公益財団法人国際文化フォーラム

外国語学習のめやす報告

「外国語学習のめやす」の広がり

「外国語学習のめやす」(以下、「めやす」)は、高校・大学の教師が協力してつくった、高校から始める外国語学習の指針です。理念や目標だけでなく、具体的な学習目標から授業設計や評価の方法までの全体像を提示しています。

教育理念として「他者の発見、自己の発見、つながりの実現」を、教育目標として、「多様なことばと文化を学ぶことを通して、学習者の人間的成長を促し、21世紀のグローバル社会を生きる力を育てること」を掲げています。外国語教育は、学習した言語を運用する力だけでなく、他者に対する寛容性・共感性・尊重の念、内省・尊感情・自主性・自律性、他者との関係や新たな社会づくりに必要な創造性・柔軟性・責任感などの資質も養うことができると考えているからです。

これらの教育理念と教育目標をふまえて、総合的コミュニケーション能力の獲得を学習目標におきました。この能力は、多言語多文化が共生するグローバル社会づくりに参画し、自律的に生きるために必要な力であり、「言語」「文化」「グローバル社会」の三つの領域で構成されています。各領域において身につけたい能力を「わかる」「できる」「つながる」に分けて示しています。「わかる」は知識・理解目標、「できる」は技能目標(思考・判断、技能・表現を含む)、「つながる」は関係性構築目標として位置づけています。
さらに、三つの領域、三つの能力を強化するものとして、三つの連繫も目標としています。

まず一つめは、授業の中心に学習者をおき、学習者の関心・意欲・態度や学習スタイルにつなげることです。こうすることで学習者は主体的、能動的に学習を行えるようになります。学習ストラテジーを身につけ、生涯にわたって自律的に学習を継続できる土台を作ることができるのです。

二つめは、授業で取り上げる内容を、学習者がこれまで学習したことや経験したこと、他教科で現在学習している内容とつなげることです。これによって学習効果が高まり、外国語学習の内容が豊かになります。

三つめは、教室外の人、モノ(レアリア・生教材など)、情報を積極的に教室に持ち込んだり、また教室外にでかけていったりして、学習を現実社会とつなげることです。これによって学習がリアルになります。
これら三つの領域における三つの能力と三つの連繫が、「めやす」のキーコンセプト3×3+3(スリー・バイ・スリー・プラス・スリー)となっています。これをまとめたのが、p.4の表です。この3×3はどれから始めてもよく、どこから身につけていってもよいものです。
また、言語領域の「できる」力の学習到達指標を、15の話題分野(自分と身近な人びと、学校生活、日常生活、食、衣とファッション、住まい、からだと健康、趣味と遊び、買い物、交通と旅行、人とのつきあい、行事、地域社会と世界、自然環境、ことば)、4レベル別に「~ができる」という能力記述文(cando)で示していることも、「学習のめやす」の特徴のひとつです。

『外国語学習のめやす2012―高等学校の中国語と韓国語教育からの提言』(寄贈版)がダウンロードできます。

「学習のめやす」の理念と目標
<教育理念> 他者の発見・自己の発見・つながりの実現
<教育目標> ことばと文化を学ぶことを通して、学習者の人間的成長を促し、21世紀に生きる力を育てる
<学習目標> 総合的コミュニケーション能力の獲得=3領域×3能力+3連繋
3領域:言語・文化・グローバル社会
3能力:わかる・できる・つながる
3連繋:学習者・他教科・教室外

「外国語学習のめやす」プロジェクト

文部科学省の「わかる授業実現のための教員の教科指導力向上のプログラム」のひとつとして「高等学校における中国語と韓国朝鮮語の目標・内容・方法に関する研究」が採用され、2006年1月に学習の指針づくりに取り組み始めたことが「外国語学習のめやす」プロジェクトのスタートでした。この研究の成果は2007年3月に『高等学校の中国語と韓国朝鮮語の学習のめやす(試行版)』としてまとめられました。

2009年、外国語教育を通じて「人間形成とグローバル社会を生きていく力の育成」を図るためにはどうしたらいいのか、外国語教育の内容と方法について探るために、新たなプロジェクトチームを発足させました。そして、2012年3月、『外国語学習のめやす2012―高等学校の中国語と韓国語教育からの提言』(寄贈版)を完成させ、5,000部刊行しました。中国語・韓国語教育を実施している高校、各地の教育委員会、大学の外国語教育関係者などへの寄贈が終了した後も入手希望の声が多く寄せられたことから、2013年1月に市販版3,000部を発行しました。

「めやす」を活用してもらうために

TJF は「めやす」をより深く理解してもらうための研修を実施するほか、活用方法を紹介するウェブサイト「めやすWeb」を2012年に開設しました。2016年9月には、より多くの人に活用してもらうため、寄贈版をダウンロードできるようにしました。

「めやす」は、中国語と韓国語だけでなく、どの外国語教育にも応用できることから、さまざまな外国語教育関係者に「めやす」を理解してもらうことをめざし、2013年から3年計画で8言語(英・韓・西・中・独・日・仏・露)の教師を対象とする「外国語学習のめやす」マスター研修を実施しました。この研修を修了した55人のマスターが、「めやす」を初めて使う人たちのためにウォーミングアップ研修を企画、実施したり、ロシア語教育用「めやす」を作成したり、学会や研究会で発表したりするなど、「めやす」はさらに大きな広がりを見せています。

めやすWeb

「マイチャレンジ」コーナー

『外国語学習のめやす』を取り入れた授業実践例の概要や評価方法、学習成果物のサンプルなどを紹介しています。2016 年 6 月末現在、8 言語、約 90 件のチャレンジを掲載。閲覧トップ5は、「留学先でかかるコストはどのくらい?―物価を調べてみよう」(ドイツ語、大学)、地域活性化を図るプロジェクト「ご当地グルメ千歳バーガーを海外からの観光客にプロモーションしよう」(英語、高校)、国語教科に「めやす」を取り入れた「主体的に『舞姫』を読む」、フランス語と中国語の合同で行う自己紹介スピーチ「おしゃれなフランス語、かわいい中国語」、地域の中国人を招待する「文化祭で中華模擬店を開こう」です。

「ノウハウ」コーナー

学期のはじめのつかみの授業、語彙や表現の導入方法、ICT 活用術などを紹介しています。

新着の「マイチャレンジ」