公益財団法人国際文化フォーラム

学びの探究とデザイン報告

21世紀に必要な資質・能力を育てる

小中高校大学の教員を対象に、情報化、グローバル化が急速に進む社会の変化が教育にどのような影響をもたらしているのか具体例をもとに考察するレクチャーを実施しました。あわせて開催したワークショップでは、参加者は新しく求められるようになった資質・能力を育成するための評価の理論を学び、パフォーマンス評価やオーセンティック評価のデザインに取り組みました。教育委員会や教育センターでの教員研修のほか、高校生向けの講演にも協力しています。

テストを変えることが教育を変える近道

當作靖彦
カリフォルニア大学サンディエゴ校教授

38年前にアメリカに渡り、大学で日本語教育に携わりながら、日本の教育の動向を見てきた。私が渡米したときに味わった苦労は、日本の教育が自立性を育てるものではなかったことに起因している。そして、その教育の状況は今もあまり変わっていない。自立した学習者でなければ、グローバル化がますます進む21世紀を生き抜くことは難しい。
教育が変わるには時間がかかるが、評価つまりテストを変えることが教育を変える近道となる。2013年から毎年、TJFの研修の講師を務めているが、前年に参加した先生が実際にクラスでやってみた効果を報告してくれるようになってきた。参加者のひとりでも変われば、その先生のクラスにいる学生数十人のうちの何人かが変わり、その学生の周りにいる級友、家族、コミュニティーの人たちも影響を受けると思う。

先生だけでなく、若い人たちにも直接、話をしたいと思っていた。現在の、そして今後の世界の動きを知った上で、自分のことを見つめ、将来を選びとってほしいからである。昨年、高校で講演をする機会がめぐってきた。講演後、私のところにやってきた生徒たちと話をしたが、みんな真摯に自分の人生を模索していることがわかった。彼らの個性や能力を最大限伸ばせるような教育環境、社会環境をつくっていかなければならない。その点で私たち教育者をはじめ大人の責任は重い。

生徒の学びに役立つ評価を考えるチャンス

稲毛知子 
北海道札幌旭丘高等学校教諭

21世紀を生きるうえで必要とされる課題解決力を育てる学習は、生徒全員が同じペースで、提示された知識を吸収する学習とは一線を画しています。生徒一人ひとりの「何ができる、どのぐらいできる」が違うため、生徒が目標に到達できたかを測る物差しが適切かどうか、教師はいつも自分に問いかける必要があります。もっといえば、学習する目的や目的達成のために網羅すべき項目、またどういうアプローチが必要なのかという青写真を、生徒が知る必要があります。この青写真こそルーブリックであり、規準(項目:criteria 「何ができる」を具体的に示したもの)と基準(段階: standards 「どのくらいできる」を明示した指標)を示してくれるものです。目標(goals)と自分との距離がどのぐらいあるかを把握し、どのようにそれを縮めていくべきなのかを考えて、自分の学びに責任をもつきっかけを与えてくれます。

知識の暗記に終始するだけではダメだと頭ではわかっていても、暗記する以外(以上)に何があるのか、生徒ばかりでなく、教師もわかっていないかもしれません。しかし、ルーブリックをつくることで、学習目標や学習内容が具体的になり、学習活動を組み立てやすくなるだけでなく、生徒それぞれの課題がどこにあるか明確にすることができます。
當作先生のワークショップでは、この、どう教えるべきか、 どう評価すべきかを、協働で考え、形にするチャンスを得られます。2016年12月には本校を会場に研修が開催されます。より多くの北海道の教員が参加し、知恵を出し合う機会になることを期待しています。

これからの社会を知り、将来を考えてほしい

半嶺通男
沖縄県立向陽高等学校校長

2015年に講演「グローバル時代の教育の役割」を初めて聴きました。急速に情報化が進んでいることは認識していましたが、人工知能の発達やビッグデータの活用が私たちの生活をどのように変えつつあるか、講演で示された事例は私の想像を超えるものでした。
本校の生徒たちは、比較的のんびりしていて、進路も県内志向が強い傾向にあります。それは悪いことではないのですが、自分たちが生きていく社会について知識を得たうえで、将来を考えていくことが必要だと思っています。そして、地元でも、国際社会でも、どういう場所に身を置いたとしても、自分の力を発揮して周りを引っ張っていくような人になってほしいと考えています。

そこで、本校国際文科コースの1年生80人と教職員を対象に當作先生に講演をお願いしました。「自分がやりたい仕事はこれからコンピュータがやるようになるかもしれないと知ってショックだったが、その分今は存在しない仕事が出てくると聞いて少し安心した」「受動的に生きるのではなく、創造力、想像力をもって生きたいと思った」など生徒の反響も大きく、今年は2〜3年生を対象に講演をお願いすることにしました。

事業データ

レクチャー「グローバル時代のキャリア形成、ライフデザインにつながる教育」・ワークショップ「学習を促進する評価のデザイン」

期日

2015年5月29日(金)

場所

東京

主催

TJF

参加者

小中高校大学の教員約90名

レクチャー「グローバル時代の社会とつながる教育」・ワークショップ「学習を促進する評価のデザイン:パフォーマンス評価とポートフォリオ評価を中心に」

期日

2015年10月18日(日)

場所

大阪

主催

国際教育活動ネットワーク REX-NET、TJF

参加者

小中高校大学の教員約100名

レクチャー「評価のパラダイムシフト:学習結果を見るテストから学習を促進するテストへ」・ワークショップ「言語教育におけるパフォーマンス評価:その効果的なデザインと実施方法」

期日

2015年11月5日(木)

場所

沖縄

主催

沖縄県教育委員会

共催

TJF

参加者

沖縄県立高校の外国語、国語担当教員約150名

レクチャー「グローバル時代の社会とつながる教育」・ワークショップ「学習を促進する評価のデザイン:パフォーマンス評価とポートフォリオ評価を中心に」

期日

2015年11月7日(土)

場所

主催

主催

北海道大学国際本部留学生センター、TJF

協力

高等学校中国語教育研究会北海道支部、国際教育活動ネットワーク REX-NET、実用英語教育学会(SPELT)、北海道高等学校英語教育研究会

参加者

小中高校大学の教員約70名

上記のほか、沖縄県高等学校長協会主催の講演、大阪府教育センター主催の講義、沖縄県立向陽高等学校主催の生徒向け講演などに協力した。

※事業報告書『CoReCa2015-2016』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。