目次
1. 鹿児島県日置市との連携と永山市長のご来訪
TJFは、これまで数年間にわたり事業をご支援いただいてきた鹿児島県日置市と、2025年2月に「本質的・探究的・体験的な学びを通した生涯学習の推進に関する包括連携協定」を締結しました。

2025年2月28日に日置市役所で行われた連携協定締結式を行いました。
永山由高市長(左)と佐藤郡衛TJF理事長(右)。
先月(11月)には、永山由高日置市長がTJF事務所にお越しくださいました。人口減少や高齢化による地域活力の低下など、多くの自治体が共通の課題に直面するなか、日置市は「対話と挑戦」をモットーに、「教育・子育て支援」をはじめ、さまざまな改革を実現しています。

TJF事務所にて。
左から、水口常務理事、佐藤理事長、永山市長、進藤事務局長。
TJFの日置市での活動は、行政や地域のさまざまな方々に支えられています。挑戦を後押ししてくれる恵まれた環境のもと、「モリトクラシト・メカニクス」を中心に、変化の激しい社会を生きる次の世代の力となるよう、地方を基盤とした教育プログラムに積極的に取り組んでいます。
2. モリトクラシト・メカニクス(モリメカ)とは

小中高校生を対象に、ものごとの構造や連鎖を注意深く観察し、課題の解決を見いだす考え方と技術を体験できる場をつくっています。
与えられる情報に身を任せるのではなく、自分の確かな経験と知識をかけあわせて目の前で起きていることの成り立ちを見極め、行動を決めていく。
その経験の積み重ねが、どんな時代であっても子どもたちが生きていく支えとなり、異なる価値の対立、格差と分断といった社会課題を前にしても絶望せずに知恵を生み出す土台になると考えています。
これまでに、日置市および鹿児島県内・県外から、延べ360人の小中高校生と211人の保護者が参加しています(2025年11月現在)。

身近な自然素材から暮らしに必要なものを作る
身近な草木や竹、石といった自然素材を道具を使って加工し、履物や布、入れ物、建物といった暮らしに必要なものを作る講座を月に1-2回、おもに鹿児島県日置市で開催しています。
ここで扱う技術は、今ある課題の解決だけでなく、環境負荷などの新たな問題を発生させることがないよう考え抜かれています。講座では、こうした技術の使い手になることが自分自身と社会、環境にどのような変化をもたらすのかについても考察します。

実体のあるものを扱い、リアリティに向き合う
暮らしに必要なものは、「素材の特性の理解」、「欲しい機能を成立させる構造」、「技術」がそろわないと作れません。
実体のあるものを扱うからこそ、あやふやな情報や自分に都合のいい解釈は通用しません。必然的に、素材の特性と自分の作業の結果起きていることをつぶさに観察し、次のアプローチを考えて試し、その結果を確かめるというプロセスを繰り返すことになります。
その過程は、学校で学んだ理科や算数、社会科などのさまざまな知識が目の前の作業と結びつき、人生に役立つ知恵として学びなおされる場でもあります。



構造を捉えて根本的な解決をめざす
たとえば、竹を扱う回では、竹編みを覚えてかごやざるを作ったり、その技術を応用して強度のある建物(竹ドーム)を作ったりします。
今、全国で人口減少や高齢化などを背景とした放置竹林が問題となっています。けれど、竹から必要なものを作れるようになれば、竹は厄介者ではなく身近に手に入る貴重な材料に変わります。
さらに、竹で作ったものは数年で朽ちて土に還るため、材料の入手から加工・製作、使用後の処理に至るまで、少ない資源を奪いあうことも、環境に負荷をかけることもありません。

