日本語教育はよりよい社会をつくるための鍵となる。吉峰晃一朗さん

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出版不況といわれるなか、日本語教育専門の出版社を2009年に立ち上げた吉峰晃一朗さん。出版という形で日本語教育を支えたいと語る。そんな吉峰さんの「んじゃめな!」

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日本語教育はよりよい社会をつくるための鍵となる
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2009年にココ出版を立ち上げた理由のひとつは、自分にできることがこれしかなかったから。まともにやった仕事って、日本語教師と本の編集しかないので。それともうひとつは、日本語教育に可能性を感じていたからです。日本語教育はよりよい社会をつくるための鍵になると思うんですね。

今の日本社会はコミュニケーション不全に陥っています。批判的に思考したり、正しいと思うことを主張したり、議論してコンセンサスを形成したりする能力に欠けています。特に、コミュニティが弱まったことで、子どものコミュニケーション力が育つ場がなくなりました。コミュニティがしっかりあった時代には、「聞く話すは家でやってください」でよかったのですが、今は学校で教えなきゃ、身に付ける機会がない。ココ出版を立ち上げてすぐに出した本に、『小学生のための会話練習ワーク』というのがあって、例えば、「ドッジボールをする場所がほかのクラスの子とバッティングしました。このときにどうやって調整しますか」といったタスクが入っています。ロールプレイは外国語教育ではよく使われますが、国語ではあまり見られませんよね。コミュニケーション力を育てるのに、コミュニケーションに重点を置いてきた日本語教育のノウハウが生かせると思うんです。

私は外国人に対する日本語教育でも、ことばを道具として教えるのではなく、ことばを教えると同時に、人間性を育てていくこと。そして自分で考えて、自分で判断して、それを自分のことばでちゃんと伝えるということもめざすべきだと思うのです。それから、外国人に日本人と同レベルの日本語力を求めるのではなく、私たち日本人が相手のレベルにあわせて、文法や語彙をコントロールしていくことも大切ですね。

こうした考え方は、これまでの経験が土台になっています。大学のときはずっと「アジアの連帯」みたいなことを夢見ていて、大学卒業後、中国に留学しました。そこで出会った韓国人留学生に勧められて、済州島の語学学校で日本語を1年間教えていたのですが、そのときに、慰安婦問題とか、日本とアジアの歴史について改めて考えました。「日本語教師はことばだけを教えるのではない。もっと学ばなければ」と思い大学院に進学しました。そこで出会った田中望先生に強く影響を受けましたね。

ココ出版のココは、「コインランドリーコミュニケーション」の略なんです。といっても私の造語ですが。「井戸端会議」ってことばがあるけれど、コインランドリーで洗濯が終わるまで横の人としゃべったり、しゃべらなくても場を共有する。そんなコミュニケーションのあり方をイメージしています。一方で、日本でコインランドリーを使う人は社会的にマイノリティだったりします。そういう人たちとの連帯という意味もあります。
出版という形で日本語教育を支えることで、多文化共生社会を実現したい。日本語教育に希望をもっているからそう思うのです。