
「T-ARTフォーラム2025」開催レポート
2026.01.28
- 日時
- 2025年11月23日(日・祝)10:00~16:30
- 会場
- 東京国際交流館 メディアホール
- 参加費
- 1,000円~3,000円
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TJFは2025年11月23日、第1回となる「T-ARTフォーラム2025」を東京国際交流館(メディアホール)にて開催しました。「T-ART」とは、多様な中高生年代を対象とする多言語・多文化交流「パフォーマンス合宿(PCAMP)」をはじめ、TJFが「多文化×芸術」をコンセプトに実施している一連の事業の愛称です。TはTabunka(多文化)、Teaching Artist、TJFの頭文字から取りました。
開催同日に立ち上げた「多文化×芸術」ネットワーク(T-ARTネット)を推進するプログラムの一つが「T-ARTフォーラム」で、実践報告会、展示会、交流ランチョン、勉強会から構成しました。芸術関係者、教育関係者、多文化共生活動関係者、行政者、学生など様々な属性を持つ一般参加者が27名、登壇アーティスト・運営関係者・スタッフが計20名、合計約50名が参加しました。



「T-ARTフォーラム」の開催目的
「T-ARTフォーラム」は以下3点を目的に開催しました。
1.芸術の力を活かした多文化共生実践活動(T-ART活動)を発掘・集約・共有・発信します。
2.T-ART活動の実践者間ネットワークを形成し、学び合いと連携を促進します。
3.T-ART活動のリソース(人材・知見・情報の蓄積)と社会的ニーズ間の相互アクセスを促進します。
「T-ARTネット」立ち上げの経緯
アーティストをはじめ、各地域の文化・芸術団体、多文化共生に取り組む皆様のご協力により、PCAMPをはじめとするT-ART事業は、2017年より8年の積み重ねを経て、広がりと深化を遂げています。PCAMPに加え、体験ワークショップやティーチングアーティスト(TA)研修などを各地で展開するなかで、芸術の力を活かした多文化共生や多様性包摂社会づくりの可能性についてより一層確信するようになりました。 本事業の持続とさらなる発展を図るために、T-ART事業を共に育ててくださったアーティストの皆様をコアメンバーとするT-ARTネットを立上げることにしました。
T-ARTネットはT-ART事業の基盤強化の一環であり、芸術の力を活かした多文化共生や多様性包摂社会を志す方々がつながり、学び合い、連携して活動し、社会に向けて広く発信するためのプラットフォームになることを願っています。立ち上げ年度にT-ARTネットに登録したアーティストは15名(2026年1月現在)です。詳細についてはT-ARTネットのウェブサイトをご参照ください。


T-ARTフォーラム開会
フォーラムは午前10時にスタートし、オープニングでは、PCAMPから始まったT-ART事業を短い動画と事業担当(長江)の説明を通して簡単に振り返りました。

続いて、TJFの事務局長(進藤)より、T-ARTネットの立上げを宣言し、立上げの趣旨・目的と共に、T-ART事業のコンセプトについて説明しました。


T-ART事業は、地域の多文化共生、地域づくりへの寄与を大切にしており、特に以下の3つのポイントを挙げました。
1.地域における多文化共生活と芸術活動をつなぐこと
2.T-ART事業を地域で持続的に転嫁するために、地域の資源や人材を巻き込むこと
3.地域に根差したアーティストの人材育成

実践報告会
実践報告は、芸術の力を活かした多文化共生社会づくりという共通目標のもと、TJFをはじめ各地域の団体やアーティストの実践活動を紹介し、報告者と参加者間の対話を通じて、T-ART活動に関する情報共有と理解を深めることが目的です。
第1部「共に創る・育てるPCAMP」
TJFが2017年度より東京・広島・富山で展開してきたPCAMPに関して、ファシリテーターを務めた演劇や身体表現を専門とするアーティスト、共同主催者など、様々な立場と視点から報告していただきました。
第1部の登壇者は以下の5名でした。