材料を入手して加工するだけでなく、材料の竹が生える山の手入れを体験するプログラムも開催しています。
竹や木の枝、葉っぱを使ってできるので、大きな機械を必要とせず、多くの人が取り組めます。斜面の土が崩れないように土留(どど)めを作ったり、山のなかの水が流れやすいように水路をととのえたり、人が通れる道を作ったり。
目の前の竹林だけでなく、竹林の周囲、そしてその先にある川や海にも視野を広げ、どうしたら全体がよりよくなるかを考えながら手を動かします。
手入れ後は、陽のあたりかたや水や風の流れにどのような変化が起きたかも観察します。
子どもたちは、繰り返し講座に参加することで、ものごとの構造や連鎖を捉えて根本的な解決を見いだす考え方や方法を体感していきます。

【ナイフや斧も扱います】
ナイフや斧などの刃物も、自然素材を加工するのに欠かせない道具としてよく使用します。
「ナイフや斧を扱う」→「大怪我をする」の間にはいくつかの分岐があります。モリメカではまず最初に、みんなで具体的な場面を想像し、どんな扱いをすると怪我につながるのかを考えるところから始めます。
「危ないからこわい! 使っちゃダメ!」という自動思考をこえて、扱い方を学び、実際にたっぷり時間をかけて使ってみる。そういう体験が、刃物に限らず、そして子どもであれ大人であれ、リスクをただ怖がって避けるのではなくどうやったら扱えるかを考えて行動していくための訓練にもなるのではないかと考えています。

講師・企画協力: テンダーさん

鹿児島県日置市で、環境問題を解決するための工房「ダイナミックラボ」を運営。システム思考、オープンソース、非暴力コミュニケーション、先住民技術、適正技術等の人類の叡智を核に、考え、実践・実現し、伝えることを繰り返しています。
2021年2月〜2023年3月まで、「テンダーさんの『その辺のもので生きる』オンライン講座」(TJF主催)の企画・講師を担当。著書に「わがや電力 12歳からとりかかる太陽光発電の入門書」(ヨホホ研究所)。
石器時代の古い技から鉄を使った機械設計まで、たくさんの技術の中からちょうどいいものを選ぶ練習をしています。ちょうどいい技はお金もかからず、自然を壊さず、誰にも嫌な思いをさせずに問題を解決できると考えています。

保護者のみなさんからの反響
毎回楽しみに参加させて頂いています。こども達の学校での学習意欲にも繋がっているのを感じています。例えば、小5の社会で日本の昔の米づくりについて学んだ時、道具や知恵に感動したレポートをまとめたり、中学生の子どもは「コンクリート水路が及ぼす水辺の生き物への影響」について自由研究したいと考えていたり、体験からさらなる問いや学びへの広がりを感じています。
前回の竹編みに参加し、また参加したいと、声が上がりました。テンダーさんが面白く教えてくれて、初参加でしたが、気を張らず安心して参加でき、次に繋がって嬉しく思います。竹編みドームに子ども達も感動していました。参加して終わりではなく、家でも編んでいて、生活の中で続いています。生きる力、気力、ともに伝わり、とてもあり難いワークショップに感謝しています。家族ともどもよろしくお願いします。
毎回親子で楽しみにしております。竹のしがらみや水路を作るなど、山を背負って暮らす日常にも活かせていて大変ありがたいです。自分の手で道具を作るのは初めてなので、とても良い経験になると思います。
これまで身の回りのものを作るワークショップや体験に参加したことはありますが、階段や道、水路などのインフラを作る機会はありませんでした。自分たちで作れるものだと考えたこともなかったので、とても良い機会をありがたく思います。
自然遊びが大好きです。普段は、学校、習い事に埋もれてしまって、意識しないとなかなかできない経験でもあるので、五感を使って楽しむ感覚を忘れないように定期的にこうしたイベントに参加させていただいています。竹という素材の特性や、編む楽しさ、物をつくる時に必要なコツを少しでも体得してくれたらうれしいです。
私たちが小さい頃は、必要なものは身の回りにあるもので作ってきたことを覚えています。経験こそ宝です。
少しずつ知識と経験が増えていくことが子どもたちにとってとても良い経験となっています。
これまでに開催したプログラム
下記画像をクリックしてご覧ください。

事業担当:室中直美
