和の庭を取り戻す

武蔵野美術大学

和の庭を取り戻す

PEOPLEこの人に取材しました!

村雨辰剛(むらさめたつまさ)さん

庭師

スウェーデン生まれ、スウェーデン育ちの庭師。メディア、SNSに多大なる影響力を持つ。母国とはなるべく違う環境と文化の中で生活してみたいという気持ちがきっかけで日本に興味を抱く。23歳の時にもっと日本古来の文化に関わって仕事がしたいと思い、造園業に飛び込み見習い庭師に転身。26歳の時に念願だった日本国籍を取得、村雨辰剛と改名。

日本文化との出会い

Q:日本の文化に興味を持ったきっかけはなんでしたか?

歴史とか文化が好きで、アジアの歴史の方が長いし文化もあるから自然とアジア文化の方に興味があったんですよ。高校生の時に受けた世界史の授業で日本が結構紹介されていたっていうのもあって日本にすごい興味が出た。日本の戦国時代とか武将だったり、武士道っていうところに魅了されて。それは精神面であったり、日本にしかない感性をもっと知りたいって思って興味を持った。飛び込みたいっていう国はやっぱり特別な国がよくて、それが日本かなって、その段階でわかったんですよ。

Q:帰化に向けての心持ちは?

帰化する前に自分を振り返ってみたんです。最初持っていた日本に対する気持ちはあるのか、まだそんな情熱あるのかな?自分には、と。でも初心と変わってないんですよね。日本が好きだし、その日本にいる自分がワクワクするし、このまま日本で死にたいって思う気持ちがあったから。そのぐらいの気持ちがあるんだったら帰化しようって思った。日本で一生生きていく覚悟、庭師になって日本庭園を伝えていく覚悟として。一人前の庭師としては日本人でいったほうが筋が通っていると思った。それが庭園と日本に対する愛情の形だったかなって。
見た目は一緒じゃない?そこは変わらないから。そして周りからの態度もまったく変わらない。じゃあ何が変わるかって言うと自分の中の気持ちが変わる。最初は違和感があったけど、自分が日本人のつもりでその人と接するようにできるようにもなった。あと大きく変わったことは海外旅行なんか行く時に日本のパスポートで村雨辰剛って書いてあって僕の顔があるんですけど、なかなか入国させてくれないんですよ。すごい3度見4度見されるし、結構海外行く時に珍しがられる。あまりこういう人はいないから。最近は徐々に慣れてきました。日本国籍に帰化する外国人がいるとしても大体今では名前を変えたりしないんですよ。僕はそこをこう、こだわりを持ってわざわざ変えているんですごい違和感があるんでしょうね。

Q:越境したからできることってありますか?

より多く言語を話せることでいろんな人とコミュニケーションを取れるから、いろんな考え方と意見を聞けるようになるんですよね。自分はその辺に柔軟性を持って考え方を受け入れることができる。世界の視野が広がるんですよ。物事の考え方とかこれはこうだって言い切る前に、自分の経験したものとか聞いた考え方とかでいろんな考えが出来上がっていくんです。それを参考にしてより良い結論を出せると思う。いろんな国を知っていると生活が違うから、非常識だったことが常識だったりするかもしれないので考えが柔軟になりますよね。対応できるようになるっていうか。そういう世の中になればもっと戦争とか人間同士が対立することも減ると思うんです。結局お互いのことを知らないから怖いのであって、それで防衛的になる。だから言語を話せるだけいいと思います。

庭師の仕事

Q:庭師の仕事をして嬉しかった出来事はなんでしたか?

それまでできなかったができるようになったこと。自分の作品(庭)が目の前にあるからそれを並べてそれが評価されるし、自分でも見て比べることもできるし、自分が成長できたっていう実感があるから。庭って職人的な要素が強いし、結局はお客さんと相談して自分の頭の中から引っ張り出してその風景を実際に作ることだから、芸術的要素がすごく強いですね。その自分の頭の中で描いた風景がどれだけ現実的に作られるかっていうのは職人の技術。やっぱりアートですよね。

写真提供:ワイエムエヌ

Q:職人として自分に足りない部分はありますか?

僕のこだわりとしては和の庭を日本に取り戻したいと思ってやってるんで、まだ和に対する理解が足りないと思ってる。もっといろんな作品を見て日本独特の美意識、わびさびとかそういうのを勉強したい。これはここに苔が宿っているからいいなとか、それを美しいとして捉えるのか捉えないのかっていうのは、そのわびさびの理解だと思うんですよ。自分がその本来の意味とか本来の美しさを理解できたときには嬉しいと思う。この業界の中で自分はまだ職人としては全然物足りないし、もっともっといろいろ勉強して出来るようにならないといけないと思っています。

メディア活動

Q:初めてメディアに関わる依頼が来たときはどう感じましたか?

最初は不思議な感じで自分がやっていることが変わっているという認識が自分にはなくて。取材を受けた時も「じゃあこれを機に日本庭園が減っていっている状況を伝えよう!」という考えはまだできていなかった。僕は精神の面ではいろいろ挑戦したいと思っているし、主にメディア活動は庭師の延長だと思ってやってるんですけど、それでもどう考えても繋がりがないところもある。でもこれって成長するチャンスだと思っていて。この活動もなんらかの形で庭師として活かせるものだと思うんですよね。

Q:これからの目標は?

もっと成長してメディアを通じてにはなりますが、日本人に日本庭園を伝えてその良さを知ってもらいたいです。今は日本庭園って何なの、その良さはどこなの、洋風がいいって言う人がいくらでもいるからもっと国内で日本庭園の良さを、何十年前に当たり前だった物をもう一度定着していきたいなと思っています。それが定着したときには今度は海外にも伝えていきたいと思います。それこそ僕みたいに日本に興味を持ってくる外国人もいるから、日本に最初に来たときの自分の気持ちになって日本の良さを正しくそのまま伝えられるようになりたい。海外でも日本庭園が正しい形で残っていくようになったらいいなと思います。

(インタビュー:2019年6月)

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