税光華氏
2024年、2024年TJFと公益財団法人富山市民文化事業団の共同主催で「とやまPCAMP」を実施した際、事業団職員として現地運営を担当した。現在は一般財団法人地域創造に出向中。
柏木俊彦氏
2021年よりメイン・ファシリテーターとしてPCAMPに関わってきた演出家・舞台俳優
坂田光平氏
2022~2024年、3回にわたって開催した「ひろしまPCAMP」においてサブ・ファシリテーターを務めた舞台俳優・舞台美術
田畑真希氏
2019年よりメイン・ファシリテーターPCAMPに関わってきた振付家・ダンサー
長谷川万葉氏
2024年より「とやまPCAMP」のサブ・ファシリテーターを務めてきた舞台俳優・専門学校教員
登壇者よる自己紹介の後、柏木氏から登壇者に問いかける形で報告が進められました。お話いただいた概要についてご紹介します。
問1.なぜ、自分はPCAMPに関わっているのか(関わりたいのか)


田畑氏:
自分はダンス、身体表現が専門です。シンプルな気持ちでいうと「知合いたい」ということに尽きます。多文化の方々と交流する際、歴史や言語を知ることも大事ですが、結局は1対1で知り合う、対話する、違いを知る、そして自分も相手も認める、そういう幸せな出会い方をしたいと思っています。その出会いを作り出すには演劇やダンスが相性がいい、そういうことを目標に関わっています。


坂田氏:
俳優活動の傍ら介護サービスや障害を持つ方とのワークショップをしています。福祉や普段会わない人とお芝居をすること十年。PCAMPに関わっているほかのアーティストとのつながりで「ひろしまPCAMP」にサブ・ファシリテーターとして参加しました。ぼくは多文化共生という前に、一人ひとりに違いがあるということに興味をもっています。障害のある方も「障害」が先に来るのではなく「違い」を持った人がいて、その方がたまたま障害を持っている、というふうに考えたほうが、立場が違ってもスムーズに関わり合えると思います。違いがあるからこそ、知りたい、わかり合いたいと姿勢で関わっていくと、違いに対して寛容になれるし、自分のこと、そして相手のことを知りながら作品を作っていくと豊かなものが生まれると思います。このような取り組みが地域で広がっていくと多文化共生につながっていくと思います。なんといって高校生と関わるのは楽しい!


長谷川氏:
前職で田畑真希さんと出会い、富山で十年ほどワークショップや市民参加の舞台の企画・運営に携わったり、学校の出前授業にも行きました。真希さんのダンスワークショップに関わる中でいくつもの奇跡的な瞬間に出会いました。初めましての人たちがダンスを通じて一瞬で仲良くなったり、特別支援学級に出前授業に行った時、警戒心を露わにして先生の後ろに隠れていた子が、1時間のWSが終わるころには真ん前に出て踊っていたり。ダンスに限らず芸術の力を目の当たりにし、可能性を感じました。自身は中学校、高校で自身が不登校の経験をし、唯一参加した演劇部の時間に表現することで癒されました。周りに外国人が多い。配偶者が外国人であり、学生の5分の1が留学生である専門学校で働いています。勉強とアルバイトを頑張っている子たちが、一歩学校を出ると外国人というだけで冷たい言葉をかけられたりするとよく聞きます。もっと1対1で知り合う機会があれば、互いに理解したり、社会環境もよくしたりできると思います。そのやり方を知りたいのでとやまPCAMPにサブ・ファシリテーターとして参加しました。


税光氏:
きっかけは2022~23年頃、演劇を使った柏木さんたちのワークショップで、自分自身を知ることや人と関わる楽しさを体験しました。このような取り組みを富山にも導入したいと思ったが、なかなか伝手がなく、前職のオーバード・ホールの既存事業の中にどう組み込むのか、その方法がわかりませんでした。そんな時、田畑さんたちTJFやPCAMPのことを紹介していただいたのがきっかけで、ノウハウを共有していただける環境の中で導入に漕ぎつけました。


