアターゲーム、発声練習ゲームを多く取り入れました。

④2日め以降は、参加者一人ひとりの経験や感性、アイデンティティを表現するための演劇ワーク(I am from)やダンスワーク(一人ひとりのオリジナルポーズからチームダンスを創るなど)を中心に行いました。チームダンス以外にも全体で踊るダンスや有志によるスペシャルチームダンスの創作も行いました。

⑤参加者同士が関わり合い、話し合い、協力しながらチームごとに作品を創作しました。そして、ファシリテーターの助けも借りて、一つながりのパフォーマンス作品にしあげて発表し、一般公開しました。

⑥日中のプログラム以外に、初日の夜には花火大会、サポーターを囲んでのお話の会、2日めの夜には、発表会の舞台美術を参加者全員で作りました。3日めの夜は自主練習の時間やリラックスタイムを設けました。

多くの来場者に感動を与えた発表会

最終日に行った発表会には、参加者のご家族、呉市長をはじめ呉市民の方々、広島県内、県外の方々計72名が来場し、ボランティアなど運営スタッフを含めると約100名が鑑賞しました。来場者の半数以上がアンケートに回答してくれました。そこに書かれていたのは高校生たちのパフォーマンスは素晴らしかった、感動したという声でした。具体的にいくつかの感想をピックアップして紹介します。

「完成度が高くて見ごたえがあった」「人と人の心と動作がつながっていて、あるがままの自分を伝えることができる姿にとても感動した」「見ているだけで涙が出た」「全部感動で涙が止まらなかった」「高校生自身の心の叫びを表現したシーンが特に印象に残った」「一人ひとりが自分を見つめ精いっぱい表現し発表したところに感激した」「未来を担う若者が協力し何かを創造することはとても大切なこと。これからももっともっと表現してほしい」「原爆記念日に若人のパワーを感じてこれからの国の行く末を頼もしく思えた」「一人ひとりが大切にされていた」「最初から最後まで圧倒されっぱなしだった」「自分を知ることは大人も子どももとても大事なこと、今一度自分自身を見つめるきっかけになった」……など。

また、地域でこのような「多文化×芸術」をコンセプトとした活動を行う意味についての質問に対しては肯定的コメントが多く寄せられ、「もっと多くの人に知ってほしい、見てほしい」「この活動を続けてほしい」「心の内面や感情は文化として表現されると思うけれど、今の子どもたちにそういう表現の場があまりないので、とても良いプログラムだと感じた。高校生までの経験はとても重要なので、応援したい」という励ましのことばが多くありました。

来場者も一緒にダンス  ©ながおたかあき

PCAMP参加者の声

すべてのプログラム終了後、数週間の間隔をおいてから参加者にアンケートを提出してもらいました。それらの回答を見ると、参加する前は緊張と不安、逃げ出したいなどの気持ちを抱いていた参加者が多かったようですが、それぞれ「殻を破りたい」「多文化交流をしたい」「人間関係の苦手を克服したい」「演劇表現を知りたい」「全力で楽しみたい」などを目標に臨んだことがわかりました。

目標達成度について尋ねた質問には、65%~200%達成とそれぞれ自己評価していました。「自分が受け入れられたと感じてうれしかった」「自分でも知らない才能が引き出されてびっくりした」「人と関わるのが好きになった」「もっと多様な言語や文化を知りたいと思った」「弱みが克服できた」「個性の大切さに気づいた」「励まされた」「意見が言えるようになった」「自信がついた」などの気づき、変化、学びがあったと振り返っています。

そして今回のPCAMPの経験を一人ひとりが以下の一言で表現しました(原文のまま)。

「大きな変化への第1歩」「自己肯定感」「尊敬」「仲間との協力」「得しかしない最高メンツ泊」「苦手なことも全力でやれば楽しい!」「仲間と共に自分を高められた」「温かい」「痺れる」「幸」「感謝」「温もり」「思い出」「多彩」。

サポーターの成長

今回のPCAMPでは、「ひろしまPCAMP2022」の参加経験者を中心に高校生3名と大学生1名の計4名(うち海外ルーツ3名)がサポーターとして活躍しました。新しい参加者と運営スタッフをつなぐ存在としてサポートしてもらったことで、自信とリーダーシップが育まれたという印象を受けました。参加後アンケートでは、「去年より緊張感が少なくて先を予測して動けた」「サポーターとして手伝ったり助けたりしたいという思いが強かったし、実際に手伝えたと思う」「みんなが難しくて諦めそうになった時に、できることを考えようと勧めて、前向きになって進められた時はうれしかった」という感想がサポーターから寄せられました。

