公益財団法人国際文化フォーラム

くりっくにっぽん報告

世界各地の日本語教師が集まった!―オンラインCNNを実施しました

TJFでは2015年12月から2021年6月まで、おもに英語圏の日本語の先生方にメルマガ「Click Nippon News」(以下、CNN)を月に1~2回配信してきました。CNNでは毎号、TJFが運営するウェブサイト「くりっくにっぽん」「ときめき取材記」から記事を1本取り上げ、ディスカッションポイントを提示したり、その記事をもとに表現活動のヒントを紹介したりするなど、日本語の授業での活用法を提案しました。レアリアの使い方やさまざまな文化理解の視点を知ってもらい、さらには生徒の思考力や想像力だけでなく創造力も刺激するような学習活動案を紹介することをめざしていたのです。また新型コロナウイルス感染拡大から、世界各地で休校あるいはオンライン授業になった昨年春には、臨時号を数ヵ月にわたり発行し、各地の先生方から寄せられた学校や授業のレポートやオンライン授業に役立つ学習活動案を紹介しました。登録者数は約820、これまでに発行したメルマガは63本に上ります。
読者の方々のなかには、「くりっくにっぽん」の前身である季刊情報誌『Takarabako』のときから読んでくださっている方も多くいます。そうした方々への感謝の気持ちを込めて、定期配信を終えた締めくくりとして世界の日本語の先生方をつなぎたいと思い、8月21日にオンラインCNN「ことばの楽しさにふれる」を実施しました。

CNNの読者だけでなく、11ヵ国から80名を超える申し込みがありました。また、オンラインCNN実施の同日に開かれていた韓国の日本語教師ネットワークJTAのセミナーの一部にオンラインCNNが組み込まれ、約50名がオンラインCNNの様子を視聴しました。JTAには2014年から「くりっくにっぽん」を活用した授業案作成などで協力していただいており、JTAウェブサイトには「くりっくにっぽん」の韓国語の記事や学習活動案が掲載されています。

オノマトペを使った授業実践

これまでCNNに協力していただいたオーストラリア・元ニューサウスウェールズ州教育省日本語教育専門家である西村パーク葉子氏と、オーストラリア・シドニーの小学校で日本語教師を務めているニコルス潤子氏をスピーカーに迎え、オンラインCNNを2部構成で実施しました。第1部では、CNNや「くりっくにっぽん」でめざしたことを概観した後、西村パーク氏がオンラインCNNの大きなテーマである「オノマトペ」の歴史、使われている例や効果などについて解説しました。それに続いて、ニコルス氏が「オノマトペ」を使った小学校での授業実践を紹介しました。水から連想する音を子どもたちに発してもらうと、出てきたことばは「ジャージャー」「ポタポタ」。そのあと、動画で音を聞かせるだけでなく、バケツにくんできた水を実際にすくうなど水遊びをすると、「ピチョン」「ジョジョジョ」「ジョポ」「すーっ!」とことばがあふれ出たといいます。こうした体験の後で、「おと」という工藤直子さんの詩にふれていきます。豊かな表現にふれながら、子どもたちは想像力をふくらませ、自分の詩を創造し、最後は各自が自分の詩にあわせて絵を描きます。ニコルス氏が実践したクラスの子どもたちの日本語レベルはさまざまでしたが、みんな楽しく活動していたと報告がありました。

オノマトペを楽しむ

実践報告を聞いた後は、参加者が体験する番です。まずウォーミングアップとして、スペシャルゲストとして招いていた出口裕一氏に登場いただき、自作の「ごきぶんブギ」をギターで弾き語りしてもらいました。「今日のきぶんはワクワク~、今日のきぶんはニコニコ~♪……」

みんなで合唱し、少しほぐれたところで、ウォーミングアップ第2弾として、写真を見て、その様子をオノマトペで表現してもらいました。
すっかりオノマトペに親しんだところで、13のグループに分かれました。グループ分けは事前に行い、課題として、自分を表す漢字一文字と教師としてワクワク、ドキドキ、キラキラするときを書いてもらっていました。それをもとに自己紹介したのちに、オノマトペで詩をつくってもらいました。

イラスト:出口裕一

教師だからこそ得られる喜び

いくつかのグループに詩を発表してもらった後、第2部のディスカッションに入りました。
第1部と同じグループに分かれ、「教師だからこそ得られる喜びは~~~~~」の文章を完成させてもらいました。
どのグループも自分の経験をそれぞれが出し合い、それをまとめていきました。生徒の人生に関われること、生徒が成長するとともに自分も成長することを感じられることが、「教師だからこそ得られる喜び」として多く挙がりました。いくつか下に紹介します。

