公益財団法人国際文化フォーラム

日露交流報告

日露の教師・生徒をつなぐ

日本でロシア語教育を実施している高校は30校。高校ロシア語教育をサポートしたいという思いをもった大学の先生と出会い、TJFの高校ロシア語教育事業がスタートしました。日露で互いの言語を教える教師、学ぶ生徒をつなげたいと考え、第一弾として、2015年8月、ロシアの日本語教育の拠点であるモスクワとノボシビルスクから6名の日本語教師を招聘しました。滞日中に日露合同教師研修を開催。2016年は研修に参加した日本の教師と、生徒がロシアを訪れて交流します。

©但馬一憲

外国語を学ぶことの意味と醍醐味を伝えたい

遠藤雅公
北海道札幌丘珠高等学校教諭

©但馬一憲

私は20年以上前からロシア語教育に携わっています。稚内で高校の英語教師をしながら地域の方々を対象にロシア語講座を始めたのがきっかけでした。わかりやすく、楽しく、そして文化も学べる内容をめざし、いつも手探り状態で取り組んでいました。今も心境は同じです。
本校のロシア語の授業は3年生の選択科目として週2回行われています。1年間でできることは、自己紹介や挨拶表現、名詞の格変化や動詞の変化の一部に限られ、初級の文法を網羅することはできません。しかし、進度にこだわらず教科書から離れたことも随時取り入れています。例えば、私自身がロシア語を学ぶきっかけとなった、シベリヤに抑留された父の体験談を、まず初めの授業で紹介します。生きる術として片言のロシア語を駆使していたという話から、語学の大切さが伝わるからです。また学生時代に没頭した学園祭でのロシア語劇の一場面を披露したり、民話や詩、ロシア民謡やロシア語に訳された日本の歌なども取り上げます。大学から先生を招いて講義を聴いたり、調理室でボルシチやペリメニといったロシア料理を作ったりもします。意欲の低い生徒もいるなかで、みんなが興味を失わずに授業についてこられることが必要なのです。幸い大学のロシア語学科に進む生徒もいます。

昨夏に参加したTJF主催の日露合同教師研修では、日露の先生といっしょに学習言語で自分の町を紹介する授業について考え、私の授業ではビデオをつくることにしました。実施するには周到な準備が必要ですが、生徒は座学では味わえない達成感が得られるでしょう。今までにない教育実践につながる可能性が見えてきました。
北海道はロシアから最も近い隣国です。もっとロシアやロシアの人びとのことを知るためにも交流は大切です。今年はロシアへ日本の高校生が派遣されて現地で交流します。この交流が発展し、外国語を学ぶ目標や醍醐味を再発見することにつながってくると思っています。

日本語と日本への関心をもち続けてほしい

モスクヴィナ・オリガ
ノボシビルスク市立ITリツェイ学校教師

©但馬一憲

私が日本語に出会ったのは大学のときです。その頃、ノボシビルスクで日本語を学べる大学はほとんどなかったのですが、幸運にも私の大学には日本語の授業があったので、第2外国語として日本語を選択しました。日本語がとてもおもしろいと思ったのです。

大学卒業後、日本語を教え始め、今年で21年になります。生徒には、大学で学ぶことや将来の仕事の内容に関係なく、日本語と日本の文化にずっと興味をもち続けてほしいと思っています。この思いは21年間ずっと変わりません。ですから、私は生徒たちが日本語や日本の文化に関心をもつような授業をしたいと思っています。授業の半分は、日本の歴史や習慣、文化などについて話をします。生徒は自分がおもしろいと思っていることをみんなの前で発表します。そのとき1年生はロシア語ですが、2年生は日本語で挑戦します。学校の外にも積極的に出かけて、日本の絵や映画などを観に行ったりします。毎年学校で行う「東洋文化日」に友だちといっしょに多くの卒業生が来てくれることは私の喜びです。

昨年、日露合同教師研修に参加して、ロシア語を教えている先生方と初めて交流しました。先生方とは、どんな宿題だと生徒が興味をもつか、どのように宿題を出すといいかなど、すぐに話がはずみました。ロシア語の授業で、ロシアで若者に人気のある歌やアニメをよく使うようですが、その内容にも興味がわきました。

東京で会った先生と生徒が今年、ノボシビルスクにやってきます。私の生徒に、ロシア語の先生が授業を行ってくれることになっています。私たちもロシアの学校を皆さんに体験してもらいたいと思っています。生徒たちはその日を今からとても楽しみにしていて、日本語を学ぶ動機がよりはっきりとしてきています。きっといい出会いになると期待しています。

ロシア語教育のいま

林田理惠
大阪大学教授

近年、「グローバル人材の育成」が課題となっているが、外国語教育は英語に収斂されつつあり、複言語には向かっていない。大学でのロシア語教育もしかりである。大学につながる教育として重要な高校のロシア語教育の現状を調査した。

ロシア語教育実施校は、ロシアと交流が深いか、ロシア系住民が比較的多い北海道、秋田、新潟、富山などに集中している。歴史的な対露イメージやロシア語そのものに対するイメージから学習者が増えないことは想像に難くないが、理由はもっと本質的なところにある。 まず第一に、人員配置がうまくいっていないことである。ロシア語担当教員が異動、退職したときに後任が見つからず閉講に追い込まれるケースがある。一方で、ロシア語の免許をもちながら活用の場がない教員がいる。次に、授業時間が少ないために、明確な学習目標を設けられない。そうなると教材や指導方法も決まらないため、十分な学習成果が得られなくなる。さらに、高校生に適したロシア語教材も未整備である。

中等教育の外国語教育で大事なことは、多文化・多言語社会に向けて垣根を取り払い、共生社会を築いていこうとする意欲を育てることであろう。そのためにも、上記の課題解決に向けて、高大間の知恵と経験の交流・連携が求められる。

事業データ

互いのことばの教育に取り組む日露の教師交流プログラム(招聘)

期間

2015年8月7日(金)~12日(水)

場所

千葉、東京

主催

日露青年交流センター、TJF

助成

(一社)尚友倶楽部

協力

全ロシア国立外交文献図書館「国際交流基金」文化事業部

参加者

ロシアの高校日本語教師6名

※8月9日(日)~10日(月)に日露合同教師研修を林田理惠(大阪大学教授)科研、横井幸子(大阪大学講師)科研と共催した。

※事業報告書『CoReCa2015-2016』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。