公益財団法人国際文化フォーラム

遊びから始める学び

岩瀬直樹(軽井沢風越学園設立準備財団副理事長)

埼玉県の公立小学校教諭として、4校で22年間勤め、学習者中心の授業・学級・学校づくりに取り組む。2008年度埼玉県優秀教員表彰。2015年に退職後、東京学芸大学大学院教育学研究科教育実践創成講座准教授に就任。2018年3月退職し一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団で学校づくりに専念している。

私は2020年4月の開校をめざし新たな学校づくりに携わっています。楽天創業メンバーで2002年より一貫して教育をテーマに活動してきた本城慎之介、教育哲学者の苫野一徳、公立小学校で22年実践した後、教職大学院で教員養成に関わってきた私が発起人となって、「一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団」(以下、軽井沢風越学園)を設立しました。現在、学校法人の設置認可申請を終え、校舎の設計、入学希望者向けの学校づくり経過報告会、教員の採用、研修、カリキュラムづくり等、準備をしているところです。

学びの原点に戻る

人はどうやって学んでいくのかを見てみると、赤ちゃんは、たくさんの愛情をうけ、身の回りのいろいろなものに関心を向けながら、まず一人遊びをたっぷり楽しみます。豊かな一人遊びの時間を積み重ね、次に誰かと一緒に遊ぶことの楽しさを知ります。そして、遊びに応じていろいろな人と関わりをもちます。そうすることで、他者や世界に興味関心をもち、学んでいくのです。このような遊びが学びへとつながっていく自然な育ちを大切にした学校をつくりたいと考えました。その思いをベースに私たちは、3歳から15歳までが一つの校舎で学ぶ、軽井沢風越学園の開設に向けて動き始めたのです。

一斉授業・画一的なカリキュラム・固定的な学級編成等に代表されるような従来型の学校教育に限界を感じる一方で、子どもがもつ学ぶ力と学校教育の可能性を信じています。軽井沢の豊かな自然環境をいかし、3歳から15歳が共にゆるやかに関係する環境を整え、学校教育の新しいあり方を提示し、公教育のモデルとなるような学校をめざしています。また、軽井沢町との連携を重視し、長野県が進めているプロジェクト〝しあわせ信州〟(信州に暮らす人、または信州と関わりのある人が、身近にある価値に気づき、もっと信州を好きになって信州を発信していくプロジェクト)を学校教育の観点から具現化することで地域に貢献したいと考えています。

生きたいように生きるために

人は、誰もが「生きたいように生きたい」と願っています。本来学校は、そんな子どもたちの「生きたいように生きたい」を共に考え、それを実現するための力を育む場所です。しかし、それぞれの人が「生きたいように生きたい」と自由を主張し合うと、衝突が起きます。自分の自由を実現するために他者の自由を侵害する、ということも起きてしまいかねません。

だからこそ、私たちは他者の自由を尊重できるようになることが必要です。それを〈自由の相互承認〉といいます。苫野は、「学校は、すべての子どもたちに〈自由の相互承認〉の感度を育むことを土台に、この社会で〈自由〉に生きられる力を育むためにある」と公教育の原理を示していますが、私たちはこれを実現したいと考えています。異なる年齢の子どもが混在し、学びや遊び、生活の場面で協同したり、サポートしたり、時には対立したりするなかで、〈自由の相互承認〉を育んでいきます。こうして異年齢が混じり合うことで豊かな学びや経験が生まれると信じています。だから、私たちは学園を「幼小中一貫校」ではなく「幼小中混在校」と表現しています。

核になる「わたし」と「わたしたち」

現在、軽井沢風越学園では校舎のデザインと共に、カリキュラムづくりに取り組んでいます。カリキュラムは以下の3つを軸にしています。
①「わたし」からはじまる…自己主導
②「わたしたち」で広げる…協同
③「わたし」と「わたしたち」で深める…探究