  • 生徒と授業で出会い(毎回毎回異なる一期一会)、そこで生徒に影響を与えたり、また生徒から影響を受けたりしながら、心が通じ合う関係性や場・時間を持てること、それを楽しめること。生徒から元気をもらえること。
  • 教師だからこそ得られる喜び、それは、人生にかかわることができること。精神的な成長に影響を与えることができること。
    これまでのほかの仕事は、自分のためだった。でも、教師という仕事は、学び手のためになり、自分のためにもなる仕事。
    ダイレクトに人に、人の人生にかかわることができる仕事。それが教師。
  • 生徒の人生に関われるということ。教育はとても時間がかかる。日本語や日本文化に関わる仕事に就く生徒もいる。そうでない生徒にも多少なりとも何らか影響を与えている。でもそれが形になって見えることはほとんどない。人の人生に影響を与える責任の重さを考えるとしんどいときもある。だから、ほんの少しでもなにか喜びが見つけられれば、嬉しい。
  • 生徒の姿が成長していく姿を見る喜び・自分が生かされている喜び・信じられるものがある喜び
  • 学習者と共に学ぶという姿勢で、より質の高い枠組みにつかえるものを見つけた時、生徒たちがわいわい活動をたのしんでいるのを見ることができるとき、生徒たちは日本語の勉強を価値あるものと評価してもらえること、グループでみながコラボして楽しく学習されるのを目撃できること、おとなしい学習者が発表して意見をシェアしてくれる時、喜びを感じます。
  • 昔の教え子、ずっと前に日本語を教えた生徒の中に、日本語や日本語クラス・日本文化の体験が残っていていることを知ることができたとき。人生に何らかの(よい)影響を与えていたと知ることができたとき。それ知ることができる関係がつづくこと…

オンラインCNNの成果

「くりっくにっぽん」ウェブサイトを2012年に開設して以来、オーストラリア、韓国、ニュージーランドなどで、小中高校の日本語教師を対象にワークショップを実施したり、CNNを配信したりするなかで、多くの先生方と情報交換をしてきました。
そして、特に昨年はパンデミックの影響で、オンライン授業が突然始まったりする地域も多くありましたが、そのような状況下においても、先生方に共通していたのは、生徒の学びをとめたくない、オンラインでも生徒の学びを深めたい、楽しく授業をうけてほしいという思いをもち、さまざまな工夫をしていたことでした。
世界の先生方につながってもらって情報を共有してもらいたいと思っていました。また、先生方の頭の中にはいつも、授業をどう楽しくしようか、生徒に楽しんで学んでもらうにはどうしたらいいだろうか、ということがあるものの、ことばの楽しさを自ら体験することを忘れがちだという声も聞いていました。こうしたことが、今回のオンラインCNNの実施につながりました。

オンラインCNN後のアンケートでは、参加した理由や、参加してよかったことなどを聞きました。
参加した理由の上位3つは、「楽しい授業の実践を知りたい」(66.7%)、「ことばの楽しさにふれてみたい」(50%)、「世界各地の先生とつながりたい」(44.4%)でした。
参加してよかったこととしては、「オノマトペを楽しむ活動」(94.4%)、「教師だからこそ得られる喜びについてのディスカッション」(83.1%)、「いろいろな地域の先生とのつながり」(83.3%)と、どの活動も高く評価されました。

感想も多くの方々から寄せられました。いくつかをご紹介します。

  • これまで授業実践と自分自身の学び(日本に対する再認識)のためにのみ使っていましたが、このように世界の様々な地域から大きな学びの共有ができ、明日からの教育実践に活かせそうだという可能性が見えました。教師という仕事は定期的に学習者が入れ替わり、それぞれに応じた教材の生かし方があると思います。このように、時代や人々の認識の変化の中で、改めてくりっくにっぽんの新たな魅力というか活用方法を知ることができたことは貴重な価値だと思います。
  • 表面的な顔での会話やグループワークのセミナーは多いですが、こんなに”生”で 真っ正面から 向き合ってのものは 初めてでした。一期一会そのものだったと思います。”生”だからこその良さを十分に味わえました。またぜひ、開催してください!!
  • とくに、いままで あまりつながりのなかった(つまり、ヨーロッパ以外の)地域の先生方と出会えてよかったです。ライブの歌もすごく雰囲気が出て楽しかった!
  • これまで積み上げてこられた数々の記事、活用術を、これから消化していきたいと思います。消化していくに必要な支援を、担当者の方々どうぞよろしくお願いします。
  • これからも、CNNの教材を使わせていただくつもりでいます。ぜひ、このような機会を今後も設定してくださいね!
  • 素晴らしいセッションでした。アーカイブを活用させていただき、日々のTeaching に生かしたいと思います。本当に今までありがとうございました。
  • ・大変貴重な時間となりました。準備の方は大変だったと思いますが、たくさんの先生方がワークショップの後キラキラしながら帰路に着かれたと思います。ありがとうございました。
    とっても素敵なひと時をありがとうございました。皆さんからパワーとエネルギーをたくさんいただき、お話を聞く中で何度も心がふるえました。また同じような場が開かれることを強く期待しています!
  • とても素敵な時間をありがとうございました。オノマトペを使って新しい実践を知り、さらに先生方の持つあつい気持ちを共有して元気をもらいました。人は人から学ぶことを改めて感じました。作る楽しさ、ひろがる楽しさ、気づく楽しさ…短い時間でたくさん感じました。またこのような機会がありますように。くりっくにっぽん、これからも活用したいです。

これまでCNNで紹介してきた学習活動や記事などは「くりっくにっぽん」ウェブサイトに蓄積されています。ぜひご活用ください。

くりっくにっぽん活用術
https://www.tjf.or.jp/clicknippon/ja/activity/

CNNバックナンバー
https://www.tjf.or.jp/clicknippon/ja/newsletter.php

(担当:千葉美由紀)

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https://www.tjf.or.jp/information/category/hassin/clicknippon/

事業データ

オンラインCNN

期日

2021年8月21日(土)

場所

オンライン

主催

TJF

協力

JTA

スピーカー・ファシリテーター

西村パーク葉子、ニコルス潤子

スペシャルゲスト

出口裕一