彫って、塗ることの深味 ―鎌倉彫―

彫って、塗ることの深味 ―鎌倉彫―

PEOPLEこの人に取材しました!

柏木豊司(かしわぎとよし)さん

鎌倉彫協同組合 理事 / 鎌倉彫資料館 館長[*2019年5月のインタビュー当時]

柏木さんは40年前に鎌倉彫協同組合の訓練校を卒業された後、鎌倉彫の工房 「白日堂」店に就職、12年間漆塗りと彫刻の仕事をされて、鎌倉彫協同組合の理事を務め、鎌倉彫資料館の館長になられました。今回はたくさんの人たちに鎌倉彫を知ってもらうために力を入れておられる柏木さんに、鎌倉彫の魅力について話を伺いました。
鎌倉彫とは、カツラやイチョウなどの木を用いて木地を成形し、文様を彫り、その上に漆を塗って仕上げた工芸品のことで、鎌倉市と、その周辺地域で作られたものをいいます。最近はお盆や、お皿、お茶碗など、生活で実用できるものもよく見られています。そんな鎌倉彫の歴史は鎌倉時代(1192~1333年)にまでさかのぼり、色んな影響を受けながら、現代にまで受け継がれています。

牡丹文 喰籠(鎌倉彫資料館蔵)

お盆(鎌倉彫会館café & shop 倶利 )

Q:この仕事に取り組むようになったきっかけは何ですか。

もともとは自分で何かを作るのが好きで、鎌倉彫には偶然巡り合いました。工芸に進んだのは、会社に勤めている自分が想像できなかったからです。

Q:訓練校で実習を始めた時、一番大変だったことは何でしたか。

今になってみれば、大事なことだったと思いますけど、やはり彫刻刀を研ぐことですね。砥石と小刀を渡されて、夏休みの前まで毎日研ぐことが仕事でした。他には、3mmぐらいの直線を板の上にまっすぐ書いて、それを彫ったりもしました。覚える時間も長くかかりますし、やはり、一本の彫刻刀をずっと研ぎ続けるという勉強なんてほかじゃ絶対できなかったので、当時は大変だったけど、今になって思えば贅沢な時間の使い方でしたね。

Q:記憶に残る作品などはありますか。

お寺の天井に竜を彫る仕事を今、やらせていただいています。一人でデザインして一人で彫る仕事なので、自分の蓄積してきたものを全部つぎ込んで作らなければなりません。一生そういう仕事には巡り合わないかもしれませんから、頑張ってやっていきたいですね。

鎌倉芸術館の入り口に5メートルくらいある板に雲の模様の鎌倉彫を一緒に彫らせてもらったこともあります。普段作っているものより独特なものを作ったり、工夫が必要なものを作ると思い出に残ります。Boeing(大手飛行機会社)の方々がいらして、お盆やプレートに飛行機の模様を彫ってくださいと頼まれたこともあります。飛行機は彫ったことがなかったので、その際はまず出来るかどうかが心配だったんですけど、結局は完成させました。

Q:鎌倉彫の魅力や、楽しいところは何だと思われますか。

買った人にとっては触って楽しめるところがいいかもしれませんね。鎌倉彫は丈夫だともよく言われます。使っているうちに漆が擦り減って下から黒い色が出てきたり、多少傷がついてもそんなに気にならないことが良いところだと思います。使って古くなってもそれが良く見える、魅力になること。そういうところが良いところなのではないでしょうか。また自分たちで作る楽しみもあります。自分の仕事としては、まず木を彫る仕事なので、他の余計なことは何も考えないし、その彫っている時間が結構充実感を感じます。自分で作品として作る時は、だんだん彫りあがっていくところもすごく楽しいです。アマチュアの人も彫ること自体が楽しいとか、充実感があることが楽しいと思ってくれていると思います。最終的に、品物としてはやはりデザインが一番大事ですね。きれいなものが作りたいとかちょっと迫力があるものが作りたいとか、かわいいものが作れたらいいなと思う時もあります。漆のゴミが付いているとか、彫りの失敗があっても、細かい所をみてだめと言うんじゃなくて全体のデザインが品物として大事だと思っています。

Q:自分は伝統文化に関わっていらっしゃる方ですと、伝統を守るということから権威意識を持っているとか、形式にこだわるのではないかとちょっと心配な気もしていましたが、そういうことはありませんか?

それはないですね、鎌倉彫でできることは、なるべく何でもやってみようという主義なので。小学校の体験授業とかでもアニメのキャラクターみたいなものを描いてくる子も多いし、絵本作家さんのイベントで子犬の鎌倉彫などを頼まれたりもしますから、別にどういう図案じゃなくてはいけないというのはないです。鎌倉文学館でのバラ祭りで頼まれてバラの図案を作ったりもします。資料館に展示されているものの中でも、少しとぼけたもの、例えばトラの枕みたいなものも、面白いかなと思って展示してあったりもします。

柏木さんの作品:盛器「流れ」。細かな線は水の流れを表現している。写真提供:柏木豊司

Q:普及のためには、多くの方々に知ってもらうのが重要だと思うのですが、やはり鎌倉彫も機械とかで大量に作る方法を探るべきじゃないでしょうか?

鎌倉彫を応用した商品(ボールペン/鎌倉彫工芸館)

資料館でいろいろ見ていただいて分かるように、機械でできるところがあまりいないんですよ。丸いものは、ロクロで表面をきれいに研いだりするくらいはできるけど、それくらいです。彫刻も、漆を塗ってから磨く作業も全部機械ではできないので、大量に作るのはちょっと難しいです。仮に機械で大量に作ったとしても、鎌倉彫がそのような形で広まるのはどうかなと思います。鎌倉彫は手作業が欠かせないので、職人は必ずいなくてはダメなんです。時代に逆行しているのかもしれないけど、そういうところが鎌倉彫が残っている一つの理由ではあります。簡単にできないところがかえって残っているということです。本当に小さい業界なんですけど、世の中で全員が使うわけではなくても、少しの人にでも理解されて、欲しいなと思ってくれている人がいれば、それで鎌倉彫はこれからも続いていくと思います。だから、簡単に作れるもので作ったから広められる、広めた方がいいと一概には言えないですね。

Q:本質を守っていれば、鎌倉彫は残り続け、その良さを解ってもらえる人を増やすためにもっと自分分たちで働きかけるということでしょうか。

はい、そう思います。鎌倉彫はお土産品としてイメージされている方も多いですけど、資料館に展示してあるものは違います。昔から大切に伝えられてきた品々は彫刻も素晴らしく、漆の色も大変美しいので大勢の人に見ていただきたいですね。

会館の一階では、鎌倉彫の食器を使って料理を出す食堂も運営しています。是非いらして鎌倉彫を楽しんでいただきたいと思っています。

鎌倉彫会館1階で実際販売している料理(鎌倉彫会館café & shop 倶利)

鎌倉彫資料館ウェブサイト

(インタビュー:2019年5月)

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