この写真の店は何の店でしょうか。寿の衣、ははーん、ウェディングドレスの店?いや、それは「婚紗」だったっけ?実は「寿衣」とは「死者に着せる着物」のことで、国語辞典には「経帷子」という追記もあり、日本にも入ってきている言葉ですが、一般にはあまり使われていません。韓国でも由来は「寿衣」、スイと言いますが、亡くなったときに着るチマチョゴリ、パジチョゴリを指します。
日本では「寿」はいつでもめでたいときに使われる字ですが、中国では同じめでたいときでも長生きを祝うときだけです。そのため、中国では結婚祝いに「寿」とは書きませんし、日本ではお棺の上に決して「寿」とは書きません。日本でも生前に建てられるお墓を「寿陵(じゅりょう)」といい、戒名を赤い字で書き、より功徳になるとされています。しかし「寿衣」の店は見かけません。今では中国や韓国のように生前に用意する風習がないからなのでしょう。中国では病院の近くに店を構えていることも多々あるそうです。この場合は日本と同様、亡くなってから用意するものでしょうが、日本では考えられないことです。これは中国独特の合理的な考え方なのかもしれません。
「寿陵」や「寿衣」という場合の「寿」は「生前から作っておく」ということです。韓国では、60歳を過ぎたらこの寿衣を用意するという習慣があるそうです。中国でもある地域は50歳になったら自分で布地を用意し、70歳を過ぎたら自分で縫ったり、また孝行の一つとして子供が贈ったりするそうです。生が終わった人に着せる最終の衣服である「寿衣」をあらかじめ準備しておくのは、死を「生の終わり」ではなく、「新しい生の始まり」ととらえる来世観からきているのかもしれません。
日本の経帷子も中国の「寿衣」も韓国のスイも主に自然繊維の麻布で作られます。現代でも、化学繊維は火葬の際に遺骨を汚したり、空気を汚染したりするので、使われないようです。中国の民間の風習では、長寿の老人の葬儀も喜び事とし、“红白喜事”という言い方も存在します。写真にある「寿衣」の店の看板が赤いのもそう考えれば納得できます。またそのため老人用の「寿衣」は色鮮やかなもの、おめでたい模様入りのものも作られます。中国の「寿衣」には服装だけでなく帽子、靴、布団、枕も含まれます。死後身体を清め、清潔な「寿衣」を着せますが、中国の習慣では、年取った親戚が先にそれを着る真似をし、人々の前で「これは子や孫が買ったものだ」と言って孝行を披露するとも言われています。また奇数枚、通常3~5枚の「寿衣」を重ねて着せ、死者の年齢が高いほどたくさん着せ幸福な人生、長寿であったことを表します。衣服を数える量詞は“件”、ズボンなどは“条”ですが、「寿衣」にはそれぞれ古代使われていた“领”と“腰”を使うそうです。
今ではこうして昔の風習も復活しましたが、新中国成立後は葬儀も簡素化が叫ばれ、特に文革中は封建時代の名残を払拭するため「寿衣」の形式も画一されていました。当時はいわゆる「中山服」一辺倒でした。そういえば毛沢東や周恩来が棺の中でそれを着ていたのが思い出されますね。
中国語教師 須田美知子