誰かの快は誰かの不快

武蔵野美術大学

誰かの快は誰かの不快

PEOPLEこの人に取材しました!

加藤路瑛さん

感覚過敏研究所所長

私たちの班のメンバーの中には感覚過敏(具体的には嗅覚・味覚・聴覚過敏)があり、家族や周りの人と感覚に差があることで日常生活の中で苦痛を感じることがある人がいた。しかしこの班のメンバーはこれまで感覚過敏を持つ人が身近におらず親にもなかなか言えない状況であったため、そのような人が存在すると知れたこと自体にかなり救われた面があったと話す。私たちはイヤーマフなどの商品を調べる中で、感覚過敏研究所で感覚過敏のための研究をしている加藤さんのことを知った。さらに私たちと同年代なんだということがとても衝撃的だった。感覚過敏についての普及活動の一貫と同時により多様なバックグラウンドを持つ人々が生きやすくなるような社会を「共生」と捉え自分でも何かできることは無いかと日頃考えていたため、この機会を使いたいと思い、加藤さんにインタビューをお願いした。
〈プロフィール〉
12歳の時に起業し、株式会社クリスタルロードの代表取締役社長を務める。また、2020年より感覚過敏の課題解決を目指して感覚過敏研究所の所長を務めている。18歳、大学1年生。

感覚過敏ってなんだろう?

感覚過敏というのは主に、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの諸感覚が過敏になっていて、日常生活に困難さを抱えている状態のことを言います。感覚過敏自体は病気ではなく症状です。診断方法は、現在まだ発見されていないという状態になっております。

空間と感覚過敏

感覚過敏の症状があっても、やりたいことを諦めない、やりたいことができる社会を作るために主に三つの軸で動いてきまして、感覚過敏の啓発活動、感覚過敏の研究、感覚過敏の対策商品とサービスの開発企画販売になっております。

啓発活動で言うと、例えば感覚過敏を可視化させるために、こういった後ろのキャラクターを作ってマークにして缶バッジにしたり、書籍の出版をしたりとかになりますね。あとは、学校向けの相談シートというのを無料で公開したりもしています。

キャラクターマーク(写真提供:加藤さん)

研究で言うと、感覚過敏の人向けの生地開発を大学と一緒に研究したりしています。あとは、東京大学と一緒に感覚過敏のメカニズム解明の研究をしております。

対策商品とサービスの開発企画販売で言いますと、私が今着ているこの服とかも感覚過敏の人向けに作った、縫い目が外側の服になっていて感覚過敏の人に寄り添った作りになっています。

縫い目が外側の服を着ている加藤さん(写真提供:加藤さん)

一番力を入れているもので言うと、空間事業になっています。五感に優しい空間事業を掲げています。服自体も空間です。「1㎜の空間から100㎞の自由」をコンセプトにしています。私の今この着ている冬用は少しガッチリと作ってあって、囲まれているような感覚を持てるように作っているけれど、逆に囲まれているその肌に少しくっつく感覚が嫌いという方もいるので、そこは、春夏用のもう一個薄いコットンのパーカーを作ったりしています。それぞれ選択肢があることは大切だと思っています。

服で言いますと、まず縫い目を外側にしてタグがないっていうのをコンセプトにしたブランドになっています。ただ単に縫い目を外側にするだけでもいいですけど、裏返しに着ているのではないか?というふうに見られてしまうこともあるので、その縫い目が外側に出ている部分をタイピングテープというものを使ってカバーして、デザインにしていこうという発想です。外側の縫い目もデザインにして楽しんでいこうという形で私は作っています。

タイピングテープ(写真提供:加藤さん)

今、服を開発していますけど、心地いい服の生地は自分の感覚を使って、少しの違いを見つけて、どこがいいか、どこが悪いかっていうのを本当に、数百種類の生地から探します。同じ生地でもロットだったり、作られる季節によっても風合いだったりとか、肌触りっていうのが変わってきてしまってそのロットの違いとかもすぐに気づいてしまいます。長年アパレルをやってる人とかでもよく気づけたね、というような話とかもあります。生地を扱っている会社では、少しの差だと返品できません、といった形になってしまうような違いにも気づいてしまって、それにより、服が着られないとか、そういった課題もあります。