地域の方々に支えられて

PCAMP本番の運営には、実行委員会のメンバーをはじめ、スチール撮影、照明、舞台管理などの専門スタッフのほか、多くのボランティアスタッフが地元から加わり、PCAMPの運営を力強く支えました。宿泊係、救護係、清涼飲料運搬係、保冷剤準備係、お弁当の配膳、ゴミ回収、発表会の受付、おやつの差し入れなどなど、多寡を問わず関わった地元の方は19名。そのほか主催者の見えないところで協力してくれた現地協力団体のメンバーも多数いたと聞きました。発表会をたくさんの地元の方が見に来られたのもPCAMP参加者にとってなによりの励みになりました。

TJFが地域の多文化共生に寄り添おうと開催したPCAMPは、一方で地域の方々に支えられて実現しました。「ひろしまPCAMP2023」は、「将来ある子どもたちのために」という共通の思いから、TJFとアーティストチーム、地域の方々がともに作り上げたプログラムとなりました。

(事業担当:長江春子、千葉美由紀)

事業データ

多言語・多文化交流「パフォーマンス合宿 in 広島」(ひろしまPCAMP2023)

主催

公益財団法人国際文化フォーラム(TJF)

共催

呉市国際交流協会

後援

呉市、広島県教育委員会

協力

安芸高田市国際交流協会、こどものひろばヤッチャル(東広島市)、東広島市教育文化振興事業団、ひまわり21(呉市)、びんご日本語多言語サポートセンターびるど(福山市)、ワールド・キッズ・ネットワーク(呉市)、一般社団法人舞台芸術制作室無色透明(広島市)

協賛

呉ロータリークラブ

現地運営

ひろしまPCAMP実行委員会

期間

2023年8月3日(木)~6日(日)

場所

呉市広まちづくりセンター(活動会場)、グリーンヒル郷原(宿泊所)

ファシリテーター

江島慶俊(俳優、劇作家)
坂田光平(俳優・舞台美術)
田畑真希(振付家・ダンサー、東京より派遣)
森永明日夏(俳優・ティーチングアーティスト、ニューヨークより招聘)

芸術プログラムの企画

リーダー:柏木俊彦(俳優、演出家)
メンバー:ファシリテーター全員

撮影・記録

リーダー&映像撮影全般:山泉貴弘(映像ディレクター、東京より派遣)
スチール撮影全般:長尾剛明(カメラマン)
発表会映像撮影アシスト:佐々木あや
宿泊所写真撮影:岩﨑きえ、佐々木あや

発表会制作チーム

舞台監督:柏木俊彦
照明全般:佐々木正和
照明アシスト:岩﨑きえ
映像:柏木俊彦
音響:田畑真希
舞台美術:参加者
他舞台技術支援:テイクアップ(ホール管理スタッフ)

運営チーム

①TJF:長江春子(総括)、千葉美由紀
②実行委員会
委員長:伊藤美智代(ひまわり21/ワールド・キッズ・ネットワーク代表)
副委員長:
岩﨑きえ(舞台芸術制作室無色透明代表)※事務局長兼任
宮野宏子(びんご日本語多言語サポートセンターびるど代表)
明木一悦(安芸高田市国際交流協会代表理事)
長江春子(TJF/ひろしまPCAMP総括)
監査担当:竹下麻子(呉市国際交流協会、共催担当)
会計担当:奥村玲子(こどものひろばヤッチャル副代表)
実行委員:間瀬尹久(こどものひろばヤッチャル代表)
③本番スタッフ(部分参加及びボランティアを含む)
伊藤美智代*、岩﨑きえ*、江口修三、古賀アンドレア、竹内美雪、竹下麻子*、栗栖光恵、立間津多子、佐々木あや、佐々木晃代、鈴木律子(TJF)、中野敦(TJF)、長江春子(TJF)*、槇田彩花、宮野宏子*、明木一悦*、森内千晶、山田美恵子

*実行委員

参加者

広島在住高校生14名

サポーター

広島在住高校生3名、大学生1名

参加費

5千円(食費の一部として)