PCAMPの5年総括

2023年5月28日に広島県呉市で公開報告会を開き、「多文化×芸術」をコンセプトとするプログラムの立ち上げから、コロナ禍で対面型を断念し、オンラインでのプログラム実施を試み継続してきたこと、そして昨年の広島での対面再開(ひろしまPCAMP2022)までの5年の歩みを、関係者のインタビュー映像や壇上でのトークを交えて振り返りました。

このページでは、この報告会での動画を交えて、PCAMPの5年を総括します。

1.PCAMP草創期

「パフォーマンス合宿」は、2017年度、財団設立30周年記念事業として、「多文化共生」をめざす、合宿型交流プログラム、という位置づけで立ち上げました。すべてが模索からの始まり。文化の違いを乗り越えて相互理解を図るには「協働」の必然性を創り出す必要がありました。そして、言語の壁を乗り越えるには、「芸術」が有効と考えました。

そんなときTJFは、芸術を活用した多文化共生プログラムを開発、実践していた田室寿見子さんと出会いました。早速、田室さんをプログラム・コーディネーターに迎え、パフォーマンス合宿が動きだしました。

田室さんのメッセージ

田室寿見子さん プロフィール

人種や国籍、言語・ジャンル等の枠組みを超えたパフォーマンス創作をめざし、2004年にSin Tituloを設立、日本外国特派員協会などを拠点に上演。2008年に岐阜県の可児市文化創造センター依頼により「多文化共生プロジェクト」を立ち上げ、総合ディレクターとして2012年まで製作。2014年より東京芸術劇場において人材育成・教育普及を担当、2021年より多文化共生事業を開始。

パフォーマンス合宿の5ヵ年総括報告会に寄せて

私が岐阜県可児市で海外ルーツの方々と演劇活動を行っていたことで、TJFから声をかけていただき、この合宿の立ち上げから最初の2年間関わりました。

集団生活が苦手な人もいますが、合宿は寝食を共にするからこそ生まれるつながりや友情があると思っています。みんなと一緒に何かをつくるという経験は、若いうちのほうが浸透力や影響力が大きく、そういう意味では中高生時代にぜひ経験しておいたほうがいいと思います。

合宿のプログラムづくりでは、「どこから来てどこへ行くのか」という、その人の原点にふれる活動を重視しました。わざわざ告白するのではなく、ゲームのなかでぽろぽろとお互いを知っていくような仕掛けが大事だと思います。言うほうは言いやすいし、聞くほうも意図せずして相手の原点にふれることで自然に好奇心がわき、もっと知りたいという気持ちになるからです。

ダンスや音楽など、ことばがなくても楽しく交流できる表現もありますが、もう一歩絆を深めるには、いろんな人と想いを語りあう場が必要だと思っています。そのため、パフォーマンス合宿でも言語サポートを考慮しながら、個人の思いを引き出して共有するワークを多く取り入れました。

そして思いを語りあう場をつくるには、ことばがわからないことや文化が違うことがどういうことなのかを想像できて、柔軟性があり、配慮ができるファシリテーターの存在が欠かせません。参加者が抱くであろう「違和感」を肌で感じることができる当事者が運営側のスタッフとして関わっていくことが重要で、パフォーマンス合宿では参加者のなかからそういう人材を輩出していける可能性があり、それこそがこの事業の強みだと思います。

芸術と多文化共生は相性がいいと思います。なぜなら芸術表現は多様であればあるほど、人と違えば違うほど豊かになっていくからです。個々人のなかに元々ある豊さを引き出して受け入れること、枠に縛られないあらゆる表現や、まだ世に存在しない価値が創り出されることが、すべて肯定的に受け止められるのが芸術だからです。

多様な言語的・文化的バックグラウンドをもつ人はより豊かなものをもっていますが、それは学校の「国語」や「歴史」など、授業では引き出せない豊かさでもあります。芸術の役割は、教科学習から外れたところでその人の個性や価値を引き出せる、また引き出されるところにあると思っています。

最後になりますが、多様な中高校生がパフォーマンス合宿の創作活動を通じて、自分と相手の中にある豊かさに気づき、それに喜びを感じ、よりよく生きるエネルギーにしていただきたいと願っています。

田室寿見子
2023年5月28日

2つの課題

2018年3月2019年3月と順調に滑り出した「パフォーマンス合宿」ですが、2回の開催を通して、2つの課題が見えてきました。

【課題1】
日本には多文化に適した芸術プログラムが、まだ確立されていませんでした。演劇とダンスの融合の方法も含め、ファシリテーターたちはプログラム構成に苦慮をしていました。

【課題2】
参加者主導の創作プロセスを重視すべきか、ファシリテーターの主導によって、作品のクオリティを重視すべきか、そのバランスについて、運営チームの間で意見が分かれ、大いに葛藤しました。

