2024年3月にオンラインで「ときめき取材記実践報告&情報交流会」を実施しました。実践報告の5名に加え、ときめき取材記プロジェクトにこれから取り組む予定のある方や興味のある方たちが国内外から7名、計12名の参加がありました。
大学生等が自分にとって興味のあるテーマでそれに関連する人にインタビューし、記事にまとめてウェブサイトで発表する「ときめき取材記」プロジェクトは2016年に始まりました。最初に取り組んだ三代純平氏(武蔵野美術大学)が、そのきっかけとプロジェクトの大まかな手順について話をしたあと、上田安希子氏(京都教育大学等)、重信三和子氏(明治学院大学等)、濵田典子氏(秋田大学)、矢部まゆみ氏(横浜国立大学等)がそれぞれの実践の特徴について報告しました。報告後は、取り組むうえで心配なことや疑問などを参加者に質問してもらい、それに対して報告者が回答していきました。
実践報告
三代氏は人との出会いからことばと文化を学ぶ活動としてインタビューを授業に15年ほど取り入れていたものの、読者が想定されないこともあり、何のために書く記事なのかがあいまいであったことが課題でした。そしてそれを解決するために、TJFとときめきプロジェクトを始めることになったと語りました。留学生に限定していた「日本事情」の授業を全学生に広げたこともあり、現在は、30人の定員に対して200人近い希望者がいて、モティベーションも高い活動となっていると述べました。
グループ活動で得られる多面的な学び
2017年から複数校で取り組んできた上田氏はグループで取り組むことを大事にしています。その理由として、同じように話を聞いても人によって気づくことや理解が違うことで、グループでの関わりから多面的な学びを得られることを挙げました。そのため、さまざまな段階でグループでの話し合いなどを入れるようにしていること、その結果、インタビュー本番でも助け合いが生まれていると報告しました。
初級クラスでの試み
日本語学校や海外の大学でも実践したことのある重信氏は、海外の大学での初級クラスでの取り組みを中心に報告しました。海外の日本語学習者は実際に日本語を話す機会が少ないこともあり、インタビューから原稿作成まですべてを日本語で行うことは非常にハードルが高いため、インタビューは第一言語でもよいこととし、アウトプットは日本語で行ってもらったり、発表が第一言語の場合はインタビュイーのことばを一つ以上はそのまま引用してもらったりしたそうです。学生から「大学生活のなかで最も楽しくて意義のある活動だった」といった感想があがり初級クラスでも効果があったと述べました。
ひとりで取り組むことの意義
数年前から秋田大学で学生のインタビュー記事を冊子にする活動をしている濵田氏は、活動のきっかけとして隠れニーズがあったことを挙げました。留学生の悩みに、「将来何をしたいのかわからない」「自分はつまらない人間だ」「なぜ生きているのかわからない」などシビアなものがあることを知り、学生の視野を広げ、秋田だからこそできる学べる授業をしたいと考え、インタビュー活動を取り入れたそうです。そして、自分だけでなく他者のために日本語を使う経験をすること、他者からいろいろな考えや生き方を聞くこと、洗練された文章を書くために必要な点を理解することを目的に掲げました。インタビュイーのことばを預かり他者に渡していく体験をすることで、ことばを使うことの責任を感じ、責任があるからこそおもしろいことを体感してもらいたいと語りました。
イメージを得るために活用
矢部氏は、2017年にときめきプロジェクトに取り組み始める前に、留学生の視点をいかし、地元の魅力を取材して冊子にする活動を行っていました。記事執筆の指導をより充実させるための方法、良質のリソースの確保、そして何よりもインタビューをより対話的に深みのあるものにするにはどうしたらいいのかを課題としていたときに、ときめきプロジェクトのことを知りました。この数年は、ポスター発表をゴールとし、希望者がウェブサイトに掲載することにしていると報告しました。活動の前にときめきウェブサイトに掲載されている記事を読むなど、リソースとして大いに活用していると語りました。
質疑応答
深い質問をするには?
参加者のなかにはインタビュー活動を実際にやったけれど記事作成まで至らなかったという方がいました。深い質問ができず、その人に聞かなくても出てくるような一般的な回答しか得られなかったり、質問をして返ってきた回答から質問を作ることができなかったりすることを大きな課題として挙げました。「深い質問をするにはどうしたらいいのか」はこれまでの実践報告会や勉強会でも必ず出てくる課題であり、ときめきプロジェクトを成功させる大きな鍵となります。実践報告の5名から次々と自分たちがやっていること、試行錯誤していることが報告されました。三代氏からは、ニュース解説のようなことを取材しに行くのではなく、その人が具体的に何を体験して何を考えたのかを中心に組み立てることを何度も伝えることが大切だと回答がありました。そのために、インタビュー前の質問づくりのときにその観点で話をしたり、ときめきウェブサイトに掲載されている記事を読んで、ディスカッションをしたりしていることを紹介しました。濵田氏からは具体的なQ&Aを示して、どちらがその人がわかる質問になっているのかを学生に考えてもらうようにしていることが示されました。矢部氏からは、ウェブサイト掲載の記事をみながら、実際にはどのような質問をしてこの話を引き出したかを考える活動の試みが紹介されました。
高校で取り入れるには?
海外の高校で日本語を教えている方からは、高校で取り入れるためのヒントがほしいという希望がありました。重信氏は初級でも十分可能であり、翻訳アプリを使いながら、演劇を取り入れたり、ニュース形式にしたりと、発表会自体を学生が楽しんでやっていたと報告しました。
これらのほかに、インタビュイーの探し方、もっと時間をかけたかった活動は何か、追質問ができるようになるためにはどうするかなど多くの質問があがりました。
終了後、実践報告を聞いて「やってみたい」というメールや、「イメージがわいた」といったコメントを多くいただきました。また、実践報告した方からも、最近の皆さんの実践を聞いて刺激になった、という声をいただきました。
ときめきプロジェクト、ときめきウェブサイトがプラットフォームとなり、情報交換できるコミュニティがあることが、プロジェクトの活動をさらに活発にし、ひいては学生の深い学びにつながるのだと再認識しました。
事業担当:千葉美由紀
事業データ
ときめき取材記プロジェクト実践報告&情報交流会
2024年3月23日
オンライン
上田安希子(京都教育大学等講師)、重信三和子(明治学院大学等講師)、濵田典子(秋田大学助教)、三代純平(武蔵野美術大学教授)、矢部まゆみ(横浜国立大学等講師)
国内外から7名(日本5名、アメリカ1名、韓国1名)