目で見るビタミン~ロシアの絵本

東京女子大学

目で見るビタミン~ロシアの絵本

PEOPLEこの人に取材しました!

上野直子さん

出版社カランダーシ代表

上野さんは一人で東京・西荻という町でこじんまりしたロシア絵本の出版社カランダーシを経営しています。また、ロシア絵本を実際に見てもらうために、カランダーシの部屋でオープンルームを開催しています(現在はコロナの影響でオンライン開催になり、要予約)。西荻在住歴30年。ロシア文化との繋がり、ロシア絵本への思い、一人で事業を始める大変さを語っていただきました。

異文化理解への一歩

Q.なぜロシアの絵本に興味を持つようになりましたか?

私が最初興味を持った絵本は、古書店で出会ったソ連時代のアヴァンギャルド絵本とラチョフなどのリアルな描写の動物絵本です。ロシア絵本は、その美術表現、アート的な面を始め、テーマを伝えるメディアとしてとても強い印象を残すものが多いので、非常に見応えがあるものが多いという感想を私は持っています。アヴァンギャルド絵本は、1917年のロシア革命以降、主に20年代〜30年代の10数年間に出版社された前衛的なデザインの絵本です。また、その後のソ連時代には、アーティストの自由な活動が抑制、制限されて社会主義リアリズムっていうものしかアートの表現として認められなかったので画一的になりますが、それはそれでリアリズムを追求した形ですので独特の雰囲気があって、そういうものを見ていると本当に芸術家たちが子どもたちのために残した芸術の足跡、軌跡だなという風に私は感じることができてたいへん魅力的だと思っています。

そして、私は絵本というものはその国の社会とか歴史、また芸術や民衆の文化を映す鏡のようなものだと思っています。それで、その絵本を見ることでその時代、背景、芸術、培われてきた民衆の生活文化などを知ることができると思います。特にロシアの絵本は時代の変革がとても激しかった分、それらの見え方がとてもはっきりしていて、そういうことを理解していくことはたいへんに意味深いことだと思っています。根底にあるのはやはり、日本とは違うなという異文化への興味と憧れがあると思っています。

『しずかなおはなし』(文:サムイル・マルシャーク、絵:ウラジミル・レーベデフ、訳:うちだりさこ、福音館書店、1963年)

 

Q.ロシアにはよく行かれるのですか?

私はロシア語学科出身ではなく、ロシアに留学した経験もなくて、ロシア絵本に興味を持ち出してからロシアに行くようになりました。最初は『うさぎのいえ」という絵本を出版した時でした。作家であるラチョフさんはもう亡くなっていましたが、作家の代理人である義理の息子さんにお世話になったのでご挨拶に行きました。その後もやはり絵本に関係することでロシアに行っています。

著作権の代理人さんと

異文化のコミュニケーション

Q: 上野さんは翻訳の絵本はもちろん、オリジナル絵本も出版していますが、その目的はなんですか。

私自身がロシアの子どもの生活はどんなものかを知りたいのが一つの理由です。そして、子どもの日常的な遊びを絵本で表現して、日本の人にその絵本を見てロシアの子どもの遊びを実際に体験してもらいたいです。ロシアの方とコラボレーションするのが私にとって非常に意味があると思います。それで絵を描けるロシア人の知り合いコズリナさんと相談してオリジナルを作ることになりました。ポピュラーかつリアルのものを絵本の中に入れていますので、ロシアの本当にある部分を感じていただけたらすごく嬉しいことだと思います。

オリジナル絵本の原画展

Q:日本の絵本には子どもに伝えたいメッセージがたくさん含まれています。例えば助け合いは大切など。ロシアの絵本にカルチャーショックをうけたことはありますか。

ロシアは動物の昔話がとても多いです。人間の醜いところが全部、動物の話の中に表れます。絵本の中では、動物にキャラクター付けされています。日本ではオオカミに対して怖くて強いイメージをみんな持っています。ロシアでは、オオカミはお人好しで、オオカミはきつねに騙されるという感じのキャラクター付けもされています。昔話を読んでいると、大抵きつねはずる賢くてそれでオオカミはやや情けないキャラクター設定になっていますね。正義は絶対に勝つ、ではない、最後死んでしまう終わり方もあります。仕方ないという解釈があります。しかし日本においてはそのような書き方は通用しないところがあると思います。かわいそうだという気持ちがまず浮かび上がります。だからこれはとても新鮮だと感じられます。

Q:おすすめの絵本の読み方はありますか。

もちろん子どものためにいい絵本や子どものためにいい読み方など色々あると思いますが、私にとって絵本は作品なので、アートとして楽しんでもらいたいです。テキストを味わって、深い文学の世界を楽しんだり、絵本を通して歴史や美術のことを少しずつ学ぶようになったりします。ロシアの歴史の変遷は絵本にも映っています。絵本を通してその国を見るといいますか。教科書やガイドブックに載っているようなことではわからないことを少しずつ分かっていく、そして刺激をもらえるという感じですかね。これは私の読み方です。とても楽しいです。

陰での努力

Q.一人で出版をする際大変なことはありますか?

もちろん大変です。私は文字の模様からデザインまですべてを自分でやっていますので本当に悩みます。また、一人ですから寂しいと感じる時もありますが出版で一番大変なことは売ることです。いくらいいものを作っても知ってもらえず売れないと仕事にならないです。大きい出版社は宣伝を多くすることが可能ですし大きい出版社が出すものはみんな注目しますが、私は一人ですから大きい出版社と比べてなかなか大変だなと思います。ですから書店さんを回ったりもしますし、お手紙を書いたりそういうことも含めて本を出しましたよと知ってもらうこと、そしてそれが売れることが大切で、一番それが難しいことだと思います。

Q.先の質問で寂しいと言われましたが、そのように心理的に大変な時上野さんなりにすることはありますか?

私は本当にロシアの絵本を見て感動したり、かわいいなと思ったりするので、絵本を見ているとだいぶ心が救われますし、楽しい気持ちになります。絵本というのは子ども向け、大人が子どものために作っているものですから心が不快になる場合もないですし、きれいな色、きれいな模様のものが多いので、それを見て私はずいぶん慰められています。目で見るビタミンと私は言っているんですけど、なんか目できれいな色を見ると元気になります。ロシアの絵本はそのようなきれいな絵本があります。

元気がないとき読む一冊「ヴァスネツオフ作品によるロシアお話集」

Q.出版社を運営しながらやりがいを感じたことはなんですか?

いろいろあります。感想とかを読者の人からいただくことです。3冊目に出版した絵本には布人形の作り方が載っています。読者の方がそれを見てとても気に入ってくださり、作り方を覚えて他の人たちにオンラインで教えました。そういうお話を聞くと本当に絵本を出してよかったと思います。後はパンケーキの作り方を載せているんですけど、子どもがとても美味しいと言ってくれたという読者の声が届くと、とてもやりがいがあるなと思います。

ロシアのパンケーキ

Q.上野さんにとって西荻はどういう場所ですか。

住みやすくてどこかのんびりする空気が漂っています。来ていただくと分かると思いますが私は一人でなにか始めてみたいと思えたのも西荻にいたからというのもあるかもしれません。女の人が一人で自分が好きなものを売っている個人店を見ることもできて、好きなことにこだわっているお店は思ったより多いです。

(インタビュー:2021年6月)

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