公益財団法人国際文化フォーラム

日露交流報告

交流学習で得た学び

2015年に始まった日露交流プログラムは、日本語・ロシア語を学ぶ高校生と教師の交流をロシア、日本で交互に行ってきました。2018年度は1年にわたる交流学習プロジェクトを実施しました。参加したのは日露の教師9組18人。「言語学習」「文化理解」「交流」を融合した教室活動をともに考え、協力して実践しました。

4月の事前研修から3月の最終発表にいたるまで金孝卿・早稲田大学准教授にプロジェクトアドバイザーとして参加者に伴走してもらいました。この交流学習を、日露の生徒が交流を通じて学ぶことだけでなく、日露の教師が協働し実践することを通じて学ぶことを目標とする「プロジェクト型研修」と位置づけたのです。

事前研修では、プロジェクト型研修の枠組みと考え方、交流学習計画のフォーマットなどを共有しました。ペアで作成した言語・文化・交流の各項目における学習目標、手順、評価に対して、目標と評価の整合性や活動と目標のつながりなど金先生がひとつずつフィードバックしました。各ペアはバージョンアップした授業計画をもとに実践に移りました。

交流学習に感じた手応え

11月にサンクトペテルブルクで中間発表を行い、市内の日本語教師も含め41名が報告を聞きました。またその後実施したプロジェクトメンバーの会合では、各ペアで目標、学習活動を含め当初立てた計画を見直しました。

そして1年のプロジェクトの総まとめとして3月にオンラインで最終発表会を実施し、ロシア側はモスクワ、サンクトペテルブルク、ノボシビルスク、日本側は北海道、青森、秋田、富山、東京各地に在住のプロジェクトメンバー全員が報告しました。また、日本とロシアのほかに、ハンガリー、オーストラリアからも参加があり、総勢40名近くをオンラインでつないだ報告会となりました。

9組の活動はそれぞれの状況に合わせたもので、例えば、サンクトペテルブルク583番学校とペアになった青森県立青森南高等学校では、一学年全体を巻き込み、英語とロシア語を使って「将来の夢」「今、夢中になっていること」をテーマにビデオをつくり、そのビデオを使った活動、富山高等専門学校とロシアキリスト教人文アカデミー付属カレッジでは、カレッジ側がロシアの文化がよく表れている昔話のアニメに日本語の字幕をつけて紹介し、高専側はそれを視聴して感想や質問を返すことを通して、日本語とロシア語、日露それぞれの文化の違いを学ぶ活動でした。

「プロジェクトのおかげで、生徒たちは初めて直接日本の生徒たちと話すことができました」「日常の業務で忙殺されているときはしんどいと感じることもありましたが、マンネリ化した授業のスタイルを一新させる布石となった」など、参加した教師たちは、交流学習に手応えを感じ、ほとんどのペアは今後も交流学習の継続の意志を示しました。なかには、青森南高等学校とサンクトペテルブルク583番学校のように学校間交流に発展したケースもありました。

つながりが学習意欲を高める

依田幸子
北海道札幌国際情報高等学校教諭

プロジェクト実施期間にいくつかの活動を行いましたが、予想以上に生徒の反応が大きかったのが「小さな贈り物交換」でした。ペアとなった相手に、メッセージを添えて小さな贈り物をする活動です。それまでに行っていた手紙交換の内容から、相手が喜んでくれるものを想像してプレゼントを決め、贈ったあとも「喜んでくれるだろうか」と心配していました。実際にプレゼントを受け取る場面をお互いの教師がビデオ撮影し、開封したあと笑顔で「ありがとう!」と言っている場面をそれぞれの教室で共有しました。プレゼントした物だけではなくて、お互いを思いやる気持ちが届いて、あたたかい心がつながる交流となったのです。つながりを感じることができるこの交流学習は、生徒の学習意欲に大きな影響を与えました。

今回のプロジェクトでは、教師同士で教材やアイディアを共有したり、ペアの相手だけでなくさまざまな先生にアドバイスをもらったりしました。そのことで、多角的なアプローチ方法を手に入れることができました。先生方とはプロジェクトが終了したあとも、今なお良い交流が続いています。

交流学習のプロセスで教師が得た大きな力

金孝卿(キムヒョギョン)
早稲田大学日本語教育研究センター准教授

私が想定していたよりもダイナミックな変化が先生たちに起こりました。特に大く変わったのが11月に顔を合わせて会合を行ったときでした。ペアごとに最初に立てた計画を見直した結果、学習目標も手順もより具体的で実践的になりました。例えば直接交流ができない場合は無理してコミュニカティブな目標を立てるのではなく、母語を使ってやさしく説明するようにするなど、現実に照らしたことでそれぞれの活動に多様性が出てきました。そして特徴的だったのは、言語を何のために使うのかが強く意識されるようになったことです。目標言語を使うことだけにとどまらず、母語での活動を促したり、論理的に考えたりといった活動が入ってきました。スキルや方法だけではなく、なぜその活動が必要なのかという根本的なところの議論になっていたのだと思います。

交流そのものは経験したことがあっても、交流学習は初めてというペアもかなりいました。単に交流するだけでなく、それを学習におとしこむためには目標をもってデザインすることが重要です。さらに、交流学習は教室対教室で終わるものではありません。ほかの教科の先生からも協力を得るのか、学校全体を巻き込むのかなど、どんな交流の場をつくるのかを考えて、周囲の人たちに働きかけなくてはいけません。教師の協働なくしては交流学習の実現は難しいのです。

教師が一緒に何かをするのはものすごくエネルギーのいることですが、歩調をあわせゴールに向かう経験は教師にとって大きな力になります。さまざまな情報に簡単にアクセスできるようになりましたが、こうした活動のプロセスを体験することでしか教師の真の成長はないのではないかと思います。このプロジェクトではまさにそのプロセスをみなさんが対話を通して経験したのです。

交流学習プロジェクトに取り組んだ9組の交流学習プランと実践報告を報告書にまとめました。

※事業報告『CoReCa2018-2019』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。