ぼくをかえた孫悟空。高取優耶さん

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福岡で黒龍舞術団を主宰する高取優耶(たかとりゆうや)さん。中国に伝わる門外不出の芸である変面や獅子舞、椅子の倒立芸などを演じる。高取さんはTJFが2007年に実施した第1回日中の高校生サマーキャンプの参加者だ。黒龍舞術団を立ち上げたのは高校を卒業してすぐの頃。高取さんの「んじゃめな」!

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ぼくをかえた孫悟空
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高校に入ってすぐにCMで知っておもしろそうだと思って吉林省京劇院の公演を観にいきました。上演されたのは西遊記。きらびやかな衣装、聞きなれない音楽、完成された芸。なかでも孫悟空がかっこいい、と純粋に思いました。その直後にサマーキャンプのことを先生から聞いて、これだと思ってすぐに応募しました。全国の高校生100人とは、それぞれが中国への思いをもっていたからかすぐに仲良くなりました。北京のあと訪れた大連では京劇を鑑賞することになっていました。孫悟空がすごく好きな参加者がいるとTJFのスタッフの方が京劇団に話をしたところ、演目を西遊記にかえてくれました。素晴らしい舞台だったことを今もはっきり覚えています。そして何よりもひとりのために演目をかえてくれたことに感動しましたし、その心は演じる側になった今のぼくに生きています。

翌年、高2の夏休みに、アルバイトでためたお金でひとりで北京に行きました。本当は孫悟空を習いたかったのですが、ツテもないので語学学校に通うことにしたのです。幸運なことに舞台を観にいったときに、北京京劇院の一級俳優さんを紹介されて、マンツーマンで習えることになりました。週に1、2回、2ヵ月教えてもらいました。語学の授業と孫悟空のレッスン、その合間には演劇道具、獅子舞の面や衣装などを買いました。日本に帰ってから獅子舞同好会を同級生や後輩10人ぐらいでつくりました。初めて演じたのは獅子舞で、舞台は学校の文化祭でした。

◎黒龍舞術団を立ち上げる
高校卒業後、地域のイベントから声がかかるようになり、黒龍舞術団を名乗るようになりました。といっても、所属するのは自分ひとりで、イベントや公演にあわせてフリーでやっているパフォーマーに声をかけています。口コミで依頼が増えてきて、ステージでもらう報酬で一人暮らしができるようになったときは感慨深いものがありました。それから4年、今年6月には12人が演じるこれまでで最大の舞台を北海道で行うことになっています。

実はぼくは人一倍引っ込み思案でした。そんなぼくをかえてくれたのが西遊記です。高1で初めて見た京劇公演の最後に、孫悟空を演じた俳優さんが小道具をプレゼントするという場面がありました。目があってぼくのほうに投げてくれたんです。なのにぼくは手を伸ばすことができず、ほかの人の手に渡ってしまいました。そのときの喪失感と敗北感。このままではいろいろなものを取り逃がしてしまうことを身をもって知ったからこそ、アルバイトを始めましたし、サマーキャンプにも参加し、ひとりで語学留学にも行ったのです。ぼくの人生のなかで孫悟空は本当に大事です。

変面や京劇を好きな気持ちは今も変わりませんが、中国にこだわるのではなく、いろいろな国や地域の芸、さらに伝統的か新しいかにもこだわらず、自分がいいと思ったもので舞台を構成したい。自分の芸もまだまだ磨いていきたいのですが、それよりもパフォーマーの人たちに出たいと言ってもらえるような舞台を演出したい。これが今の大きな目標です。

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