より良い未来を目指して

感覚過敏が個性になったらいいなと思っています。どちらかというと今の現状だと『思っています』、としか言えなくてですね。感覚過敏っていう症状は日常生活に困難さを抱えてしまう辛い症状であって、障害ではなくて症状ですけど、ここではあえて障害って言いますね。日常生活において障害になっているものだと感じているけど、辛ささえ解消することができれば小さな変化に気づける。その過敏さっていうのは才能にもなると思っています。いずれはその辛さが研究テクノロジーによって解消されていって、個性の一つとしてメガネをつけるように認められる、認め合える社会になったらいいなというふうに思っております。現状として個性と認めるには辛い症状が多すぎます。

私の感覚過敏の友達に、よくカップラーメン食べている友達がいるんですけど、いつもとカップラーメンの味違うな、と問い合わせてみたら、工場で故障が起きていたみたいなこともありました。食べ物で言うと、その辛さをなくすことができれば、料理人とかソムリエになる可能性があると思っています。

対策商品を使って感覚過敏の緩和だったり、対策方法っていうのを見つけていくと同時に、感覚過敏の研究をして、そもそものメカニズムの解明であったり、デバイスによって感覚の過敏さのコントロールだったり、薬を使って感覚過敏緩和するというのを目指しています。感覚過敏の根本解決緩和っていうのと、それを才能に活かすっていうのは、両方とも研究して行く必要があると私は思っています。

感覚過敏も、感覚のグラデーションだと思っていて。みんな苦手なもの、そうでないものの、グラデーション、凹凸がある中で、感覚過敏の人たちは、極端に凹凸しているだけで、辛いものが多いっていうような状態だと私は思っています。お互いに辛いことや、迷惑かけあうことって普通人間生きていて誰しもあるものだと思うので、伝えてもいいよっていう雰囲気、空気感を作るのが大切です。日常生活の中で話し合っていくっていうのは大変だと思いますが、そこをまず一歩踏み越えていくっていうのが大切だと考えています。

寄り添い合うことができれば……

まず、気づくには感覚過敏という言葉を知らなければなりません。知らないと、親自身も気づけないし、当時者自身も自分の世界、感じている世界っていうのが当たり前で、誰しも同じような辛さを抱えていると感じている場合もあります。子どもの場合は、親とか先生が知ることが大切だと思っています。だから、まずは感覚過敏だったり、感覚過敏に限らず、目に見えない辛さだったりの症状の認知が広がっていく必要があるのかなと。

大切にしているのは誰かの快は誰かの不快であるという言葉です。例えば、音が一番わかりやすいと思います。音が苦手だからアナウンス全部やめてくれっていうのを話してしまったら、視覚障害で音を頼りに生きている人は、それによって不便を抱えてしまいます。なので、配慮によって多くの人が不便を抱えてしまうものは、私は配慮ではないと思っています。歩み寄るポイントが必要だと。なので、私がよく発信しているのは辛いからやめては違うということ。例えば、この時間はちょっと静かにしてもらえないかとか、私は辛いから、協力してもらえないかみたいな形で一緒に歩み寄っていくっていうのが大切だと思っています。

私が参考にしていて、私の好きな尊敬しているオリィさんという、分身ロボット「OriHime」*を作っている方がいるのですが、障害とは孤独の解消を掲げている方ですね。その人が言うには、テクノロジー障害とは、テクノロジーの敗北である。その言葉を受けて私がお話をするならば、共生っていう言葉がある時点で、私たちは敗北している。障害とは、私たち社会の敗北であるっていうふうに思っていまして、本当に共生とか合理的配慮っていう言葉がある時点で私たちは敗北しているんです。だから、共生という言葉が不要になるぐらいお互いの個性や、見えないその辛さっていうのを尊重していって、対応していくことがまず大切だと考えています。

*2012年に「人類の孤独をテクノロジーで解消する」を掲げて設立された株式会社オリィ研究のアバターロボット。

(インタビュー:2024年6月)

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