公益財団法人国際文化フォーラム

報告

「互いのことばを学ぶ日中高校生のサマーキャンプ」を実施しました

2011年7月25日(月)〜8月3日(水)の10日間、中国吉林省長春市で、中国語を学ぶ日本の高校生のためのプログラム「漢語橋」と、日本語を学ぶ中国の高校生のためのプログラム「日本語橋」を、「互いのことばを学ぶ日中高校生のサマーキャンプ」(以下、サマーキャンプ)として同時に開催しました。日本から90名、中国から46名の高校生が参加し、会場となった長春日章学園高校で一緒に寮生活を送りながら、中国語と日本語を学び、共同活動に取り組みました。

「使える!」と実感してもらうための授業

このサマーキャンプは、参加者が学んだ中国語と日本語を実際のコミュニケーションで使うこと、そして共同活動を体験することを目的に、プログラムを構成しました。 中国語と日本語を学ぶ授業は、日中の高校生が、お互いに関心のあることについて会話をし、市場での買い物、家庭訪問、公園で市民と交流するときに使える表現を学べる内容にしました。たとえば、自己紹介の授業では、中国語を使ってオリジナルの名刺づくりに取り組み、教室内を動きまわりながら、名刺交換して自己紹介をしました。この名刺は、ルームメイトになった中国の高校生や外出先で出会う人たちにも渡しました。常に話すことが求められる中国語の授業に、1時間目は戸惑いを見せる生徒も少なくありませんでした。しかしすぐに慣れて、毎日食事をつくってくれる学食のスタッフにお礼を言ったり、料理のつくりかたを聞いたり、学んだ表現を使って積極的にコミュニケーションをはかるようになりました。サマーキャンプ後半の買い物体験では市場で粘り強く値切ったり、家庭訪問で「这是我的一点心意(ささやかな気持ちです)」と言いながらお土産を渡すまでになりました。 日本語の授業では、中国の高校生たちがプロジェクト型の活動に取り組みました。「わたしはこんな人」という自分を紹介するミニポスターをつくり、ルームメイトの日本の高校生に見せて話をしたあと、感想を書いてもらったり、身体を使って自分たちのふるさと(吉林省、長春市、梅河口市)や学校生活を紹介する1分間のCMづくりにチャレンジして、夕食のときに発表したりしました。日本語の授業を担当したある先生は、「サマーキャンプでは目の前に伝える相手がいるので、『日本の高校生のために、自分たち(中国の高校生)がアクションをおこすんだ』というリアリティをもてるのがとてもよかった。それぞれが、楽しみながら、自分の持ち味をいかして活躍していた」と語っていました。

 

中国語の授業。習った表現を使って買い物の練習。

 

 

中国の高校生がつくったミニポスター「わたしはこんな人」。

 

日中の高校生で文化祭づくり

サマーキャンプの後半は、日中の高校生が語学力と関係なく、約30人ずつ5つの混合クラスに分かれ、クラスごとに「サマキャン☆文化祭」をつくりあげる活動をしました。 「8月2日の13:30〜15:30に、日本語を学ぶ長春日章学園高校の1年生を各クラス12人ずつゲストに迎えて『サマキャン☆文化祭』を開催します。主催者として、ゲストが参加できる企画を考え、もてなしましょう」というコンセプトで、各クラスのなかでさらに4グループに分かれ、15分間の企画を行いました。最後にどのグループがいちばんおもしろかったか投票してもらうことにしました。

文化祭に向けて、日中のメンバーでクイズの問題を検討中。

 

のべ2日間の時間をかけて、グループごとの企画づくり、オープニングからエンディングまでの構成、日中両言語での進行のせりふづくり、会場設営などに取り組みました。途中で、クラス内だけでなく、他クラスのグループともリハーサルを行い、お互いにゲストとして参加してみて気づいたことを伝えあいました。そこで得たアドバイスやアイディアをもとに、ゲストにわかりやすいように説明をつくりなおしたり、楽しい気分になれる雰囲気づくりを考えたりしながら、内容をブラッシュアップしていきました。

ゲストを迎えて文化祭本番。いすとりゲームは大盛り上がり。


ゲストにただ見てもらうのではなく参加してもらうという難しい設定だったにもかかわらず、最終的には、「ドラえもんの歌で踊りながらいすとりゲーム」「まるもりダンスをいっしょに踊る」「日本についての○×クイズ」「手や足を指示されたとおりシートの色の上に置いていくツイスターゲーム」「福笑いやコマ回しなど伝統遊び体験」と発想豊かな企画が出そろい、ゲストの高校生たちは大変楽しんでいました。

仲間をつないでいく高校生たち

とはいっても、本番までの作業がすべて順調に進んだわけではありません。ことばが十分に通じないなかでどうやって意思疎通をはかっていいのか戸惑ったり、酷暑のなか長時間の作業で体力も気力も限界に近づいて、全体のムードが沈滞する時間がどのクラスにもありました。 しかし、そういう状態がしばらく続くと、どのクラスにもお互いを「つなぐ」役をする生徒たちが現れました。たとえば、中国語のレベルでは入門や初級の生徒たちが、中国の高校生にとってわかりやすい日本語を工夫し、実際に物を使って例を示しはじめました。

市場で買い物。安くしてもらえないか交渉中。


ところどころで「明白了吗?(わかる?)」など簡単な中国語を使って、一生懸命自分たちの考えていることを伝えようとします。中国語はつたなくても、かれらの表情や声のトーン、前のめりの体勢など、全身から、相手のことを思って伝えたいという熱意や真摯さがあふれているので、聞いている中国の生徒たちにも「理解したい」という気持ちが湧きおこり、自然に巻き込まれて、積極的に企画づくりに関わるようになっていきました。また、日本語や中国語が中級レベルの生徒たちも、さりげなく通訳に入るなど、必要な場面でフォローする光景が各クラスで見られました。

「コミュニケーションの引き出しが増えた」

サマーキャンプが終わりに近づくにつれ、「まだ帰りたくない」「このメンバーがいい! 別れたくない」「滞在をもっと延ばしてほしい!」と訴える声を多く聞きました。文化祭を終えた夜の歓送会では、日中の高校生136名全員が肩を組みながら「让我们荡起双桨(漕ぎだそう!)」とレミオロメンの「3月9日」を熱唱し、涙を流しながら別れを惜しんでいました。帰国した日本の高校生たちに感想を聞くと、「中国の子ってどこが違うのって聞かれるけど、違いがあんまりわからなくて意外だった」「今まで何のために外国語を勉強しているかわからなかったけど、それがわかった気がする。将来は、中国かオーストラリアに留学したい」「文化祭で本当に交流したーって感じがする。相手が言ってる中国語がわからないときに紙に書いてもらったり、中国語で伝えられないときに相手がわかるジェスチャーを考えて使ったり。いろんな方法で相手に伝えようと格闘しているうちに、コミュニケーションの引き出しが増えた気がする。今は、地元で日本語があまり話せない人に出会っても、話せるぞって思う」と語ってくれました。サマーキャンプで経験したことが、それぞれの生徒にどういう変化をもたらしたのか、かれらが学校に戻って少し時間がたった頃からインタビューを始める予定です。

事業データ

漢語橋(日本で中国語を学ぶ高校生のためのプログラム)

主催

中国国家漢弁

実施

TJF

受け入れ機関

長春日章学園高校

助成

双日国際交流財団

協力

文部科学省

後援

外務省

特別協力

ANA

日本語橋(中国で日本語を学ぶ高校生のためのプログラム)

主催

吉林省教育学院、TJF

助成

国際交流基金北京日本文化センター、双日国際交流財団