柏木氏:
2017年にニューヨークまで教育演劇のリサーチに行きました。大学に行く選択肢がない地域に演劇のアーティストが入って、演劇を通じて大学に行ける道を拓き、そこから将来を選択できるように支援する取り組みを見て、衝撃を受けました。日本にも同様なと取組みがないかと探したけれどありませんでした。そこで、ニューヨークからアーティストを日本に呼んで学びました。もう一つのきっかけは、身内に海外ルーツを持つ人が多くいて、それぞれ生きづらさを抱えていることを感じているからです。例えば、姪は親の都合でオーストラリアと日本を往復してきたのですが、日本語で苦労したり、国を跨ったら学年が違ったり、友達付き合いで苦労したり、家族内の言語が違って孤立するメンバーがいたり。それに対しアートで自分が何かしてあげられるかなともやもやしている時に、PCAMPに誘われ、この活動を通じて自分にできることを探そうと思い、参加しました。
問2.これまで興味深かった参加者、忘れられない参加者はいたか
登壇者の皆さんがPCAMPに関わり始めた時期や地域は異なりますが、過去の参加者へのインタビュー映像を少し見ていただいてから、それぞれ印象に残った参加者について語っていただきました。
- ・PCAMP参加当初と比較して参加後に変化が顕著に表れた参加者
- ・一参加者からサポーターに成長した参加者
- ・PCAMPへの参加を通して進学に積極的になった参加者
- ・仲間に対し温かい声かけや寛容な関わり方ができる参加者
- ・最終日に「PCAMPが終わってほしくない」と言ったアイドル志望の参加者

問3.PCAMPに関わるなかでアーティストとしての悩みはあったか
言語に関する悩み
「ぼくは日本語しか話せません。ちょっとした声かけでもほかの言語できませんでした」という坂田さん。「皆さんはどうしていましたか」と問いかけました。それに対し、田畑さんはあるエピソードを語りました。
それは、とやまPCAMPでのこと。ネパール出身の参加者が子どもの頃の遊びを紹介するのに日本語ではうまく言えず、やさしい英語で試みるもみんなに通じませんでした。それでも諦めず、最後にはその遊びを実際にやり始めたら「ああ、缶蹴りか」と理解し合えたのです。その共通言語を見つけるまで20分もかかりましたが、そのあとはスムーズなクリエーションができたのです。「その煩わしさこそ大切だったということでしょうか」と坂田さんが続けて問いかけます。
それに対し、長谷川さんは別の角度から、翻訳アプリや通訳を入れることに疑問を呈する形で見解を述べました。「翻訳アプリや通訳を入れることで煩わしさを回避できて便利かもしれません。その反面、20分もかけて共通言語を探す機会が減ります。人間は分かり合いたいけど分かり合えないもどかしさを感じてこそ、なんとか分かり合うための共有言語を探そうとします。その時間こそ大切だと思うのです」と長谷川さん。
「表情を見て相手を感じ、その思いに寄り添いたいという気持ちを持つことこそが大事で、便利さを追求するよりも、人間同士はコミュニケーションを丁寧に取っていけば分かり合える瞬間がきっと見つかると思う」と力強く語りました。

発表作品の完成度に関する悩み
PCAMPは基本3泊4日間しかありません。初日は知り合うためのアクティビティが中心です。2日目はアイデンティティを掘り下げたり、それをことばにしてみたり、作品の要素となる身体表現のワークもします。3日目はそれらを並べて作品に仕上げ、リハーサルを行って、4日目に発表という流れになっています。「そうしたタイトスケジュールであっても、できるだけいい作品創りを体験させるにはどこまで導き、どこから手放すのか、毎回悩む」という坂田さん。
それに対し、田畑さんは「参加者はプロフェショナルではないので、彼ら/彼女たちから出てきたことばを作品にするからには、あまり演出すると“やらされ感”を持ってしまいます。それはお互いにとって幸せではないと思います」という意見を出しました。そして、「とうきょうPCAMP」でブラジルにつながりを持つ一人の参加者が納得のいく表現を自ら見つけていくエピソードを語りました。アーティストの価値観に載せるのではなく、アーティストと参加者の対話をミルフィーユのように重ねていくことが大事という見解を述べました。
一方、長谷川さんは2024年と2025年のとやまPCAMPの発表を比較しながら見解を述べました。「前年は快適とは言えない宿泊所の大部屋で一緒にサバイバルしたからこそ感動の舞台が創れたのではないでしょうか。2025年は応募しやすいように配慮したであろう快適なホテルに宿泊先を変更したからか、前年に比べてぐっと湧き上がるものが少なかったように感じました」とおっしゃいました。