多文化共生を志向するプログラム

TJFは多文化共生を志向する演劇プログラムのブラッシュアップと、多文化に対応できるファシリテーターの発掘と育成を柱に据えて動き出しました。

2020年3月、海外の多文化演劇を学ぶために、イギリスの専門家を招聘し、演劇ワークに特化した企画を考えていました。また、演劇以外の芸術表現を用いた「パフォーマンス合宿」も構想。2020年8月に広島で、ダンス、音楽、造形を組み合わせたプログラムの実施を企画しました。

しかし、コロナにより、この2回とも中止に追い込まれました。

2.コロナ禍でのオンライン版実施

①ダンス×音楽×造形

その後TJFは、「パフォーマンス合宿」を再開する道を必死に探りました。

広島合宿でファシリテーターをお願いする予定だった、振付家・ダンサーの田畑真希(まき)さん、舞台音楽家の棚川寛子(たな)さん、美術家の水内貴英(ジョニー)さんに相談。オンラインでのアクティビティなど研究を重ね、オンラインでの「パフォーマンス合宿」に活路を見出します。

そんななか、1つの問題が浮かび上がりました。
創作の発表をどうするか?
「映像による発表はどう?」ファシリテーターのひとりが提案しました。

そこでファシリテーターチームに新たに映像の専門家、山泉貴弘(ヒラ)さんを加え、2020年8月にオンライン上での実施にこぎつけました。続けて、同じチームで2020年11月にも同様のプログラムを実施しました。

ファシリテーターのインタビュー

♪まきさんのインタビューロングバージョン(約15分)はこちら

♪たなさんのインタビューロングバージョン(約5分)はこちら 

♪ジョニーさんのインタビューロングバージョン(約7分)はこちら

♪ヒラさんのインタビューロングバージョン(約14分)はこちら

②演劇プログラムの実践への挑戦~VRの導入

ダンス、音楽、美術による「パフォーマンス合宿」のオンライン版を2回実施してみて、想定以上の成果をもたらしました。しかし、心残りもありました。「海外の多文化演劇からの学び」と「多文化共生を志向する、演劇プログラムの実践」が、中止のまま置き去りになっていたのです。

「パフォーマンス合宿」のオンライン版に演劇を組み込む可能性を模索しました。そこでVRに注目し、VRを活用することでパソコンの画面を飛び越えて同じ空間を共有できないだろうかと考え、導入しました。

そして、海外で「多文化演劇教育」に取り組む専門家としてNY在住の森永明日夏(ASUKA)さん、国内の「演劇教育分野」で活躍する柏木俊彦(トシ)さんに、さらにVR専門家としてVtuberの星音(しおん)さんをファシリテーターチームに加え、2021年3月にVRを活用した演劇中心のプログラムを実施しました。

ファシリテーターのインタビュー

♪星音さんのインタビューロングバージョン(約5分)はこちら

♪ASUKAさんのインタビューロングバージョン(約12分)はこちら

♪トシさんのインタビューロングバージョン(約20分)はこちら

2021年度もVRを含め、オンラインプログラムを3回実施しました。
・2021年夏、ダンス、音楽、美術、映像のプログラム
・2021年冬、「パフォーマンス合宿」の手法を応用した、絵本を題材とする「日露高校生パフォーマンス交流」
・2022年春には、演劇、ダンス、映像、VRのプログラム

コロナ禍という想定外の事態によって、オンラインでも効果的に交流ができるプログラムを開発できたばかりでなく、アニメーション、映像、VRなど、新たなIT技術の導入にも、一定の経験と成果が得られました。

また、参加対象が国内の多様な高校生等から、海外の日本語学習者、継承日本語学習者まで広がりました。マルチ交流、二言語・二文化間交流の、一つのスタイルを確立することもできました。オンライン交流は、もはや対面交流、直接交流の代替品ではなく、新しい交流方法、表現方法であることを認識しました。

対面でもオンラインでも、「パフォーマンス合宿」の精神である「参加者たちに表現を通して、自他理解を深め、前へ進む自信をつけてほしい、多文化社会を担う若きリーダーに育ってほしい」という願いだけは変わりませんでした。

参加者のインタビュー

♪Emillyさんのインタビューロングバージョン(約13分)はこちら

♪そうたさんのインタビューロングバージョン(約7分)はこちら

♪あいれんさんのインタビューロングバージョン(約3分)はこちら

♪りんかさんのインタビューロングバージョン(約8分)はこちら

♪雨林さんのインタビューロングバージョン(約9分)はこちら

♪はるかさんのインタビューロングバージョン(約3分)はこちら

3.地域化構想~対面再開に向けて

2022年、厳しい行動制限が緩やかになり、世の中はwithコロナの流れになっていきました。高校生のなかには、オンラインだから合宿に参加したという声も多くありましたが、一方、対面合宿も体験してみたいという感想もたくさん届きました。

