公益財団法人国際文化フォーラム

学びの探究とデザイン報告

「ねらいや意図をもって人に伝える」CMづくり

小中高校の先生がた向けのCMづくりワークショップの5回めを、大阪で開催しました。CMは、通常15-30秒という短い時間でターゲットに興味をもってもらうために、伝えたいことを徹底的に追求して一つに絞り込み、かつ、どうやったら伝わるかを考えぬきます。その特性をいかして、CMプランナーでもある講師の近藤祐⾒さんに、CM制作のプロセスの一部を先生がたが取り組みやすい活動にデザインしていただき、2015年から実施してきました。

おもな目的はふたつあります。

  • 授業や課外で、プレゼンや発表、発信を⽬的とした制作・創作活動を取⼊れるときに、⼦どもたちが「伝えたいことの本質を探って考えを深掘りする」「探りあてた本質が相⼿に伝わる表現をつかみとろうと格闘する」プロセスをつくるヒントにしていただく
  • 先生ご自身の「伝えたいことを本質まで掘りさげる⼒」と「伝えたい相⼿に伝わる表現」に磨きをかけて、周囲の⼈たちにやりたいことの意図を伝え、巻き込んでいく際に役立てていただく

個別の状況に合わせたていねいなフィードバックができるよう、参加者は6人前後に限定しています。これまで、外国語や国語、社会、理科、美術、商業などを担当する中高校の先生、小学校の先生など、教科や校種もさまざまな方たちが参加してきました。授業や学校行事での生徒の表現・発表活動にいかしたい、入試などの学校広報活動にいかしたいという参加動機が多いようです。

今回は、大阪、岡山、兵庫から、中高校の先生や教員志望の学生さんなど8名が参加し、5月20日(日)と6月24日(日)の2日間にわたって実施しました。

「だれの、どんな態度変容を促したいか」を考える

「CMをつくるのには、商品を知ってもらう、商品を買ってもらう、その会社を好きになってもらうなど、『視た人の態度変容を促す』という目的がある。そのために、『なにを伝えるか(what to say)』『どう伝えるか(how to say)』を考えぬく」。CMの本質を、実際の制作現場の仕事の流れの紹介や、TVやウェブで流れているCMの観察を通して、全員で共有するところからワークがスタート。

今回のお題は、「わたしの仕事」や「わたしの授業」をPRするCMです。具体的にPRしたいことをなににするか、ターゲットをだれにするのか、ターゲットにどんな態度変容をおこすことを目的にするのか。それぞれの参加者にとって必然性のある設定を考えました。たとえば、「生徒主体の学びをめざし試行錯誤している自分の授業について同僚に伝え、いっしょにチャレンジしようと思ってもらう」「自分の高校を、県内の中学生とその保護者に向けてPRし、入学したいと思ってもらう」など。

「いちばん言いたいこと」を一行コピーにする

「○○○高等学校」「わたしの○○の授業」「○○学校○○部」など、それぞれがPRするものについて、その特徴、いいところを、付箋をつかってひたすらアウトプットしていきます。出しきったら、その中からいちばん言いたいことをひとつ選びます。今度は、その「いちばん言いたいこと」が伝えたい相手(ターゲット)にとってどんな魅力やよさがあるのか、思いつく限り付箋に書きだします。めざせ、付箋100枚! もうこれ以上出ない、と思ったところからが勝負。さらにひねり出していきます。

付箋に書き出されたことばを眺めながら、「いちばん言いたいことの魅力」を、ひとつの文章の形に落とし込みます。このときのポイントは、きれいな文章でなくてもいいから的確に言い表すこと。この文章を、ターゲットにとってわかりやすく短い言いかたに磨きあげると一行コピーが完成します。

実は、ここまでが、参加者それぞれが「what to say」「how to say」と格闘する、このワークショップのいちばんのキモとなる時間です。ひとりでどっぷりと考える時間もとりつつ、要所要所で、ほかの参加者や近藤さんにアイディアを聞いてもらい、フィードバックをもらうことで、突破口を見つけていきます。

完成した一行コピーを軸に、CMの大体の構成を考えて1日目が終了。

上映会では相互にフィードバック

2日目は、初日に考えた構成をもとに、iMovieをつかって、写真や動画とことば(コピー)をつなぎあわせ、BGMを入れて、午前中で1分程度の映像を完成させます。

午後からは上映会。一人ずつの作品をじっくり鑑賞し、全員がフィードバックをします。中学3年生をターゲットに、高校のサッカー部をPRするCMでは、サッカー部の練習をフェンスの外から眺めていた中学生が、「越えたい、今の自分も、日本も。」と手をぐっと握りしめて、高校の門をくぐるところからスタートします。その後、ポテンシャルを引き出す専門的なトレーニングや海外遠征の様子、海外のサッカーチームへの所属などの卒業後の具体的な進路実績データが、グランドを走りボールを蹴る生徒の足元の映像と息づかいとともに、テンポよく示されます。最後は、学校の上空からドローンで部員たちが練習するサッカー場にフォーカスしていく躍動感のある映像と「越えられる、日本と自分。」という一行コピーで締めくくられました。

ほかの参加者からは、「ここに入りたい!と期待がふくらみそう」「ここでサッカーをすれば将来世界でも活躍できる可能性があると思えそう」「情報量がちょうどよく、映像とコピーでわかりやすく伝えられている」などのフィードバックがありました。

さっそく授業に取り入れた先生も

2日間のワークショップで印象に残ったこととして、「ふだん頭の中で描いていることをことばで表現することができた」「自分で考えたあとに、他者の意見を聞いて、新たな気づきを得て、また自分で再構築する。自分の授業でいつも大事にしていることを、自分自身が体験する貴重な機会になった」など、「what to say」と「how to say」を考えるプロセスを挙げる先生がたが多くいらっしゃいました。

このワークショップで体験した手法を、さっそく授業にいかしている中等教育学校の先生もいます。総合的な学習の時間などをつかって、生徒たちが、小学生やその保護者向けに学校の魅力を伝えるCMづくりに取り組んでいるそうです。学校説明会での上映を予定しています。

今後も、年に1-2回のペースで実施していく予定です。開催が決まりましたら、TJFのメルマガ「わやわや」やFacebookなどでお知らせします。

(事業担当:室中直美)

事業データ

⼩中⾼校の先⽣向けプログラム「伝えたいこと」を深く掘ってCMをつくる(第5回)

期日

2018年5⽉20⽇(日)・6⽉24⽇(日)

場所

太陽⼯業株式会社⼤阪本社

講師・ファシリテーター

近藤祐⾒・株式会社電通CMプランナー、⼀般財団法⼈⽣涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー

参加者

8名