社会と人を繋ぐデザインの「新しい価値」

社会と人を繋ぐデザインの「新しい価値」

PEOPLEこの人に取材しました!

若杉浩一さん

デザイナー

2019年、武蔵野美術大学に新しく創設された、クリエイティブイノベーション学科。新学科の教授として赴任してきた若杉さんは、デザインの「新しい価値づくり」をテーマに、新学科創設に携わり、現在、武蔵野美術大学と無印良品が提携する新しいプロジェクトを行なっている。本来顧客に向けられるのがデザインというものだが、昨今のデザイン業界は社会ではなく、会社、マネーに向けられてしまっている現実がある。そのような現実により生まれてしまった境界を壊すために若杉さんは「新しい価値」を提唱している。その「新しい価値」とは何なのかを聞くため、私たちは若杉さんにお話を伺った。

デザインと社会に存在した「境界」

僕は、四月からこの武蔵野美術大学新学科に関わることになるまで、ずっとプロダクトデザイナーをやってきました。いわゆるインハウスデザイナーです。インハウスデザイナーなので、当然、企業の収益のためにデザインをします。結構、商品をつくって、それなりに成功を収めました。

でも、なんかおかしくない?って。売り上げても売り上げても、とめどなく売り上げ続けて。まるで悪の手先ではないかと思うわけですよ。
だってそうじゃない?企業が大量のものを売るということは、地域のものづくりを壊していくことだからね。企業の成功の過程で、後ろにある地域の産業を壊している。20代で自分の成功の裏側にある出来事に関心が及んでしまったのですね。
そうじゃないデザインがあるんじゃないかと思ったら、デザイナーをクビになった。会社の中では不適合扱いで、10年くらい会社の中で窓際をやって荒くれた。それでもデザインをやりたくて、10年後にデザインチームに戻ってきた。そしてデザインを続けていくにあたって、デザインチームの外側の事情をもっと知りたいと思ったんです。つまりお客さん、消費者、企業のためにデザインするという経済のデザインの後ろ側に、そのデザインが及ばない地域とか社会とかに向かってデザインしたいと思ったんです。意味不明だよね、お客のいない、お客が誰?みたいな。

お客さんがあるからデザインがあるわけです。お客さんの中には地域の人も都心の人もいる。でも、地域の人はデザイナーに助けなんか求めていないんですよ、我々デザイナーが困っていると妄想しているだけで。だから、そこで顧客の為でなく、自分がやりたいデザインをやる、そんなアート的な視点を持ったデザインがあるんじゃないかと考えたんです。

宮崎県日南市子育て支援プロジェクト

どの地域でも共通することだけど、子育てって母子が孤立するんだよね。田舎も昔とは変わって、近所の人や親戚とのつながりが薄くなってきている。だからそんな昔のような関係を地域で再生したい。そう考えたんです。


ある時、元々宮崎で活動していたつながりで、そこの仲間であった一人の日南市の職員から声をかけられました。宮崎県日南市で子育て支援施設をつくりたいが味方がいない、と。自分たちではデザインができないから手伝ってくれないかと言われました。そこで一緒に取り組むことになりました。そして、できたのが子育て支援施設「ことこと」です。
「ことこと」では二年間、様々なワークショップを行いました。その結果様々な産業の方とつながって、地元の高校生とかいろんな人がおもちゃづくりとか色々なデザインに参加してくれました。そういうつながりを二年間もやったら、いろいろ盛り上がってコミュニティが出来上がるよね。そうして子どもを世話してくれる大人がたくさん現れて、町の人口を超えるくらいの人が来て、商店街でも商品が売れ始めた。
でも、これ、都市部だと難しい。地元である程度素性が分かる人間でないと、今は迂闊に子どもに関われないからね。地域だからこそできるプロジェクト、と言えるでしょうね。

「新しい価値」を提唱する

今まで私たちがやってきた活動って、経済をつくる活動で成功することに向かっていっていたわけです。そのためにデザインが存在していた。もちろんそれを否定するつもりはないし、そこは厳しく新学科で教えていきます。
でも、もう一つ大切なことがあって、それがアート的な側面です。やりたい、発信したいものをつくる喜び。誰が求めているのかはわからない。でも、とにかくモノをつくってモノをつくってモノをつくる。全然システマチックじゃない。だけど、モノをつくる速度と試行錯誤と失敗とが繰り返されていきながら真実が見え、リスクをとるからあっという間に事業化が起こる。
これが、これからの社会をつくるために必要な運動能力。これを寄ってたかって学ぶ必要があるんじゃないかと考えてできたのがクリエイティブイノベーション学科です。

前者は経済として見える価値じゃない?でも後者で大切にされる、つくりたいという感情って見えないじゃない。でも、それってまさに生きていく喜びでしょう?それが「感動はお金になるのか?」と見える価値ばかりを重視してきた我々が、見えない故に失ってきた価値、見えない価値なんだよ。
その見える価値と見えない価値の間に価値があるのではないかというのが、新しい価値なわけ。


自分の好きなことが仲間たちやチームに必要とされること。それが幸せの本質なんじゃないか、って言葉があるんだけどね。
みんなそれを望んでいるけど思う通りにはならないでしょう。でも、それが「なんとかなるんだ」って目に見える形になれば、みんながそれに向かっていける社会になる気がしない?それが新しい価値だよ。
そういうものがこの場で生まれたら、忽然と世の中に新しい価値ができあがる。そういうことのためにアートの力、武蔵野美術大学がもともと持っていた力を借りて、新しいムーブメントを起こすのさ、っていうのが、クリエイティブイノベーション学科が、この市ヶ谷にいる目的です。

市ヶ谷から全国、そして世界へ

市ヶ谷のMUJIの店舗が地域の新しい学び舎になって欲しいんです。お店に地域の人の産業が並んで、それがグローバルに羽ばたいていく。そしてこの取り組みを、地域のMUJIができるようになってほしいんですよ。そうしてデザイナーが様々な地域で働けるようになる。そういう社会を目指しているんです。

MUJIの情報力ってすごいんです。ワークショップをするとすぐ満員になって。MUJIファンが全国にたくさんいるんです。そしていずれはそれを発展させて、新しい価値を日本だけでなく世界へ広げていきたいと思っています。
地域の美味しいもの、地域の資産を見つけて来て、デザインし、それを発信していく。全国に店舗があるということは、それだけで強力なネットワークになるからね。全国のMUJIの店舗で新しい価値に基づいた取り組みをして、新しい価値が地域に浸透すれば、あっという間に全国に広まっていくんですよ。

市ヶ谷MUJIの完成イメージ図

建設途中の市ヶ谷キャンパス

ここ市ヶ谷では学生の作った商品も販売するんです。無印に基づいたものもあれば、ここにきた地域の先生たちとつくる様々な商品もある。
このMUJIは発表の場で売り場だと思っていい。場合によっては店舗で講評会やるか、みたいな話もしていて。だから市ヶ谷にいる一般の人たちが講評を見て「おもしろい」と言ってくれるかもしれないし、厳しい意見をもらうかもしれないし。
直接エンドユーザーと繋げられる、というのが面白いよね。学校だと専門家しか集まらないけれど、市ヶ谷では場所柄、小さい子供から企業の人、近くの大学の先生まで、見る目線が多様性を帯びている。そういう新しい学び舎として、ここ市ヶ谷MUJIをデザインするんです。

(インタビュー:2019年6月)

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