社会と繋がる......それこそが、生きること。牧野文幸さん

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牧野文幸さんは高校2年生のときプール事故で頚椎を損傷し、首から下の自由が利かない。その牧野さんが書道の通信教育で2004年に教授免許を取得した。 牧野さんが口に筆をくわえて書いていたことを知った通信教育の担当者は驚いたという。牧野さんが描く馬や猫の絵は毛の一本一本まで表現され、書は力強くな めらかだ。そんな牧野さんの「んじゃめな!」

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◎社会と繋がる......それこそが、生きること
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事 故後、目標にしたのは復学でした。校長先生が2週間に1回、多いときは毎週のように病院に通ってくれました。「頑張れ」ということばではなく、何気ない 日々の話をしてくれて、それがかえって力強い応援メッセージに感じられました。私を復学させるには大きな壁があったと思いますが、スロープの設置など施設 面、人のサポート体制を整えてくれたおかげで15ヵ月後に復学し、無事卒業できました。

でも、ここからが問題でした。次の目標を設定でき ない。何をやったらいいのか。何ができるのか。悩んでいたときに、理学療法士に勧められ、口に筆をくわえて絵を描くようになりました。復学に向け口に筆を くわえて文字や簡単な図形を書く練習は入院中にすでにしていたので、絵を描くこと自体はそんなに大変ではありませんでした。

ただ油絵の具 は重いので、なかなか進まず、4号(33×22cm)キャンバスの絵を描くのに4ヵ月かかりました。そんな始まりでしたが、しばらくすると油絵の具にも慣 れてきました。私は馬が好きで、馬の絵をよく描きます。勢いよく馳せる姿に生命のエネルギーを、静かに草を食む姿に生きる本質を表現したいと思っていま す。

所属している「口と足で描く芸術家協会」では各地で展覧会を行い、同時に実演も行います。油絵だとどうしても過程の一部しか見せられ ないので、短時間でできあがる色紙に書を書くようになりました。そのとき、どうせプロフィールに書くのなら、一番上の教授免許がいいと思って、通信教育を 始めたのです。そして、3年後に教授免許を取得しました。

書では大筆も小筆も使います。大変ですねとか、すごいですねとか、よく言われま すが、みなさんが思っているほどではありません。きっと書は手で書くものだと思っているからそういうことばが出てくるのだと思います。私も口で書くように なって気づいたのですが、書は「身体の中心軸」で書くものなのです。小さい頃から事故に遭うまでずっと書道をやっていたので、身体がその軸を覚えていたん ですね。

「口と足で描く芸術家協会」では、私が描いた絵をポストカードやTシャツなどにして販売しています。それらが売れると大きな喜び になります。私にとって、書道と絵は、社会に参加する術であり、生きることそのものです。「描くこと」に出会えたことで、「死んでいないだけ」の人生が 「確かに生きている」といえるものになったのです。


くりっくにっぽんアーカイブ
「書道:古くて新しい自己表現」
https://www.tjf.or.jp/clicknippon/ja/archive/docs/TB24_J.pdf


口と足で描く芸術家協会、アーティスト紹介ページ
http://www.mfpa.co.jp/gallery/makino/index.html

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