募集に関する悩み
「大勢の共同生活を重視すべきか、少人数で泊まる快適さを印象づけるか悩ましいですね。正解は分かりませんが、参加者募集に苦戦しているのは確かです」と共同主催団体の税光さん。「もともと表現したい参加者は自ら申し込んできますが、外国につながる子どもに関しては、協力諸団体からのお声かけに頼るよりほかない中で、なかなか応募に至らないのが現状です、と述べました。
最後に柏木さんから「募集の悩みもあり、パフォーマンスのクオリティの悩みもありますが、演劇発表の場合、内輪のシェアリング(共有)か、外に見せるためのパフォーマンスか、また、参加するメンバーや発表の目的によっても異なると思います」とのまとめがありました。

フロアーとの質疑応答
登壇者の発表後、フロアーと短い時間ではありましたが、質疑応答をしました。
Q.参加者たちはどのような動機から参加していますか?
A. PCAMPとは何かを分かっている人、海外につながる人と交流したいという人もいますが、多くは演劇、ダンスというキーワードを見て応募してくるというのが、とやまPCAMPの特徴です。
Q.日本語がどのくらいできれば参加できるのですか?
A.やさしい日本語が通じる程度、日本滞在1年程度をめやすとして募集要項に記載しますが、実際にあまり話せない参加者も受け入れています。
Q.PCAMPには様々なバックグラウンドを持つ参加者がいますが、多文化ならではの魅力は何ですか?
A.(登壇者一人ひとりの答えは以下の通り)
・文化的、宗教的な対応について学べます。
・参加者が違いを超えて認め合っている、許し合っているのが魅力です。
・最初に仲良くなるゲームで好きな食べ物、嫌いな食べ物について紹介しあう瞬間が好き。それなんですか、そうなんですね、という発見があります。
・多文化の子どもたちと分かり合えた瞬間が、日本人同士の時よりもうれしいです。職場の教え子の中で「ぼくは日本人と一緒に勉強できてうれしい」という子がいました。多文化を持つ人の間に温かい空気が生まれる瞬間に立ち会えるのが幸せです。
・PCAMPの前に行ったプレワークショップの時に、モンゴルの方が急にモンゴルダンスを踊ってくれました。想定しない楽しいことが起こるところが魅力です。
Q.自分は演劇を学んでいて、地元にいるロヒンギャ難民と演劇WSをやりたいので、宗教的配慮について知りたいです。
A.(主催者)募集要項やチラシに、宗教的な配慮は必要に応じて講じると明記し、実際の参加者のニーズに対応しています。(アーティスト)参加者のバックグラウンドについて主催者から共有されるが、むしろ配慮しすぎないように心がけています。アーティスティックな面と運営面を分けて考えたほうがよいのではないかと考えます。
注:ロヒンギャとは、主にミャンマーのラカイン州に在住している国籍を持てない方々。現在、バングラデシュなど周辺国にも多数が避難している。イスラム教徒(ムスリム)が多いが、ヒンドゥー教徒もいる。群馬県館林に約200人住んでいて、日本にいるロヒンギャの9割に当たるといわれている。


第2部「様々な現場から」
VILLA EDUCATION CENHTER(VEC)の活動や「保見アートプロジェクト」を例に、様々な目的・課題意識を持って各地で活動しているアーティストから、その取り組みについて紹介していただき、最後には、登壇者によるパネルディスカッションを行いました。

当初は、現場報告に先立ち、北海道教育大学の閔鎭京氏から概論として「文化芸術がつながる社会へー多様性が力になる未来」というテーマの講演を予定していましたたが、対面参加のスケジュール調整がつかず、動画出演に変更しました。パネルディスカッションのモデレーターも急遽柏木俊彦氏が代役を務めました。講演内容については動画をご参照ください。
VECの活動について(報告者:関根好香氏)


俳優・ファシリテーターの関根好香氏から「VECの活動について」ご報告いただきました。活動のタイトルは「しりあおう・はなそう・あらわそう」です。VECとは、東京女子大学の松尾慎教授が中心になって2014年に立ち上げた団体で、ミャンマー出身の難民を主な対象にした日本語教室や生活サポートを中心に活動しています。
<「しりあおう・はなそう・あらわそう」の概要>
■一般社団法人日本演出者協会社会包摂部の事業
「楽しくつながるプロジェクト」の4つある取り組みのうちの1つとして実施
■VEC(VILLA EDUCATION CENHTER)と協働し、
毎週日曜日10~12時に開催れている「にほんごで話そう」の時間を充てる
■開催回数:全4回
2025年7月27日、8月24日、9月28日、10月12日
■ファシリテーター:関根好香、柏木俊彦
■コーディネーター:村上理恵