第一の軸である「自己主導の学び」で大事なのは「学びの個別化」です。本来、私たちは学ぶペースも、得意な学び方も、学習履歴も、興味関心も違います。しかし、今多くの学校で行われている一斉授業では、前の授業までのことを「みんなが理解している」という前提で、全員が同じペースで進んでいくためにかけ算・わり算の段階で困っている子もいれば、その日の学習内容はとっくに終わっている子もいます。また、そもそも「座って聞く」という学び方が苦手な子もいて、一人ひとりの学びの様相は本当にさまざまです。やり直すチャンス、戻るチャンス、進むチャンスが保証されていない一斉授業は、「標準ペース」、画一的な学び方で進んでいくのです。そのペースや学び方に乗り切れなかった子は、学習から遠ざかっていきかねません。だから学びの個別化が必要なのです。学びの個別化とは「教師の力を借りながら自分で学習計画を立て、学ぶペース、学び方、学ぶ場所や教材等を選んで学習し、その学習を振り返って改善していくらせん型の学習」のことです。学びのコントローラーを自分で操作して学んでいくイメージです。

とはいえ、学びを個別化すると、一人ひとりが孤立してしまうのではないか。そんな心配もあります。そんなときに大切な軸が「協同」です。年齢を超えて「教えて!」「助けて」と気楽に聴き合える「ゆるやかな協同性」があって初めて、子どもたちは安心して自分の学びに没頭できます。異学年混在の良さをいかして学びを進めていくのです。学び方や学ぶペースは一人ひとり違うことをベースとして、その学びを必要に応じて助け合えるゆるやかな協同が支えます。そして、「ゆるやかな協同性」とともに大切であると考えているのは、「学校づくりを協同で行っていく」ことです。例えば、これまで多くの学校は教師がルールを決め、子どもはそのルールに従う、となりがちでした。軽井沢風越学園ではルールも子どもたちや保護者と一緒につくっていきたいと考えています。学校の生活や学習のなかで起きるさまざまな課題をどうすれば解決できるか、どうすればそれぞれの自由が大切にされるか、みんなの居心地がよくなるかを協同で試行錯誤する。それは苦労もともなうでしょう。しかしよりよい学校づくりに参画する経験は、「自分の手元から、自分や周りの社会はよりよく変えていける」という大切な原体験になるのではないでしょうか。そのためには「子どもや保護者は共に学校を創っていくパートナー」であることを前提にする必要があり、これは軽井沢風越学園で大切にしたいことです。

そして3つ目の軸が「探究」です。探究とは「自分(たち)自身の問いに対して、自分(たち)なりの仕方で、自分(たち)なりの答えにたどり着く」ことです。自分(たち)の問いや情熱から出発し、教科横断的に学んでいく時間を核とします。個人の問いから出発することもあれば、複数の協同のプロジェクトとして探究していくこともあり、その両方があって探究は深まります。社会構造の大きな転換により、これまでのように、「決められたことを決められた通りにできる力」以上に、自分から問いを立てて解決していく力が必要になります。そのためには、日々の学びで探究を原体験として積み重ねていくことが大切であると考えています。なにより学びとはそもそも「探究」なのです。それぞれの興味や関心、必要性や問いから始まることこそ「学び」であるといえるのではないでしょうか。
2017年8月に、小学生低学年と高学年を対象にサマースクールを実施しました。高学年向けでは、「3歳から15歳までの子どもたちが遊んだり学んだりする『風越山荘』を4日間で建築してほしい。開校後には敷地内に移築したい」と、22名の参加者一人ひとりに発注書を手渡しました。プロの大工さんの力を借りて、設計図を見ながらつくっていきました。その過程で、道具を使うときのルールを決めたり、よりよいやり方を見つけたら仲間に提案したり、助けがほしいときには声をかけたり、そんな姿が見られました。完成をめざして没頭する姿が印象的でした。これは軽井沢風越学園がめざしている遊びと学びの一端です。
現在、探究を核に、学びの個別化、協同化が重なり合いながら融合していくカリキュラムを作成しています。

こうした学びは本当に実現可能なのでしょうか。私は公立小学校で22年間、試行錯誤した経験から十分に実現可能と確信しています。
学習者である子どもたちには自己主導で学び、協同で学びや学校をつくり、自ら探究していく力がある。その力を十全に発揮する場が今までの学校には少なかっただけなのです。学校づくり、カリキュラムづくりのプロセスも公開しながら、丁寧に丁寧に2020年の開校をめざしていきます。

軽井沢風越学園内のイメージ図
校舎の模型
サマースクールで完成した小屋。参加した小学生が設計図を見ながら、大工さんの力を借りてつくった

※事業報告書『CoReCa2017-2018』(2018年11月発行)に掲載。所属・肩書きは掲載時のもの。