自販機コーヒー。亀井みどりさん

  • 記事更新日:

初めて食べたあの味、忘れられないあの味......。そうした味の思い出をもっている人は多いと思います。そして、それはただおいしかった、まずかった、というだけでなく、そのときいっしょに食べた人や光景などを脳裏に蘇らせるのではないでしょうか。このコーナーでは、もう一度食べたい味(My Gochi/マイゴチ)と、それにまつわるエピソードをお届けします。

2007年から2015年まで韓国の大学院で学び、現在は複数の大学や機関で韓国語を教える亀井みどりさん。「外国語学習のめやす」マスターでもある、そんな亀井さんのGochiは?

*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*
 自販機コーヒー
*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*

私が韓国に留学した2007年当時、大学の自動販売機では、紙コップ一杯の「ミルクコーヒー」というものが150ウォン(約15円)で売られていました。砂糖と粉末クリームがたっぷり入った甘い味のコーヒーです。

それほど美味しかったとも、健康的な飲み物だったとも言えませんが、授業の発表準備や論文に追われ寝不足の状態でやってくる大学院生たちにとって、建物の入口付近で気軽に買って飲めるそのコーヒーは、眠気覚ましの一杯、気分転換のための一杯、食事をする暇もないときに空腹を紛らわす一杯......というように、なくてはならないものでした。

また、勉強していて集中力が切れると、「コーヒー、飲まない?」と言って、同じ自習室にいる友人を誘い出し、紙コップを片手に立ち話をすることも少なくありませんでした。今振り返ると、その何気ない一杯が、気ぜわしい心に余裕を与えてくれたり、周りの人とのコミュニケーションにおける潤滑油のような役割をしてくれていたのだと思います。

時は流れ、私が帰国する頃になると、大学の周りにはおしゃれなカフェが増え、コーヒーへのこだわりを持つ人も多くなっていました。キャンパスのいたるところにあった自販機が、今でも当時のような存在感を残しているかはわかりません。私自身、日本に戻ってからは、甘いコーヒーよりもブラックを好んで飲むようになりました。それでも、どういうわけか、忙しいときや疲れたとき、あの自販機コーヒーが無性に飲みたくなることがあります。