報告では、VECの活動や演劇ワークショップを始めた経緯、ワークショップの内容について、写真と映像で共有していただきました。ワークショップの中でスカーフやロープを活用した表現、名前とポーズをセットにした自己紹介、「はい」と「いいえ」だけを使った演劇づくり、音楽を使ったアクティビティなど、参加者が楽しそうに取り組んでいる様子や参加者の声が紹介されました。同プロジェクトの今後の展望として、ワークショップの継続と成果発表を開催していくこと、そして、まだ日本語を学び始めたばかりの方々も参加できるプログラムにしていきたいと話されていました。ワークショップには毎回、東京女子大学で日本語教育を学ぶ学生さんがボランティアで参加していて、ダイナミックな交流と学び、実践の場にデザインされていました。
保見アートプロジェクト(報告者:中島法晃氏)


美術家の中島法晃氏には、愛知県豊田市にある保見団地で実施しているアートプロジェクトについてご報告いただきました。全国的に注目されているプロジェクトの舞台裏、アーティストの皆さんの苦悩と奮闘を知る貴重な機会となりました。
<保見アートプロジェクトの概要>
■活動地:保見団地
■メンバー:愛知、岐阜、神奈川在住のアーティストによる有志チーム
中島法晃(美術家)、赤嶺智也(画家)、新井真允子(画家)、井上珠未(造形作家)、
木全靖陛(画家)、榮菜未子(画家・デザイナー)、松田憲道(映像作家)、
MadBlast hiro(ペインター)、MI(イラストレーター)
■活動歴
2019年 保見アートプロジェクト発足
2020年 県営25棟1階の粗大ごみや落書きがある共有スペースに
住民との協働で壁画制作
2021年 クリエーターズマーケットに招待出展
2022年 県営団地内のごみステーションに中学生との協働で
アートダストボックス制作
2023年 県営団地内のごみステーションに中学生との協働で
アートダストボックス制作
2024年 公益財団法人福武財団 アートによる地域振興2024助成採択
保見アートプロジェクト公式ウェブサイト作成
豊田市わくわく事業助成金採択
豊田市文化振興財団主催「こどもアート縁日」ワークショップ出店
県営団地24棟前アート案内図プロジェクト実施
中島氏はまず保見団地について紹介しました。
自動車産業トヨタで働く人々のために1970年代に建設された保見団地は、1990年の入管法の改正によって一気に日系ブラジル人出稼ぎ労働者が大量に入居するようになりました。同時に排斥運動や抗争も起こり社会問題に。そして、2008年のリーマンショックで所謂「派遣切り」に遭った多くの日系ブラジル人が帰国したものの、近年6千人を超える巨大団地の住民の半数以上が日系ブラジル人やその他の地域出身が占めている状況と言います。そうした団地が抱えている課題について、中島氏は以下のようにまとめました。
- 日系2世、3世の外国につながりのある子どもたちの教育の問題
- 地域づくりのために主体的に活躍する外国人材が育たない
- 多国籍(日本人含む)の順閔の高齢化問題
- 団地の共有スペースでのごみの不法投棄や落書き、放火事件も起きている

中島氏は市民団体からこの4番目の課題をアートで解決できないかと相談されたことがプロジェクトを立ち上げるきっかけとなったそうです。しかし、そのスタートはいばらの道だったといいます。初めてフィールドに足を踏み込んだ時に目にした団地の荒れ様は言うまでもなく、石を投げられ、唾を吐きかけられたりしたと言います。
そこから中島氏の戦いが始まりました。行政や住民と対話を重ね、アーティスト仲間を募り、ゴミ拾いから着手しなければなりませんでした。4000世帯にチラシを配付し、みんなが憩える場所、みんなの団地をみんなの力できれいにしたいと訴え、外国系住民と日本人住民、近くの小学校やブラジル人学校も巻き込んだワークショップや団地でのさまざまな交流イベントの実施に漕ぎつけます。

