公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

レポート【前編】「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」− テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座06

環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。

といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。

▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。


「今日の講座ではロープにまつわる3つの話をします。

ひとつめは繊維の素材の話。
ふたつめはロープワークとロープを使った動滑車の話。
みっつめは自然物から繊維を取り出して、それで道具をつくる話です。

それぞれの話がリンクし合うから、どの話を聞いているときもほかの要素のことをなんとなく頭の隅に置いておいてください。……ところでみんな、課題はちゃんとやってきたかな?」

この講座の前に、テンダーさんからはひとつの課題が出されていました。それは「もやい結び」、「プルージック」、「まき結び」、「トラッカーズヒッチ」という4つのロープの結び方をそれぞれ40 回ずつ練習しておくというものでした。

「ロープワークは繰り返し練習しないと身につきません。この講座内ですべての結び方を覚えることは不可能なので事前の練習をお願いしました。でも今日は俺が編み出した秘策があります。それは……『ロープワーク都々逸』です! 都々逸とは、7・7・7・5 の区切りで文をつくる定型詩。ロープワークは手順を覚えにくいから、都々逸を口ずさみつつ手を動かして覚えましょう。それでは、もやい結びからやってみましょう」

「ムーミン目玉に 下まつげ生え 眉越え しだれて 目に刺さる」

<参加者>「ムーミン目玉に 下まつげ生え 眉越え しだれて 目に刺さる!」


「総じて結び目は、強い力が一度加わると締まってほどきにくくなります。しかしもやい結びは、力がかかったあとでもほどきやすい。要はほどけてほしくないときはほどけず、ほどきたいときはすぐほどけるのがもやい結びなんです。そして、ほどけない、ほどけやすいを左右するのは結びによって発生する摩擦の度合いが関係しています」

1. 「結び」は摩擦のコントロール

「結びっていうのは摩擦を活用する技術。言うなれば、摩擦そのものです。例えば、ここに頑丈な何かがあるとする。そしてロープがある。ここにロープをペロンってかけて、こっち側を押さえないとするでしょう。ここで引っぱったらどうなる?」

<参加者>「取れる!」 「抜ける」

「取れるね。何で取れるの?」

<参加者>「摩擦がないから。固定されてないから」

「それじゃあここに固結びをしたら、どうなる?」

<参加者>「留まる!」

「ロープをかけただけでは外れちゃうのに、結びを作るとロープは抜けてしまわない。それは、ロープの先っぽ側が、ロープを引く力で押さえ込まれるから。もちろん、ゆるい固結びだと引っぱった時に抜けていっちゃう。抜ける隙間があると抜けられちゃう。要は、摩擦が全方位から先っぽ側を押さえれば抜けない訳です」

「それではここにもやい結びをやってみる。もやい結びはポールには大して摩擦効かないけど、結び目自体がロープ自体を保持するからほどけない。わかってきたよね? 結びとは、効いてほしい時に効いて、効いてほしくない時に効かせない、摩擦をコントロールする技術の総体です。今日はそれを意識しながら学んでいきましょう」

絶対に効かせたい結び、あるよね。ご縁とか!

「ツルツルした素材のロープを、ツルツルしたものに固定したい。そんなときに役立つのが巻き結びです。たぶん、巻き結びは人生のなかで汎用性の高い結びベスト3に入ると思います。それでは、都々逸でやってみましょう!」

2. 詠って覚えるロープワーク都々逸

「右肩上がりが 気付けばバッテン クロスの真下に シュッとさす」

「これが巻き結び。この結びの特徴はかなり強く引っ張ってもほどけない。何でかわかる?」

<参加者>「引っ張った力で押さえてるから」

「そうなの! 引っ張る紐自体がこっちの結び目を押さえるから、強く引けば引くほど、下側が押さえつけられる。それじゃあ、都々逸でやってみましょう」

<参加者>「右肩上がりが 気付けばバッテン クロスの真下に シュッとさす」

「もうできた。この形がまき結びです。ただしこの都々逸は、両わきが空いてない構造体に使うときのもの。枝とか杭とかちょっと出っ張りがあるときは違うやり方をします。それではみなさん、ロープで神奈川県のマーク作ってください!

神奈川県のマーク

<参加者>「………(わからない)」

「神奈川県のマークは……こんな感じだ!

