心と味と魚。佐藤慎司さん

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初めて食べたあの味、忘れられないあの味......。そうした味の思い出を持っている人は多いと思います。そして、それはただおいしかった、まずかった、というだけでなく、そのときいっしょに食べた人や光景などを脳裏によみがえらせるのではないでしょうか。このコーナーでは、もう一度食べたい味(My Gochi/マイゴチ)と、それにまつわるエピソードをお届けします。

今回登場するのは米国プリンストン大学で日本語を教える佐藤慎司さん。佐藤さんの専門は教育人類学と外国語教育。さて、どんな「Gochi」を紹介してくれるのでしょうか。

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心と味と魚
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最近、幸運にもいろいろなところにお邪魔し、いろいろなものをいただく機会があります。ヴェニスのシーフード、ペナンのEast & Oriental Hotelのビュッフェ、シドニーの日本語教育国際研究大会でのティータイム、サンパウロで食べたシュラスコ、シンガポールのチキンライス、パリの鴨、ライデンで出された巨大パンケーキ、マドリッドで何度も食べた生ハム、北京で食べた手作り餃子や蚕の唐揚げ、金沢のくずし懐石など思い出すだけでもよだれが出そうなものがたくさんです。その中からどれか一つを選ぶとなると......。

やはり、それは北海道の海辺のとある町で食べた刺身です。

15年以上前に、私は博士論文の研究のためにその町の保育園や幼稚園で1年ほどお世話になりました。こちらがお世話になってばかりなのに、いろいろな方がいろいろ気を使ってくださって、涙の出るようなフィールドワークの経験でした。

ある日、保育園の給食の先生が「さっき釣ったばかりだよ」と新鮮なマコガレイを持って来てくださいました。それはたいそう大きなマコガレイでした。ただただびっくりするばかりで、どうしたらいいんだろうかと考えていると、別の先生がそれをささっと刺身にしてくださいました。もちろん、そのマコガレイは大きくて食べきれない量でしたから、残りは「ああ、昆布締めにしましょう!」とのことで、昆布締めに...... 。昆布締めに使う昆布は、またまた別の先生の実家が昆布で有名なお宅だったのでその昆布を......。それはたいそうりっぱな昆布でした。そして、締めてくださった昆布締めの刺身の味は......「筆舌に尽くしがたい」とはまさにこのことを言うのだなと心の底から思いました。しいて言葉にするなら、昆布のいい味と新鮮な魚のハーモニーが素晴らしいということでしょうか?

これは、ただ食べ物が新鮮で美味しいというだけでなく、わざわざ釣った魚を届けてくださった先生、実家の立派な昆布を分けてくださった先生、昆布締めを作ってくださった先生、そして、わいわい言いながら食べた仲間といろんな方の心がこもっていたからこんなに美味しかったのだと思います。

また、保育園の近くで居酒屋をしていらっしゃる園児のお父さんが出してくださった刺身の盛り合わせ、これは世界一です! 私がお店に行くと事前に保育園の先生が知らせてくださったところ、わざわざ食材を吟味して遠くからも取り寄せてくださったのです(涙)......。こちらもただ刺身が新鮮なだけではなく、心が感じられる、それは それは贅沢な素晴らしい味でした。それを仲間と笑いながら気を使わずに食べる、最高です!