その努力の甲斐があって、近隣の日本人も来るようになり、団地の外国系住民からも友好的になり、一緒に取り組む姿勢に変わっていき、ついにアートで「憩いの場」を蘇らせました。その後もクラウドファンディングなどで資金調達しつつ、豊田市、団地の住民、周辺の小中学校などと共に、団地の環境改善と住民間交流に取り続けています。
地域がよいほうに変わったと実感するものの、次から次へと異を唱える日本人住民の出現が、却ってアートプロジェクトを続ける言動力になっていると話す中島氏。多文化共生は外国系住民の問題とされがちですが、実は日本人側の共感を得ることのほうが難しいように感じるとおっしゃいました。
報告者によるディスカッション
関根氏が中島氏の活動に対して「自分はつながりのあるところで活動していますが、課題のあるところに飛び込んでいく中島さんはすごい!学ばされました。演劇と違って、壁画などずっとそこにあり続ける成果を残せるのもすばらしいです」と感想を述べられました。
中島さんが関根さんの活動報告に対して「身一つであらゆることを表演できる演劇でいいな、うらやましいなと思いました。PCAMPについての報告から興味深く聞いていたのですが、こうした演劇活動をぜひ保見団地でもやってください」という感想とリクエストをいただきました。

「アートならではの強み、良さは何か」というモデレーターの問いかけに対し、関根氏は「ことばに頼らないコミュニケーションや理解、共有ができるのがアートの力。日本語が不十分でも絵で上手に表現できたり、身体で豊かに表現してくれたり、ことば中心の日常を超えた関係性が作れることがアートの強み」と答え、中島さんも「まさにその通り」と共感していました。
また、モデレーターは「アートは日常の境界を超える」という概論動画の閔氏のことばを引用し、「普段あたっていないところに光が当たって、その人の違う力が引き出される例は?」と問いかけると、中島氏は「小学校の教員に尋ねると顕著な答えが返ってきます。アート活動で児童の隠れた力を発見することが多く、アプローチを見直すきっかけになったと聞きます」と紹介しました。

今後の展望や壁、課題として、関根氏はVECのような活動をもっと社会に開いていくべきだと思うが、どのように展開したらいいのか模索中、と述べました。中島氏は「いちばんは資金難。アーティストは個人で活動しているので、資金の受け皿になれないところもあります。もっと作品づくりをしたいが、気が付いたら資金獲得するためのプレゼン資料を多く作っている現状です」と吐露しつつも、今後も行政からの要望、サポート、地域への聞き取りをベースにプロジェクトを続けていきたいと力強く話されていました。
交流ランチョンと展示コーナー
午前の実践報告終了後、メディアホールのホワイエで交流ランチョンを開催しました。報告会の参加者の皆さんの多くが、主催者側が用意したお弁当、飲み物、各国のお菓子を召し上がりながら、同会場内での展示コーナーを観覧し、登壇者や参加者間で交流を深めました。展示コーナーでは登壇者の活動を中心に展示され、報告会で紹介された活動についてより詳しく知っていただくために設けました。




参加者の声
実践報告会と展示をご覧になった参加者から、多くの感想、メッセージが寄せられました。その一部をご紹介します。
・PCAMPの活動において、「母語の異なる二人が、言葉が通じない中で、たった一つの単語を理解し合うために身体を使って20分間向き合い続けた」というエピソードに強く心を打たれた
・現代社会では効率が優先されがちですが、言葉や文化の壁があっても「相手を理解したい」という真摯な意思があれば、これほどまでに深いコミュニケーションが成立するのだと感銘を受けました。
・アートがボランティアみたいな位置付けではなく、ちゃんと人とのコミュニケーションを産み出す価値があるものとして、きちんと対価をもらえるようになってほしいです!
・保見アートプロジェクトの中島法晃さんのお話は衝撃的でした。安心安全ではないかもしれない場所に、使命感を持ってアーティストの方々がコミュニティに入っていく、なぜそこまでやるのか、もっともっとお話を聞きたいくらいでした。
・閔 鎭京先生の、アカデミックな話が間に入っていたのも俯瞰的な視点でこういた取り組みの位置づけを理解できてよかったです。
・社会課題解決の手段としてアートプロジェクトが活用される際に生じる問題点や葛藤など、普段は言いにくい部分を言語化してくださり、非常に感銘を受けました。様々な困難を抱えながらも活動を持続することで得られる喜びや達成感がどのようなものか、全国で同様の活動に取り組む他のアーティストの皆様にとって、重要な指標となる報告でした。
・関根さんの「はい・いいえ」「ぬれぎぬ」のグループワークがとても印象的でした。このような交流から入れば、ウォーミングUPとして活用できれば良いかなと考えながら拝聴させて頂きました。
・成功事例や良いことばかりでなく、葛藤や困難、未解決のまま抱えている課題こそ、他の表現者の方々と共有する意義が大きいと感じました。
T-ART勉強会
報告会に参加した方々の希望者を対象に午後はT-ART勉強会を開催しました。ファシリテーターは長年外国につながる方々を対象とした演劇ワークショップでファシリテーターを務めてきた俳優の本田知恵子氏にお願いしました。アーティストや演劇ワークに関心を持つ方々、報告会登壇者・見学者を含め、約30名が参加しました。