1本のロープに同じ向きでふたつのループを作る。このループの上下を入れ替えてでっぱりに引っかけてキュッとやると……ほら! さっきと同じまき結び。この結びはトラックの荷台に物を固定するときに使えます。トラックの側面にはピンがあるんだけど、そこに巻き結びをするときは神奈川県マーク式のほうが素早くできる」

「日本の田舎ではトラックの荷台に荷物をスムーズに固定できるかどうかで実力を推し量られる。田舎住まいには必須のテクです!」

「続いてはプルージック結び。プルージック結びこそ、摩擦の真骨頂。ギュって絞って引っ張ると動かないけど、ちょっと緩めるとスライドしてくれる。つまり、太いロープなどに自在に動かせるフックを作れる。それでは都々逸、いきますよ!」

「左袖中 ワイロを入れたら 勢い余って もう一度」

「そして最後にして重要なのがトラッカーズヒッチ。呼び方や亜種がすごくいっぱいあって、南京結びって呼ぶ人もいるし、トラック結びっていう人もいる。この結びというかシステムのポイントは、動滑車の原理によって機械的な倍率を生むこと。ロープを引くだけで理論上は3倍の力を生み出せます。これも都々逸があります。それでは聞いてください。『トラッカーズヒッチ』」

「めくればあなぐら キツネが突っ込み ミミズをひっぱりゃ 釣りの餌」

「動滑車を使うと、ロープを引く長さは2倍になるけど、ただ引くよりも2倍の力で物を動かせる。この都々逸で作った結び目こそ、この動滑車になる部分。トラッカーズヒッチとは、ロープシステムのなかに動滑車をつくって、大きな力を生み出す結びなんです」

ここの結び目が動滑車になっている!

「トラッカーズヒッチは、ふたつの固定物に渡したロープに強いテンションをかけたいときに活躍します。荷台に積んだ荷物の固定や、大きなタープの梁をつくるとき、重たい物を動かすときなど。タープの設営がいい例かな。

大きな木にもやい結びでロープを固定し、もう1本の木にくるっと回してからトラッカーズヒッチでテンションをかける。そこにタープをかけて、プルージック結びでタープをピンと張る。そのタープにハトメがなければ、小石をタープの端に入れて巻き結びでてるてる坊主みたいにすれば、ひっぱる支点も作れる。今日覚えた結びで、だいたいのことができちゃう。結びなんて、重要なものを3つか4つ覚えればだいたいのことができちゃう」

「俺はよく、鹿児島の人のいない海岸に泊まるワークショップをやるんだけど、ロープを使ってタープを張れるといろんなことができる。タープは強烈な日差しや雨を遮り、上に降った雨を集める採水装置にもなる。みなさんは今日、4つの結びを覚えたことでそれができるようになったわけです」

3. 動滑車で小さな力を増幅する

動滑車の話が出たところで、テンダーさんは「定滑車」と「動滑車」の話を始めました。テンダーさんが運営するダイナミックラボには、教育者も訪れるそうですが、教える側の人であっても、滑車の原理の理解には手こずっているように感じる、とのこと。

「滑車の活用では、床と天井が大きな役割を果たすのですが、学校教育では床と天井にかかる力を重視しないから、ややこしくなっている。ここに、人と100kg のおもりがあるとする。この人が何kg 持ち上げたらこのおもりは浮きますか?」

<参加者>「100kg!」

「うん、100kg より大きな力をかけたら浮く。言い換えれば、100kg で吊り合う。上と下に100kg かかってる。何も難しくない。それでは、天井にある輪っかを介して、この人が100kg のおもりを動かすには何kg の力が必要だろう?」

<参加者>「50kg!」「100kg!」

「お! 2 つの意見が出ましたね。原則をお伝えすると、天井にある支点からぶら下がる紐は、左右に均等な力がかかっているときに吊り合う。……ということは、100kg のおもりを動かすには、反対側に100kg 以上加えないと動かせない。答えは100kg です。それでは左右が吊り合うときこの天井には何kg の力がかかっていると思う?

<参加者>「ゼロ!」 「50kg」 「100kg」 「200!」

「すごい、すごい。意見が割れました。それじゃあ想像してみよう。今いる部屋の天井にフックを1個つける。そのフックに紐をかけて左端に100kg、右端に100kg のおもりを吊るしたら天井には何kgかかる?」

<参加者>「200kg」

「そう! ということは、先の問いの答えも200kg。この天井につけたフックこそが、滑車教育でいうところの『定滑車』。そして、定滑車は『力の向きを変えるだけ』と学校では教えている。滑車の授業では、天井にかかる力を解説しないから、わかりにくくなっているんですよ。

それでは、今度はおもりにフックをつけてみよう。そして、天井に紐をつけておもりのフックをとおし、もうひとつの天井のフックを介して、この人がもつ。このときはおもりにつながる左右のひもで100kg を吊るから、左右それぞれの負担は50kg しかない。これが動滑車の理屈です」

<参加者>「わかりやすい!」

「わかりやすいでしょ? もう一歩進めます。左と右は一緒なので、この上の定滑車を介してつながる人にも、紐の左と右と同じ大きさの力がかかっている。だからこの人の負担も50kg です。そして、天井には合計で150kg かかっている、というわけ。『天井にかかる力』を考えるとすごくわかりやすくなるの。……動滑車の原理、おしまい!」