そこで「パフォーマンス合宿」、オンラインと対面を並行して実施するフェイズに入っていきます。

北海道や沖縄など、遠隔地からの参加者、対面は苦手なのでオンラインで繋がりたい参加者、海外からの参加者などが増えたことから、オンラインでの合宿は継続。

もう一つは、原点回帰。元々のコンセプトだった、多様なバックグラウンドをもつ日本国内の高校生等に多文化共生を体感してもらう、対面式「パフォーマンス合宿」の再開です。

地域の支援団体とコラボ

現在の日本では、海外につながる青少年が多く生活し、学んでいる地域が増えています。そこで、各地域単位で多文化共生に取り組んでいる支援団体とTJFがコラボし実施していくという「パフォーマンス合宿の地域化構想」を立てました。

この構想は、多文化共生に根差した地域づくりに貢献できると考えています。
1.地域の多様な高校生及び高校生年齢の方同士の出会いを創り出し、地域の多文化共生を担う、次世代の仲間づくりに貢献。
2.地域の資源と人材の活用に貢献。
3.パフォーマンス合宿の趣旨と手法を用いて、共同で運営することによって、地域に寄り添った「多文化×芸術」プログラムを確立することに貢献。

地域化の第一弾「ひろしまPCAMP2022」

地域化構想の最初の連携先として、コロナ禍以前から交流のあった広島県の安芸高田市国際交流協会に提案しました。そして、2022年8月、国際文化フォーラム主催、安芸高田市国際交流協会共催、呉市、東広島市、福山市の諸団体と協力体制を組む、「パフォーマンス合宿 in 広島」、通称「ひろしまPCAMP2022」が生まれました。

「ひろしまPCAMP2022」は、海外につながりがある高校生等を含む、県内の27名の方が参加してくれました。ファシリテーターチームは、これまで対面式合宿やオンラインでの合宿で、長く関わってくださった3名を中心に、広島で活躍する演劇の専門家2名が加わりました。

最後の成果発表会では、地元のスタッフが音響・照明を担い、舞台美術は、地元の福祉施設でつくられた「さをり織り」を活用しました。発表会には、参加者の家族、支援者を含む80名、さらに行政からは市長や市の職員が来場してくれました。

「ひろしまPCAMP2022」ダイジェスト版(14分)

「ひろしまPCAMP2022」を地元から支えた3名のトーク(17分)

「ひろしまPCAMP2022」に深く関わり、地元から支えた3名の方、演劇専門のファシリテーター、坂田光平(チーター)さん、江島慶俊(ジーマ)さん、そして、共催機関・安芸高田市国際交流協会代表理事、明木一悦さんに登壇していただきお話を伺いました。

「ひろしまPCAMP2022」参加者・家族のインタビュー

♪ひなたさんのインタビューロングバージョン(約8分)はこちら

♪二リマさんのインタビューロングバージョン(約3分)はこちら

♪もえぴーさんのインタビューロングバージョン(約3分)はこちら

♪クリスさんのインタビューロングバージョン(約2分)はこちら

♪のっちさん、るりさん、えなさん、あおいさんのインタビューロングバージョン(約4分)はこちら

♪セラさんのインタビューロングバージョン(約5分)はこちら

♪こはるさんのインタビューロングバージョン(約6分)はこちら

今まで延べ約200名、22の国や地域につながりのある多様な高校生、及び高校生年齢の方々が「パフォーマンス合宿」に参加してくれました。「パフォーマンス合宿」の体験が、参加者自身の視野を広げ、互いの文化理解を促し、未来を切り拓いていく、力の一助になっていることを、願っています。

「パフォーマンス合宿」は、これからも「多文化共生の地域づくり」をめざしていきます。2022年の「ひろしまPCAMP」を「地域化」のスタートと位置づけ、これをしっかりと広島に根付かせ、たくさんの花が開くよう、全力でサポートしながら、「多文化×芸術」をコンセプトに、各地に広げていきたいと考えています。

「ひろしまPCAMP2023」~実行委員会の立ち上げ

2023年度は、広島県呉市にて「ひろしまPCAMP2023」を開催します。呉市国際交流協会の共催、呉市及び、広島県教育委員会の後援、広島県内の各地域のNPOや市民団体の協力のもと行います。これらの団体の関係者をコアメンバーとする「ひろしまPCAMP 実行委員会」を初めて立ち上げました。

実行委員長・伊藤美智代さんのメッセージ(5分)

財団設立30周年記念事業として立ち上げた「パフォーマンス合宿(PCAMP)」は、5年間の歩みを経てひとまわり成長しました。

TJFは「ひろしまPCAMP」が持続的に発展できるよう、引き続き皆さまにさまざまな形での関わりとご支援をいただくようお願いします。そして、多くの地域の方々とコラボして「多文化×芸術」をコンセプトとするPCAMPを広げていきたいと考えています。

PCAMPにご興味・ご関心のある方はこちらからお問い合わせください。

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