本田氏は、対象者の日本語の習熟度を考慮した体験プログラムを組み、「だるまさんが転んだ」ゲームや絵、ひらがななどを使ったワークを参加者に体験していただきました。絵の情報を身体で表現してみる、ひらがらを身体で形作る、一人ひとりがひらがなになり切って「ことば」になる仲間を探す・・・。日本語ネーティブがほとんどの参加者でも、この新しい「ことば」と「身体」と関係性を楽しんでいました。そして、ワークを体験してもらいながら、各ワークの狙いや効果、アレンジのアイディアが本田氏から紹介され、ファシリテーションの学びにつなげていきました。



参加者の声
勉強会に参加された方々の感想を紹介します。
- ・語学を学ぶことのイメージが、今まで机上のものしかありませんでした。ただ、今回身体をたくさん動かして、なおかつ楽しく学ぶことができることを知りました。たのしく日本語を教えられるようになりたいです。
- ・参加者の日本語習熟度、会の目的に合わせて設計し配慮する。進行よりその時どのような時間を過ごしたいかを考える。本田さんのワークの作り方が良く考えられていて勉強になりました。
- ・配慮しすぎない、相手の力を過小評価しないことが大事だと思いました。
- ・動詞を使った動き・ダンスは、ダンスが苦手な人も一緒に作っていける可能性を感じました
- ・一気に他の参加者との距離が縮まり、終わったあとは、仲間を得たような感覚になったので、やはり、「アート」の力も侮れないなあと思いました。



今後の展望
TJFは2025年度のT-ARTネットを立ち上げましたが、今後、T-ARTメンバーの皆さんのご協力を得ながら、そしてメンバーと共に、時にメンバーに寄り添って、様々な地域、団体、関係者と連携し、PCAMP、T-ARTワークショップ、TA研修などの活動を展開していきます。そして、そのような活動をはじめ、全国でT-ARTと同じ志を持って活躍しているアート活動を含め、年に1回開催予定のT-ARTフォーラムにてご報告し、本ウェブサイトなどでも広く紹介していきます。

事業データ
- 主催
-
公益財団法人国際文化フォーラム(TJF)
- 日時
-
2025年11月23日(日・祝)10:00~16:30
- 会場
-
東京国際交流館 メディアホール
- 参加者
-
芸術の力を活かした多文化共生社会づくりに関心のある方 計27名
登壇アーティスト・運営関係者・スタッフ 計20名
- プログラム
-
① 10:00~12:30 T-ART実践報告会
② 12:30~13:30 T-ART交流会Luncheon
③ 13:30~16:30 T-ART勉強会
- 実践報告会の登壇者及び勉強会ファシリテーター
-
◆実践報告会登壇者
柏木 俊彦(演出家・舞台俳優)
田畑 真希(振付家・ダンサー)
坂田 光平(舞台俳優・舞台美術)
長谷川 万葉(舞台俳優・専門学校教員)
税光 華(一般社団法人地域創造 職員)
関根 好香(演出家・俳優)
中島 法晃(美術家)◆モデレーター
閔 鎭京(北海道教育大学 教育学部 准教授)※動画出演
柏木 俊彦(演出家・舞台俳優)◆勉強会ファシリテーター
本田 千恵子(俳優)
- 企画・制作・記録
-
柏木 俊彦(演出家・舞台俳優)
田畑 真希(ダンサー・振付家)山泉 貴弘(映像ディレクター)
渡辺 圭介(映像カメラマン)
藤田 朋伽(スチールカメラマン)進藤 由美(TJF)
長江 春子(TJF)
堀江 真梨香(TJF)