<参加者>「おぉ〜!(どよめく)わかりやすい!」

4. 動滑車の秘密

引く力を半減させる動滑車と、力の向きを変えられる定滑車。この2つを組み合わせれば、小さな力で重たい物を動かせる、とテンダーさん。見本として登場したのは動滑車と定滑車をそれぞれ6個ずつ使った装置。これで重たいおもりを小さな力で動かしてみせる、といいます。

「この装置で注目してほしいのは動滑車とそこから伸びる紐の数。6個の動滑車のそれぞれに対して紐が往復ずつあるから、おもりが100kgの場合、割る12で1本あたりの負担は8.33333……kg となる。つまり、この紐を引く人の負荷も8.33333……kg です。100kg を8kg ちょっとの力で動かせるけれど、その代わり、引っ張る紐の長さは12倍になります。何でかわかるかな?」

そう言いながらテンダーさんは、おもりをまっすぐ待ちあげる場合と、動滑車をつけて折り返した紐で持ち上げる場合の模式図を書きました。まっすぐ引き上げる場合は紐を引いたぶんだけおもりが上がりますが、動滑車を使った場合は、滑車を介した先の紐も引くことになるので、紐を引く長さが倍になります。

「このように、1個の動滑車で2倍引くことになるから、動滑車を6個使った場合は12 倍引くことになる。動滑車は動かす力を半減させる代わりに引く距離を倍増させるんです。そして、それと同時に作業時間を倍増させる装置でもあるんだよね。わかるかな? 1 秒に100kg 引っ張るか、2 秒に50kg 引っ張るかって話なんだけど。どちらも結局100kg のおもりを動かすけど、後者は一度に引く力を半減させつつ、時間を倍増させている。動滑車にはひとつの作業にかかる時間を遅くさせる効果もあるんです。整理すると、6個の動滑車は12 分の1 の力で12 倍の距離を12 倍の時間をかけて引っ張る道具である、といえるんです」

そういってテンダーさんは、動滑車と定滑車をそれぞれ6個ずつ使った装置に5.5kg のおもりをぶらさげました。それを引くのはスタッフの室中さん。見た目の重さに対してあまりに軽いので驚いています。しかし、軽く引ける代わりに、ずいぶんたくさんの紐を引っ張ることになりました。

「今、1.8m くらいを持ち上げるのにずいぶん時間がかかりました。そしてこれだけの紐を引っ張りました。紐にかかる負荷を測ってみると0.6キロ。

本当は12 分の1だと0.46kg のはずだけど、計算が合わない分は滑車の摩擦とかで損失したぶんですね。それでも、0.6kgの力で5.5kgの物を引けました。この原理が実際には何に使われているかというと、ワイヤーで重量物を引くクレーン。工事現場のクレーンのヘッドの中にはこれが入っているから、重い物を吊り上げられるんです」

そして、時間をかけて物を動かしたということは、その反対もできる、とテンダーさん。そういうとテンダーさんは足元に余っていた紐をブロワーの軸に巻きつけました。

軸が回転すれば、ブロワーから送風される仕掛けです。固定していたおもりを開放すると……紐が引かれてブロワーから風が出てきました。

「これで何を見せたかったかというと、動滑車を使えば、力の保存もできるということ。6個の動滑車は12倍遅く何かを動かし続けられる。例えばこれを高い塔に作れば、何かの装置を長時間動かせる。あるいは雨がバケツに一定量溜まると動作する機構と組み合わせて、雨の位置エネルギーで物を動かせるかもしれない。動滑車があれば、瞬間的に発生した力を分割して使用することもできるんです。そして、そんな機構をつくるには、紐が欠かせない、というわけです!」

【レポート後編】に続きます。


「テンダーさんのその辺のもので生きる」オンライン講座では、希望する参加者は講座終了後もオンラインコミュニティ「Discord」で、復習の成果を共有したり、わからないところを質問し合うことができます。講座を体験した人たちが知恵を交換する自主的なコミュニティが形成されていくことを目指しています。

このオンライン講座は、2023年3月まで続きます。
▶︎ 全講座のスケジュール

▶︎ これまで実施した講座のレポート
第1回「アルミ缶を使い倒そう」
第2回「棒と板だけで火を起こそう」
第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」テンダーさん執筆)
【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (準備中)
第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(準備中)
【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(準備中)
【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」テンダーさん執筆)
【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(準備中)


[取材・執筆 : 藤原 祥弘]
[編集 : テンダー]
[事業担当 : 室中 直美]

事業データ

「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第6回)

期日

2021年10月3日(日)

実施方法

オンライン

主催

TJF

講師・企画協力

テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/

参加者

中高校生〜大人 30名(日本、オーストラリア、スイスから参加)

サポーター

井上美優さん、岡崎大輔さん、堀江真梨香さん、松尾郷志さん